著者
森脇 義弘 鈴木 範行 杉山 貢
出版者
一般社団法人 日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.147-153, 2009-02-01 (Released:2011-12-23)
参考文献数
22
被引用文献数
3 3

はじめに:肝,脾,腸間膜損傷で出血性ショック合併の腹部外傷では,蘇生的緊急開腹術など外科手技の適応と緊急輸血の適応判断を迫られる.異型輸血を含む危険を内在する未交差赤血球製剤(uncrossmatched-red cell concentrate;以下,UCM RCC)緊急輸血の安全性と問題点を考案する.方法:過去5年間で,O型Rh+UCM RCCを含むUCM RCC緊急輸血を実施した腹部外傷を対象にUCM RCC輸血の実態と輸血関連インシデント・アクシデント回避の成否を検討した.結果:UCM RCC輸血は33例に54回,388単位実施され,準備UCM RCCは426単位で使用率は91.1%であった.出血源は肝臓13例,脾臓8例,腸間膜17例で,輸血前平均収縮期血圧は62.5 mmHg,脈拍数117回/分,ショック指数(脈拍数/収縮期血圧)1.97,base excessは−12.7 mEq/l,7日生存例は48.5%であった.血液型判定(blood typing test;以下,BTT)未判定でのO型UCM RCC輸血は17例(21回,168単位),うち非O型への輸血は11例(14回,120単位)であった.1回のBTT後のO型UCM RCC輸血は8例(12回,96単位),うち非O型への輸血は4例(7回,54単位)で,1回のBTTでの非O型症例への未確認同型UCM RCC輸血は15例(20回,120単位)であった.O型UCM RCC輸血全体に年度別増減はなかったが,1回のBTTでの非O型への未確認同型UCM RCC輸血は減少した.ABO型不適合輸血,輸血に関わるインシデントはなかった.考察:UCM RCC輸血では,院内マニュアルを整備したうえでのO型UCM RCCの使用は安全と考えられた.
著者
外山 英志 田原 良雄 豊田 洋 小菅 宇之 荒田 慎寿 松崎 昇一 天野 静 下山 哲 中村 京太 岩下 眞之 森脇 義弘 鈴木 範行 杉山 貢 五味 淳 野沢 昭典 木村 一雄
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.37, no.Supplement3, pp.27-30, 2005-07-30 (Released:2013-05-24)
参考文献数
8

症例は64歳の男性,狭心症の既往はなし.冠危険因子は高脂血症と家族歴があった.2週間前から発熱,咳嗽などの感冒様症状が出現し内服薬を処方されていたが改善しなかった.突然の呼吸困難にて発症し救急隊を要請したが,現場到着時には心静止であった.当院搬送後,心肺蘇生処置を継続したが効果なく死亡確認となった.病理解剖を行ったところ,肉眼的には,漿液性の心嚢水が貯留,両心室腔・右房の拡張,左室壁の肥厚を認めた.左室壁はほぼ全周性に心筋の混濁が認められたが,心筋の梗塞巣や線維化は認められなかった.組織学的には両室心筋に全層性の炎症細胞浸潤,巣状壊死,変性,脱落を認めた.臨床経過と合わせて劇症型心筋炎と診断した.一般に「突然死」と呼ばれている死亡原因には,急性心筋梗塞,狭心症,不整脈,心筋疾患,弁膜症,心不全などの心臓病によるものが6割を占め,そのほかに脳血管障害,消化器疾患などがある.突然死の中でも心臓病に起因するものが「心臓突然死(SCD)」と呼ばれているが,現在米国では心臓突然死によって毎年40万人もの人が命を落としており,その数は肺がん,乳がん,エイズによる死亡者の合計数よりも多いとされている.心臓突然死における急性心筋炎の頻度は不明であるが,しばしば可逆的な病態であり,急性期の積極的な補助循環治療により,完全社会復帰された症例も散見されるので,鑑別診断として重要である.
著者
森脇 義弘 豊田 洋 小菅 宇之 荒田 慎寿 岩下 眞之 鈴木 範行 杉山 貢
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.5, pp.272-278, 2008-05-15 (Released:2009-07-25)
参考文献数
24
被引用文献数
2 1

出血性ショックを伴ったクローン病として転院搬送された腸結核の 1 例を報告する。患者は62歳,女性。透析導入のための近医入院中に下部消化管造影,内視鏡,生検でクローン病と診断され,ステロイド治療を開始された。感染徴候のない発熱と考え再入院となり,ステロイドと免疫抑制剤で治療されたが改善はなかった。下血と呼吸促迫を伴うショックとなり,人工呼吸管理,カテコラミン投与の後に,外科的処置を目的に当センターへ転院搬送となった。前医の下部消化管造影から必ずしも典型的クローン病とは考えにくかったが,出血性ショックのため緊急手術(右結腸切除)を余儀なくされた。術後はseptic shockから離脱できず第 6 病日に死亡した。患者の死後,切除標本の組織学的検査から,肺症状を伴わない活動性の腸結核と診断された。ステロイドを使用しているクローン病では,常時,腸結核との鑑別を念頭におくべきと思われた。また,情報に乏しい初診患者への緊急対応を余儀なくされる救急部門では,診療が終了してから結核であったと判明した場合に関係した職員の健康診断を行うなどの対策を考案しておくべきと考えられた。