著者
鎌倉 夏来
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.85, no.2, pp.138-156, 2012-03-01 (Released:2017-02-21)
参考文献数
34
被引用文献数
2 1

本稿の目的は,首都圏近郊の東海道線沿線における大規模工場用地の利用変化と存続工場における研究開発機能の新展開を分析することである.首都圏に古くから立地してきた大規模工場は,特に都心に近接している場合,その多くがすでに閉鎖し,オフィスビルやマンション,商業施設に変化していた.しかしながら,マザー工場として生産機能を維持することで,あるいはまた研究開発機能を強化することで,存続している拠点も存在している.特に2000年代以降の研究開発機能の変化としては,1)製造機能と研究開発機能との近接性を重視した研究開発機能の強化,2)顧客志向の研究開発拠点の増設,3)シナジー効果の創出を目的とした集約型研究開発拠点の新設といった点があげられる.
著者
鎌倉 夏来 松原 宏
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.37-64, 2014 (Released:2014-11-29)
参考文献数
37
被引用文献数
1

本稿の目的は,工業統計メッシュデータの地図化を通して,広域関東圏における産業集積地域の特徴と変化を明らかにし,産業集積政策の意義と課題を検討することにある.工場密度や従業者密度をもとに,広域関東圏におけるメッシュ分布図を作成したところ,主要な産業集積地域を摘出することができた.それらの多くは,「地域産業集積活性化法」の基盤的技術産業集積地域と重なっており, 各地域のメッシュ分布図および変化の大きな個別メッシュを分析したところ,以下の点が明らかになった.①工場密度の分布から集積地域の中心が同定されるが,出荷額の伸びが大きいメッシュは,工業団地や大規模事業所の立地の影響により分散的で,集積地域の中心とは乖離する傾向を示す.②集積地域間で工場密度や従業者密度の構成比が類似する組み合わせが存在する.③成長メッシュには大規模事業所が関わっており,大手企業の立地調整を踏まえた産業集積のあり方を考えていく必要がある.
著者
鎌倉 夏来
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.87, no.4, pp.291-313, 2014-07-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
48

本稿では,住友化学,三井化学,三菱化学といった旧財閥系総合化学企業3社を取り上げ,研究開発組織や拠点の立地履歴,拠点間の知識フローを明らかにし,研究開発機能の空間的分業の特徴と今後の課題を検討した.化学産業では,地方の生産拠点に近接した研究開発拠点の立地が見られるが,特に住友化学では拠点ごとに分散した研究開発活動が行われていた.これに対し,1990年代のグループ内企業の合併により誕生した三菱化学と三井化学では,研究開発拠点の再編が進められ,基礎研究を担う首都圏の中核的な拠点への集約が顕著であった.こうした立地と組織の違いを反映して,住友化学では事業部ごとの「縦の」知識フローが,三井化学と三菱化学では研究開発組織間の「横の」知識フローがそれぞれ中心となって,研究開発機能の空間的分業が構築されていた.これらの差異は,海外拠点との研究開発機能の空間的分業にも現れていた.
著者
鎌倉 夏来
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.280, 2020 (Released:2020-03-30)

