著者
蔵治 光一郎 溝口 隼平
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.303-311, 2007 (Released:2007-09-10)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

かつて「越すに越されぬ大井川」とうたわれながら,戦後の発電ダム建設等により流量の大半を奪われ,下流の一部で「河原砂漠」と化している大井川の流量変化の実態を明らかにするため,1923年から2000年までの流況の長期変動について調べた.その結果,塩郷堰堤建設前の長期平均流況は平水51.0トン,低水29.4トン,渇水16.4トンであったが,建設後の堰堤流入量の長期平均流況は平水10.7トン,低水5.2トン,渇水2.6トンに変化していた.仮に近い将来,大井川の水量を回復するために塩郷堰堤を撤去したとしても,それだけでは下流の大井川に昭和30年代の水量を取り戻すことはできず,水量を取り戻したければ,上流ダム群を含めた総合的な流量再生策を検討する必要があることが示された.
著者
蔵治 光一郎 市栄 智明
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.95-107, 2006
被引用文献数
2

北ボルネオ(マレイシア・サバ州及びサラワク州)の10地点においてマレイシア気象サービスにより過去最長51年間にわたり観測された一般気象データを用いて,北ボルネオ一般気象の季節変動について検討した.その結果,気温,湿度,降水量,風速,風向,日射量,蒸発量などが明瞭な季節変動をすることが明らかになった.特に降水量にはかなり顕著な季節変動があることが見出された.これまでの研究では,この地域は明瞭な季節変動がない地域と認識されてきたが,それは変動の振幅が温帯や他の熱帯の振幅と比較して相対的に小さいためであると考えられる.降水量については,月降水量100mmを下回る月が3ヶ月に満たないがゆえに,季節変動がないと解釈されていたと考えられる.
著者
五名 美江 蔵治 光一郎
出版者
水文・水資源学会編集出版委員会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.212-216, 2013-07-05 (Released:2014-04-07)
参考文献数
16

限られた数の地点のデータから,地域の年降水量のトレンドを知るためには,対象とする地域内で複数地点の長期観測データを用いて,トレンドの年数依存性と地域代表性との相互関係を調べておくことが有益である.事例として名古屋とその周辺域の5地点の79年間の年降水量データを取り上げ,年降水量のトレンドの年数依存性と地域代表性との相互関係について調べた.年数45年間未満の場合,トレンドは5地点でそれぞれ異なり,年数45年以上70年未満では,岐阜を除く4地点について共通のトレンドがみられ,年数70年以上では5地点で共通のトレンドがみられた.この地域では,日本海側の気候の影響が無視できない河川流域において,流域全体の降水量のトレンドを知るために,少なくとも70年以上の年数のデータが必要であることが示唆された.
著者
熊谷 明子 塚越 剛史 田中 友理 蔵治 光一郎
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.103, pp.1-20, 2000-06
被引用文献数
2

千葉県南部に位置する東京大学千葉演習林内の山地小集水域において渓流水の水質を降雨イベント時に観測し,流量の変動に伴う水質の変動を検討した。渓流水の流量と濃度の関係を整理した結果,分析対象とした主要溶存イオンは次のような4つのグループに分けられた。NO-3は,流量と正の相関をもつ。平水時の渓流水濃度,林内雨濃度が低いことから土壌に多く存在していると考えられる。Na+,Mg2+,Ca2+は,流量と負の相関をもつ。主に基岩の風化を起源にするために,土壌水中より渓流水中で濃度が高く,流量の増大に伴い濃度が減少したと考えられる。K+は,やや負の相関をもつが,ばらつきが大きい。林内雨,土壌水,渓流水中の濃度差が少ないために流量に対する渓流水中の濃度変動は現れなかった。Cl-,SO2-4は,降雨イベントによって異なる挙動を示す。Cl-は10月の降雨イベントにおいて,台風によって輸送された海塩の影響が現れていた。SO2-4は流量と負の相関をもつが,7月降雨イベント前のみ低い値であった。このように渓流水質の各イオン変動特性の違いは各イオンの流出経路やその特性を反映していると考えられる。In order to examine the relation between the stream discharge and water quality of small mountainous watershed, we intensively sampled the forest stream water during and after several rain events. This study was conducted in the University Forest in Chiba, the University of Tokyo in the south of Chiba prefecture. The effects of rapid stream discharge increase on the ion concentrations was devided into four groups. NO-3 increases in concentration. Na+, Mg2+ and Ca2+ were diluted. K+ showed no much significant correlation with discharge. Cl- and SO2-4 showed different responses depend on rain events. This results suggest that the differences between groups reflect the different distribution of sources and generation processes of the ions.
著者
久米 朋宣 オダイール ジョセ マンフロイ 蔵治 光一郎 田中 延亮 鈴木 雅一
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.19, pp.94, 2006

