著者
鈴木 充 阮 儀三 徐 民蘇 丸茂 弘幸 三浦 正幸 呉 凝
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.241-250, 1990 (Released:2018-05-01)

中国の住宅建築は明清時代を通じて大きな変化をみせなかったといわれている。蘇州市は前514年に建設され,それ以後城市の輪郭線を変えずに現在まで続いてきている都市である。特に1130年に兵火に遭い,再興されてからはほとんど都市構造を変えないまま,近代を迎えたといわれている。本研究はそのような蘇州市を文献資料と民居遺構の両面から解析して,中国都市住宅の歴史的背景を解明しようとするものである。研究は,まず,文献と1239年ごろ刻まれた〈平江図〉を資料にして,現地形に1229年時点の蘇州の市街を再現し,前街后河といわれる水郷都市としての特徴ある敷地割が,宋時代に始まったという推論を得た。従って唐時代以前の住宅地は現在大規模住宅の敷地になっている部分に集約されることになる。遺構面での追及は,民国時代に書かれた建築書〈営造法原〉の分析から,殿庭と呼ばれる富豪達の住宅も基本的には民居の構成方法と変らないことを確かめた。また,実際の住宅建築遺構では,しょう門西北の山塘街揚安浜で明初期から中末期にかけての遺構3棟と,清時代の遺構7棟を発見し,明時代から堂と天井(中庭)と廂防を組み合わせる三合院を基本単位(進)にして,その単位を奥行方向に繰返すことにより,第宅を形成していることがはっきりした。また,これら一串の住宅を落と呼び,主落の両脇に2落3落と並べ1屋を形成することによって大宅が形成され,各落は年代的に異なっているものもあり,周囲の住宅を買取することによって大宅が形成されて行くものと考えられる。山塘街は主として2進程度の小宅からなり,街路空間の構成は,十数メートルおきに道幅の狭広による節づけが成されており,その南に続く揚安浜には明清建築からなる5進3落の大宅があり,更に5進1落系の密集地もあり,前街后河の山塘街と合わせ,水郷都市蘇州の民居を代表する建築空間を有する地区であることが判明し,保存の措置が講ぜられることになった。
著者
トンプソン ワイアット 鈴木 充夫
出版者
北海道農業経済学会
雑誌
北海道農業経済研究 (ISSN:09189742)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.21-40, 1999-09-01

近年のわが国畜産物市場を取り巻く環境は、1980年代半ばからの牛肉価格の下落、1987年以降の飲用乳値の下落等大きく変化してきている。加えて、ガット・ウルグアイランド農業合意は、これらの変化を加速するものと予想される。本稿では、これらの環境変化がわが国畜産物市場に与える影響を分析するための計量経済モデルを開発することを目的としている。このモデルは、トンプソンの開発した畜産・食肉モデルと鈴木が開発した生乳・乳製品モデルをリンクしたものであり、(1)牛肉(和牛、乳用牛)、豚肉、鶏肉及び生乳・乳製品(バター、脱脂粉乳、チーズ)を包括的に含んでいること、(2)生乳・乳製品モデルで、北海道、また、バターと脱脂粉乳の技術的関係を明示的に取り入れた点が従来のこの種のモデルとは異なる。開発したモデルをもとに、牛肉の国際価格、飼料価格、及び所得変化がわが国畜産物市場に与える影響方向を検討した。その結果は以下のとおりである。1.牛肉の国際価格(CIF)が下落すれば、牛肉輸入量の増加をもたらすとともに他の食肉価格の下落を引き起こす。その影響は、乳用牛肉において大きい。これに対し、生乳・乳製品市場へ及ぼす影響は小さい。2.飼料価格の下落は、国内生乳生産を刺激的し飲用向供給量を増加させ、飲用乳価、農家平均生乳価格を引き下げる。北海道から都府県への飲用向供給量が大幅に増加することにより、飲用乳価の下落幅は北海道において大きい。国内の食肉消費量は、ほとんど変化しないが、豚肉、鶏肉生産はわずかに増加する。3.所得の増加は、食肉需要(とりわけ、牛肉需要)と食肉輸入量を増加させるとともに飲用乳価、農家平均生乳価格の上昇を引き起こし、搾乳牛頭数を増加させる。この結果、乳用雌牛と殺頭数が増加し、乳用牛肉価格が下落する。また、所得の増加は、乳製品生産量を刺激する。その影響はチーズにおいて大きい。