著者
鈴木 利一
出版者
長崎大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

春季から夏季にかけて、東シナ海の広い範囲(特に北東域を中心に)で、群体形成藍藻であるトリコデスミウムを採集し、その表層分布の特性と付着生物(トリコデスミウムを特異的に摂餌するカイアシ類Macrosetella gracilis幼生に注目)との量的関係を調査した。細胞糸が複雑に絡み合う群体を形成するこの藻類は、体容積を測定することが困難である為、細胞内に存在するクロロフィルa量でその生物量を指標した。また、この藻類のクロロフィルaと、他の植物プランクトンが含有するクロロフィルaとを確実に区別する為に、20μm目合いのプランクトンネットにより採取されたサンプルの中から、トリコデスミウム細胞糸のみを直ちに実体顕微鏡下で分離し、ジメチルホルムアミド溶媒で抽出した後に、蛍光光度計で測定した。この研究を通してわかったことは、以下のとおりである。(I)塩分が増加すると、トリコデスミウム現存量の最大値が指数関数的に増加した。(II)海水温が増加すると、トリコデスミウム現存量は指数関数的に増加した。(III)植物プランクトン現存量に対して、トリコデスミウム現存量が占める割合はクロロフィル濃度にして0.05〜17%になった。(IV)細胞分裂途中の割合で指標した相対的な細胞増殖速度は、現存量の大小とあまり関係がなかった。(V)Macrosetella gracilisの成体の現存量と、トリコデスミウム現存量との間には量的な関係が見られなかった。(VI)Macrosetella gracilisの幼生の現存量と、トリコデスミウム現存量との間には正の関係が見られた。(VII)ネット動物プランクトンの乾燥重量とは負の関係がみられた。これからの課題としては、付着生物群のなかで、微細なものに焦点を絞り、その相互関係を中心に研究を進めていくことが急務であると推察された。