本研究では,単木の蒸散計測手法である樹液流測定を利用した簡便な遮断蒸発量の推定方法を開発した.本法では遮断蒸発が生じる樹冠濡れ時間を特定することがキーとなる.筆者らは,樹液流測定を利用して樹冠濡れ時間を特定する方法を編み出し,この樹冠濡れ時間を蒸発散量推定モデルの検証データとして利用し,未知パラメーターである最大付着水分量及び空気力学的抵抗を決定した.得られた未知パラメーターより遮断蒸発量を推定し,観測値と比較検討することにより,本研究で開発した手法の実用性を検証した.
著者
五名 美江 蔵治 光一郎
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.5, pp.214-222, 2012-10-01 (Released:2012-11-22)
参考文献数
13
被引用文献数
1 3

本研究は東京大学演習林生態水文学研究所穴の宮試験流域を対象とし, 単独流域法を適用して, ハゲ山に砂防植栽を施して森林再生を開始した期間 (前期: 1935∼1946年) と, それから65年が経過して森林に被覆され, 土壌が回復途上にある期間 (後期: 2000∼2011年) で, 森林の洪水緩和機能の指標の一つである降雨量と直接流出量との関係の違いを定量的に明らかにすることを目的とした。その結果, 後期と比べて前期の方が, 同じ降雨量に対して推定直接流出量が大きく, その差は, 200, 300, 400 mmの降雨量の降雨に対してそれぞれ16.0, 25.8, 33.5 mmと推定された。前期と後期の差は, 初期水分条件が乾燥の場合や, 最大降雨強度が大きい場合により明瞭に現れた。例えば, 初期水分条件が乾燥の場合, 後期と比べて前期は, 200, 300, 400 mmの降雨に対して推定直接流出量がそれぞれ19.1, 29.1, 36.6 mm大きく, 最大降雨強度が大きい場合, 後期と比べて前期は, 200, 300, 400 mmの降雨に対して推定直接流出量がそれぞれ36.3, 56.7, 71.3 mm大きかった。一方, 土壌が湿潤な場合および最大降雨強度が小さい場合は, 両者の差は小さかった。
著者
北山 兼弘 岡田 直紀 清野 達之 蔵治 光一郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

赤道付近では、東西太平洋を結ぶ大気循環であるウォ-カ-循環によって、対流圏に沈降逆転層が形成される。沈降逆転層付近では気流の沈降による強い乾燥が生じ、植物に大きな乾燥ストレスを与える。本研究では、沈降逆転層の高度や乾燥の強さがどのように植物に影響を与えるのかを解明した。西太平洋ボルネオ島の熱帯高山では森林限界が高標高(3,300 m)に、東のガラパゴス諸島では森林限界が低標高(1,000 m)に出現した。また、森林限界は、どちらにおいても最も強い乾燥が生じる標高の下限と一致していた。このことから、ウォ-カ-循環における沈降逆転層の存在が森林限界の決定に強く関わっていることが示唆された。
著者
田中 延亮 蔵治 光一郎 白木 克繁 鈴木 祐紀 鈴木 雅一 太田 猛彦 鈴木 誠
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
vol.113, pp.197-240, 2005

東京大学大学院附属千葉演習林の袋山沢試験流域のスギ・ヒノキ壮齢林において,樹冠通過雨量と樹幹流下量の研究をおこなった。その結果,スギ林の一雨降水量(P )と樹冠通過雨量(Tf )の関係はTf = 0.877P –2.443で,またヒノキ林ではTf = 0.825P –2.178で表すことができた。全観測期間の総降水量に対するTf の割合はスギ林で79%,ヒノキ林で74%であった。また,同じ試験地で行われた単木の樹幹流下量の研究成果を考慮して,一雨降水量と上層木の樹幹流下量(Sf )の平均的な関係を推定した結果,スギ林でSf =0.064P –0.447,ヒノキ林ではSf =0.114P –0.798という関係式が得られた。また,Sf の全期間の総降水量に対する割合は,スギ林で5%,ヒノキ林で10%であった。これらのTf とSf の集計の結果,6ヶ月ないしは1年間の降水量に対する樹冠遮断量の割合は,通常,スギ林において17%前後,ヒノキ林において16-18%前後であった。本報で得られたTf やSf の値や回帰式の係数は,スギ・ヒノキ林や他の針葉樹で得られている既往の報告値と比較され,スギ・ヒノキ壮齢林におけるTf やSf の特徴を整理することができた。また,スギ・ヒノキ両林分の下層木の樹幹流下量や調べたが,それらは降水量の1%未満であることがわかった。これらは従来の研究結果と比較され,滋賀県のヒノキ・アカマツ混交林やボルネオの低地熱帯林の下層木の樹幹流下量の特性と比較された。さらに,下層木による樹冠遮断量の算定を試みたが,これらの降水量に対する割合は多く見積もっても,スギ林で0.3%程度,ヒノキ林で1.2%程度の微小な量であり,本報の観測システムで正確に検知できていたかどうかについて再検討する必要性が示された。いずれにせよ,本報の観測対象としたスギ・ヒノキ壮齢林の樹冠における降水の配分過程に対する下層木の影響は,非常に小さいことが確認された。
著者
蔵治 光一郎 田中 延亮
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.18-28, 2003-02-16
参考文献数
100
被引用文献数
2

