著者
陶山 佳久 鈴木 準一郎 蒔田 明史
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.97-106, 2010-03-31 (Released:2017-04-20)
参考文献数
27
被引用文献数
2

近年のDNA分析技術の発展を背景としたジェネット識別データ等の蓄積により、タケ・ササ類の一斉開花に関する新たな視点が加わり、関連する議論を整理する必要があると考えられた。そこで本稿では、タケ・ササ類の一斉開花に関して、いくつかの用語の定義と仮説の提唱を行った。まず一斉開花の概念を整理し、開花の個体性と規模を明確に分けて表現することとし、「同調開花」、「単独開花」、「広域開花」および「小規模開花」という用語の使用を提唱した。次に、ジェネット混在型の空間分布構造が、タケ・ササ類の一斉開花性を強化する要因の一つになりうることを指摘し、「ジェネット混在型競争回避仮説」として提唱した。また、典型的な一回繁殖・一斉開花性には合致しない現象として「再開花」、「開花後生残稈」、「再生稈」、「小規模開花」、「一斉前小規模開花」および「一斉後小規模開花」に注目し、これらが一回繁殖・一斉開花性のリスク回避(保険)システムとして機能しうることを指摘した。最後に、個体群内に生じる可能性のある長周期開花性の突然変異は、長寿命クローナル植物のジェネット混在型高密度優占個体群において固定されやすいことを説明し、長期待機型一斉開花性の進化メカニズムの一つとして考えられることを提案した。
著者
鈴木 準一郎
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、「植物個体は、地下部(根)から分泌される化学物質を介して、自己と非自己を認識し、自他の識別を行う」という仮説を設定した。その仮説から導かれる予測、「遺伝的に異なる個体間の競争では、根の成長方向は他個体の存在に影響をされないが、クローン個体間あるいはキメラ個体間での競争では、根は他個体と反対の方向へ成長し、根の競合を回避する」の実験的な検証を試みた。キメラ作成の可否に関する予備実験を行い、材料としてナス(Solanum melongena L.)を選定した。ナスを用いて、接ぎ木の手法により、キメラ個体を作成し、予測の検証を試みた。しかし、接ぎ木の成功率のバラツキが予想以上に大きく、とくに成長につれて枯死が非常に多くのキメラ個体で見られた。また、接ぎ木自体は成功しても成長量にバラツキが大きいことがわかった。さらに接ぎ木の操作を行った個体でウイルス感染による枯損が発生するなど予想外の事故も生じた。栽培が可能な季節の間、繰り返し実験を行ったが、当初予定していた反復数のデータ採集が出来なかった。接ぎ木処理により成長量のバラツキが大きくなることから、反復数を減らすことは出来なかった。さらに、反復数の不足を補う解析手法の開発も試みたが、反復数の不足を補い、当初予測していた仮説の検証を試みることは残念ながら出来なかった。そこで、栽培条件を検討するために行った予備実験の結果を、2報の論文として取りまとめ、投稿しそれらが現在審査中である。
著者
サンガット ビナイ 金子 信博 佐倉 朗夫 鈴木 準一郎
出版者
THE JAPANESE SOCIETY OF ORGANIC AGRICULTURE SCIENCE
雑誌
有機農業研究 (ISSN:18845665)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.71-81, 2020-07-31 (Released:2020-11-30)
参考文献数
30

保全農業の採用に際して雑草は作物と資源を競合するのでその管理は最も大きな問題であるが,雑草の持続可能な管理と利用に関する研究はあまり進んでいない.刈り払いと刈り敷きがダイズの栽培にいかに有効であるかを調べた.不耕起草生栽培は,作物を自然に農地に生える雑草とともに栽培し,雑草を刈り,緑肥として使うという点で保全農業の原則を踏襲している.雑草を3つの異なる頻度で刈り,刈られた草からの窒素放出量を求めた.ダイズの栽培において,雑草を0回(S0),1回(S1),そして2回(S2)刈り取る処理区を設けた.この調査区では1回刈り取りがダイズの収量を確保するのに十分であり,S1とS2はS0の2倍の収量であった.刈り取り回数の増加は,土壌炭素,窒素濃度を増加させており,雑草から土壌への窒素移動を示唆していた.さらに土壌微生物バイオマス量の増加をもたらした.雑草の適切な刈り払いと刈り敷きとしての利用は,低投入の農地で作物の生長を支えるために有効な方法である.