著者
鈴木 雅一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.261-268, 1988-06-01
被引用文献数
11

山地流域からの流出に与える森林の影響を評価するために, 流況曲線を用いて流況を定量的に比較する流況解析法を提案した。この解析法は, 安定した水利用の水準を示す指標として, 水不足量W_d, 水不足率W_d^*を流況曲線より定義し, 新たに導入された目標利水率α, 無次元貯水容量S_M^*に対する水不足率W_d^*のふるまいを調べるものである。桐生試験地, 竜の口山試験地, 油日の森林流域とゴルフ場芝地流域の流出記録にこの流況解析を適用し, 森林流域の流況安定と蒸発散量の関係について検討した。安定した水利用のために, 大容量貯水池と蒸発散抑制で対処する方策と, 降雨流出過程の出水遅延による流況の一様化で対処する方策がある。目標利水率αが大きく集約的な水利用をはかるとき前者の方策が, αが小さい領域では後者の方策が有効である。
著者
田中 延亮 蔵治 光一郎 白木 克繁 鈴木 祐紀 鈴木 雅一 太田 猛彦 鈴木 誠
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
vol.113, pp.197-240, 2005

東京大学大学院附属千葉演習林の袋山沢試験流域のスギ・ヒノキ壮齢林において,樹冠通過雨量と樹幹流下量の研究をおこなった。その結果,スギ林の一雨降水量(P )と樹冠通過雨量(Tf )の関係はTf = 0.877P –2.443で,またヒノキ林ではTf = 0.825P –2.178で表すことができた。全観測期間の総降水量に対するTf の割合はスギ林で79%,ヒノキ林で74%であった。また,同じ試験地で行われた単木の樹幹流下量の研究成果を考慮して,一雨降水量と上層木の樹幹流下量(Sf )の平均的な関係を推定した結果,スギ林でSf =0.064P –0.447,ヒノキ林ではSf =0.114P –0.798という関係式が得られた。また,Sf の全期間の総降水量に対する割合は,スギ林で5%,ヒノキ林で10%であった。これらのTf とSf の集計の結果,6ヶ月ないしは1年間の降水量に対する樹冠遮断量の割合は,通常,スギ林において17%前後,ヒノキ林において16-18%前後であった。本報で得られたTf やSf の値や回帰式の係数は,スギ・ヒノキ林や他の針葉樹で得られている既往の報告値と比較され,スギ・ヒノキ壮齢林におけるTf やSf の特徴を整理することができた。また,スギ・ヒノキ両林分の下層木の樹幹流下量や調べたが,それらは降水量の1%未満であることがわかった。これらは従来の研究結果と比較され,滋賀県のヒノキ・アカマツ混交林やボルネオの低地熱帯林の下層木の樹幹流下量の特性と比較された。さらに,下層木による樹冠遮断量の算定を試みたが,これらの降水量に対する割合は多く見積もっても,スギ林で0.3%程度,ヒノキ林で1.2%程度の微小な量であり,本報の観測システムで正確に検知できていたかどうかについて再検討する必要性が示された。いずれにせよ,本報の観測対象としたスギ・ヒノキ壮齢林の樹冠における降水の配分過程に対する下層木の影響は,非常に小さいことが確認された。
著者
額尓 徳尼 堀田 紀文 鈴木 雅一
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.338-350, 2009 (Released:2010-07-27)
参考文献数
54
被引用文献数
2 1