日林誌85:18〜28,2003 これまで世界の熱帯林で行われてきた樹冠遮断量の観測事例を調査した。30の国と地域で73地点,106の観測事例を集め,その中から比較的精度のよい事例を抽出し,樹冠遮断率や樹冠遮断量の気候タイプ,植生タイプ,標高との関係,および蒸発散量と樹冠遮断量の関係について考察した。樹冠遮断率は,気候区分,植生区分,標高にかかわらず,おおむね10〜20%の範囲に入っていた。一方,観測精度に十分な注意が払われているにもかかわらず,この範囲から大きく外れ,非常に大きい樹冠遮断率が観測される事例や,非常に小さい樹冠遮新率が観測される事例が存在することがわかった。
著者
田中 延亮 蔵治 光一郎 白木 克繁 鈴木 祐紀 鈴木 雅一 太田 猛彦 鈴木 誠
出版者
東京大学大学院農学生命科学研究科附属演習林
雑誌
東京大学農学部演習林報告 (ISSN:03716007)
巻号頁・発行日
no.113, pp.197-239, 2005-06
被引用文献数
3

東京大学大学院附属千葉演習林の袋山沢試験流域のスギ・ヒノキ壮齢林において,樹冠通過雨量と樹幹流下量の研究をおこなった。その結果,スギ林の一雨降水量(P )と樹冠通過雨量(Tf )の関係はTf = 0.877P –2.443で,またヒノキ林ではTf = 0.825P –2.178で表すことができた。全観測期間の総降水量に対するTf の割合はスギ林で79%,ヒノキ林で74%であった。また,同じ試験地で行われた単木の樹幹流下量の研究成果を考慮して,一雨降水量と上層木の樹幹流下量(Sf )の平均的な関係を推定した結果,スギ林でSf =0.064P –0.447,ヒノキ林ではSf =0.114P –0.798という関係式が得られた。また,Sf の全期間の総降水量に対する割合は,スギ林で5%,ヒノキ林で10%であった。これらのTf とSf の集計の結果,6ヶ月ないしは1年間の降水量に対する樹冠遮断量の割合は,通常,スギ林において17%前後,ヒノキ林において16-18%前後であった。本報で得られたTf やSf の値や回帰式の係数は,スギ・ヒノキ林や他の針葉樹で得られている既往の報告値と比較され,スギ・ヒノキ壮齢林におけるTf やSf の特徴を整理することができた。また,スギ・ヒノキ両林分の下層木の樹幹流下量や調べたが,それらは降水量の1%未満であることがわかった。これらは従来の研究結果と比較され,滋賀県のヒノキ・アカマツ混交林やボルネオの低地熱帯林の下層木の樹幹流下量の特性と比較された。さらに,下層木による樹冠遮断量の算定を試みたが,これらの降水量に対する割合は多く見積もっても,スギ林で0.3%程度,ヒノキ林で1.2%程度の微小な量であり,本報の観測システムで正確に検知できていたかどうかについて再検討する必要性が示された。いずれにせよ,本報の観測対象としたスギ・ヒノキ壮齢林の樹冠における降水の配分過程に対する下層木の影響は,非常に小さいことが確認された。An observational study on throughfall, stemflow in mature Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtusa stands were conducted at Fukuroyamasawa watershed in Tokyo Univertsity Forest in Chiba. Relationships between throughfall (Tf) and rainfall (P) in both forestswere expressed by regression lines on an event basis: Tf = 0.877 P – 2.443 for the Cryptomeria japonica stand, Tf = 0.825 P – 2.178 for the Chamaecyparis obtusa stand. Ratios of total observed Tf to total P were 79 and 74 % in the Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtusa stands, respectively. Stemflow by upper story trees (Sf) in the both stands were estimated using relationships between stemflow coefficients and tree sizes, which were shown by a previous study on stemflow volume in the same stands. The results showed that Sf could be expressed by equations on an event basis: Sf =0.064 P – 0.447 for the Cryptomeria japonica stand and Sf =0.114 P – 0.798 for the Chamaecyparis obtusa stand. Total stemflow fractions to total rainfall were 5 and 10 % for the Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtusa stand, respectively. Periodic rainfall interception for six months or twelve months usually accounted 17 and 16-18 % of total rainfall for the Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtusa stand, respectively. The amounts and coefficients of Tf and Sf in the two mature stands were compared with those reported by previous interception studies in Japanese conifer forests. Also, this study showed that stemflow generated by understory trees in the two stands were less than 1 % of total rainfall. The stemflow coefficients of the understory trees were compared with those obtained at a mixed-stand of Japanese pine and Japanese cypress, and with those observed in a Bornean lowland tropical forest. Moreover, an attempt of this study to evaluate interception loss by the canopies of understory trees indicated that the maximum possible periodic interception rate were 0.3 and 1.2 % of total rainfall in the Cryptomeria japonica and Chamaecyparis obtusa stand, respectively. These small proportions suggested that further analysis were necessary to understand whether the installations of this study for monitoring interception loss by understory trees could detect the small amount or not. In any case, the effects of understory trees on the water balance in raintime were not significant at the two stands.