内蒙古自治区全域における砂漠化と緑化事業がもたらした植生変化の実態を把握するために,NOAA/AVHRR の衛星リモートセンシングデータから求めたNDVI(正規化植生指数)を用いた検討を行った。まず,文献から植生変化の実態が明らかな地域において,NDVI の変化と植生変化について比較し,1982~1999 年までの約18 年間における植生の変動を調べた。植生変化が少ない地域でのNDVI の変動から,植生増減を判断するNDVI 変化の閾値を検討し,1982~1986 年と1995~1999 年の夏季NDVI の差を ΔNDVI とし,植生の増減を8km 分解能のピクセル毎に求めた。そして,ΔNDVI により植生が変化した地域を抽出して図化した。その結果,内蒙古自治区全体としては,NDVI が増加した地域の割合が減少した地域の割合を大きく上回り,植生増加の傾向が示された。赤峰市(特に敖漢旗)の植生増加が顕著であり,次いでシリンゴル盟,フフホト市,バヤンヌール市の一部にまとまったNDVI 増加が示され,内蒙古全域においてNDVI が増加した面積が約20 万km2 程度見られた。北半球の高緯度地域では温暖化によるNDVI の増加が報告されているが,行政区毎に求めたNDVI が増加した地域の面積と,統計資料に基づいて集計した造林面積と耕地化された面積の合計に良好な比例関係が見られ,内蒙古自治区における夏季のNDVI 増加は主に緑化と農耕地の拡大という人為的な要因による植生増加である。一方で,NDVI 減少が抽出された内蒙古自治区西部(アラシャ盟),東北ホルチン砂地周辺などでは,もともと植生が乏しい地域であり,これらの地域では砂漠化による植生減少が指摘された。
著者
太田 岳史 福嶌 義宏 鈴木 雅一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.125-134, 1983-04-25
被引用文献数
6

山腹斜面における雨水流出機構を明らかにするため, 琵琶湖南東部に位置する風化花崗岩山地内の山腹斜面に小ブロットを選定し, 人工降雨および自然降雨による雨水流出観測を行った。その結果, 以下の知見を得た。(1)雨水は, 基岩層まで浸透し, 基岩層上に形成される飽和層より流出する。実験範囲内で生じた表面流は, この飽和土層深が土層厚を越えたことによって生じた。(2)ハイドログラフが定常に達するまでに要する時間は, 降雨強度および初期流量の増加によって減少する傾向にある。(3)減水係数の最大値は, 降雨停止直後ではなく停止後10分から1時間の間に生じる。(4)降雨停止後30分間は実験に用いた降雨強度の増加につれて減水係数が増加する。しかし, その後はほぼ一定値をとりながら減少する。(5)雨水の流出過程を, 基岩までの浸透過程と飽和側方流過程の2過程に分け, 前者に一次元鉛直不飽和浸透, 後者に飽和ダルシー流を用いるモデルによってシミュレーションを行ったところ, 観測ハイドログラフならびに(2)から(4)の傾向を再現することができた。
著者
田中 延亮 蔵治 光一郎 白木 克繁 鈴木 祐紀 鈴木 雅一 太田 猛彦 鈴木 誠
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.113, pp.197-239, 2005-06
被引用文献数
3

東京大学大学院附属千葉演習林の袋山沢試験流域のスギ・ヒノキ壮齢林において,樹冠通過雨量と樹幹流下量の研究をおこなった。その結果,スギ林の一雨降水量(P )と樹冠通過雨量(Tf )の関係はTf = 0.877P –2.443で,またヒノキ林ではTf = 0.825P –2.178で表すことができた。全観測期間の総降水量に対するTf の割合はスギ林で79%,ヒノキ林で74%であった。また,同じ試験地で行われた単木の樹幹流下量の研究成果を考慮して,一雨降水量と上層木の樹幹流下量(Sf )の平均的な関係を推定した結果,スギ林でSf =0.064P –0.447,ヒノキ林ではSf =0.114P –0.798という関係式が得られた。また,Sf の全期間の総降水量に対する割合は,スギ林で5%,ヒノキ林で10%であった。これらのTf とSf の集計の結果,6ヶ月ないしは1年間の降水量に対する樹冠遮断量の割合は,通常,スギ林において17%前後,ヒノキ林において16-18%前後であった。本報で得られたTf やSf の値や回帰式の係数は,スギ・ヒノキ林や他の針葉樹で得られている既往の報告値と比較され,スギ・ヒノキ壮齢林におけるTf やSf の特徴を整理することができた。また,スギ・ヒノキ両林分の下層木の樹幹流下量や調べたが,それらは降水量の1%未満であることがわかった。これらは従来の研究結果と比較され,滋賀県のヒノキ・アカマツ混交林やボルネオの低地熱帯林の下層木の樹幹流下量の特性と比較された。さらに,下層木による樹冠遮断量の算定を試みたが,これらの降水量に対する割合は多く見積もっても,スギ林で0.3%程度,ヒノキ林で1.2%程度の微小な量であり,本報の観測システムで正確に検知できていたかどうかについて再検討する必要性が示された。いずれにせよ,本報の観測対象としたスギ・ヒノキ壮齢林の樹冠における降水の配分過程に対する下層木の影響は,非常に小さいことが確認された。An observational study on throughfall, stemflow in mature Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtusa stands were conducted at Fukuroyamasawa watershed in Tokyo Univertsity Forest in Chiba. Relationships between throughfall (Tf) and rainfall (P) in both forestswere expressed by regression lines on an event basis: Tf = 0.877 P – 2.443 for the Cryptomeria japonica stand, Tf = 0.825 P – 2.178 for the Chamaecyparis obtusa stand. Ratios of total observed Tf to total P were 79 and 74 % in the Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtusa stands, respectively. Stemflow by upper story trees (Sf) in the both stands were estimated using relationships between stemflow coefficients and tree sizes, which were shown by a previous study on stemflow volume in the same stands. The results showed that Sf could be expressed by equations on an event basis: Sf =0.064 P – 0.447 for the Cryptomeria japonica stand and Sf =0.114 P – 0.798 for the Chamaecyparis obtusa stand. Total stemflow fractions to total rainfall were 5 and 10 % for the Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtusa stand, respectively. Periodic rainfall interception for six months or twelve months usually accounted 17 and 16-18 % of total rainfall for the Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtusa stand, respectively. The amounts and coefficients of Tf and Sf in the two mature stands were compared with those reported by previous interception studies in Japanese conifer forests. Also, this study showed that stemflow generated by understory trees in the two stands were less than 1 % of total rainfall. The stemflow coefficients of the understory trees were compared with those obtained at a mixed-stand of Japanese pine and Japanese cypress, and with those observed in a Bornean lowland tropical forest. Moreover, an attempt of this study to evaluate interception loss by the canopies of understory trees indicated that the maximum possible periodic interception rate were 0.3 and 1.2 % of total rainfall in the Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtusa stand, respectively. These small proportions suggested that further analysis were necessary to understand whether the installations of this study for monitoring interception loss by understory trees could detect the small amount or not. In any case, the effects of understory trees on the water balance in raintime were not significant at the two stands.
著者
鈴木 雅一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.115-125, 1985-04-25
被引用文献数
18

長期間にわたって水収支観測がなされている日本各地の森林流域の記録をもとに, 短期水収支法を用いて流域の蒸発散量とその季節変化を求めた。検討には桐生, 川向, 竜の口山, 釜淵, 去川の5試験地, 9流域のそれぞれ10年から40年間の日雨量, 日流出量記録が用いられた。短期水収支法では, 渇水による蒸発散低下は水収支期間内の最小流量に対応して生じ, 蒸発散低下をもたらす限界流量が流域ごとに定められた。渇水による蒸発低下の例を除外して求めた蒸発散量季節変化は, 植生が著しく変わらないとき集計期間が異なってもほぼ同様の結果となった。森林の伐採や山火事によって蒸発散量が減少する傾向は各流域とも同様であるが, その変化が通年にわたり生じた流域とおもに夏期に生じた流域があった。求められた蒸発散量とその季節変化は各流域の気象, 植生を反映する値として, 森林流域の蒸発散量推定式作成の基礎資料になるといえる。