知識や技術の創造と拡散がいかなる地理的特徴を有するのかを明らかにすることは,地理的に不均等な経済成長を理解するために重要である.これまで,イノベーションを取り巻く様々なアクターが形成する環境に注目した研究は,ナショナルイノベーションシステム(NIS)や地域イノベーションシステム(RIS)といった,地理的な領域として区切られたなかでの制度を分析するという枠組みや,個別の産業特有のシステム環境に着目したセクターイノベーションシステム(SIS)といった枠組みの中で論じられてきた.しかしながら前者においては,地理的スケールの境界や階層を先験的に設定することで,本来重要な役割を果たしているアクターを軽視する可能性がある.また,後者については,既存の産業枠組みにとらわれることによって,産業の枠を超えたイノベーションの創出を把握することができないという問題点があった.本稿では,知識や技術に着目した「技術イノベーションシステム(TIS)」という分析枠組みを導入し,より知識や技術そのものの特徴に即したイノベーションシステムの地理的特徴を解明するための試論を展開したい.分析対象は,近年国内外で多様な産業への応用が期待されているAI(人工知能)関連技術とした.まず,1980年から2019年について,AIに関連する論文を抽出した.具体的には,Web of Science Core Collectionの中でComputer Science, Artificial Intelligenceに分類された論文935,548本(2020年1月8日時点)を取得し,その中で高頻度に引用されている2,350本の論文を分析対象とした.高被引用文献は,2009年から2019年に発表されたものに限定されていたため,分析対象はこの期間となる.特許出願等の状況から2014年以降は「第三次AIブーム」とされていることから,①2009年〜2013年,②2014年〜2019年の二つの時期に分けて分析を行った.共著者数を考慮せずに論文数で重み付けし,①と②の期間を比較すると,中国の研究機関・企業の割合が二倍近くになっていることがわかった.しかしながら,これらの論文に占める国際共著論文の割合は,最も論文数の多かった中国科学院で60%以上となっているなど,国単位での分析には適していないことが確認された.そこで,著者の所属する研究機関・企業をノードとした社会ネットワーク分析を行なったところ,国単位の内部ネットワークが必ずしも強固ではないことが示唆された.
著者
鎌倉 夏来 松原 宏
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.118-137, 2012-06-30 (Released:2017-05-19)
被引用文献数
1

本稿の目的は,多国籍企業による海外研究所の立地とその地域的影響に関する研究成果を整理し,グローバル化の下での研究開発機能の経済地理学研究の方法と課題を明らかにすることにある.従来の研究では,海外研究所が基礎研究を行うのか,現地市場向けの製品開発を行うのか,子会社化しているのか否か,といった機能や組織の違いによるR&D立地の差異,国のイノベーションシステムとの関係が主に扱われてきた,しかしながら,多国籍企業は,現地市場に対応する開発拠点のみならず,ローカルな知識を吸収し,それらをグローバルに結合する研究拠点を展開してきた.また先進国から新興国へと研究開発拠点を拡大するとともに,コストを節約しながら研究開発人材の活用を図ってきている.今後の研究課題としては,国内と海外の研究所との国際分業関係の変化を把握するとともに,知識のフローや研究開発人材の育成と定着にとって,研究開発機能の地理的集積が果たす役割を明らかにしていくことがあげられる.
著者
鎌倉 夏来
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2013, 2013

Ⅰ はじめに<BR> 経済地理学においては,製造業大企業を分析対象とする「企業の地理学」が見直され(近藤2007),企業の動態を捉えるにあたっては,組織の慣性などを分析に取り入れる進化経済地理学が注目されている(外枦保 2012).日本の製造業では1980年代後半以降,生産機能の海外移転が急速に進展する一方で,研究開発機能は,国内に集中してきたといわれてきた.しかしながら2000年以降は,海外の進出先に現地対応の開発拠点を新設する企業が増え,研究開発機能におけるグローバルな空間分業が徐々に進展しつつあるといえる.また研究開発活動においては,知識のフローが重視されるため,組織部門間の知識フローに影響を与える,部門間の地理的な配置も重要とされる(太田2008).<BR> そこで本研究では,専ら国内の生産体制における製品間・工程間分業に焦点を当ててきた従来の空間的分業論に対して,新たな分析視点として「新空間分業」の考え方を導入した.具体的な観点は,①国内外の拠点を一体的に取り上げ,②組織や立地の慣性,経路依存などを重視し,③知識フローに注目することである.<BR><BR> Ⅱ 対象企業の概要と分析方法<BR> 本研究では,海外顧客への対応やM&Aによってグローバル化を進める日本の化学企業9社を対象とし,(a)財閥系,(b)繊維出身,(c)スペシャリティの3グループに分類して分析を行った(表1).具体的には,主に社史,新聞記事,IR資料を用いて研究開発機能の立地履歴を明らかにし,聞き取り調査と拠点ごとの特許の出願状況から,現在の研究開発活動における中核拠点を摘出し,拠点間の関係について考察した.<BR><BR>Ⅲ 分析結果<BR>まず「新空間分業」の①国内外の分業関係に関して,現地生産子会社の機能変化やM&Aなど,地域間において進出形態が異なっており,国内拠点との知識フローの方向性に相違が見られた.<BR> 次に②の慣性や経路依存に着目すると,特に立地形態において経路依存的な変遷をたどる企業と,組織や周辺環境の変化によって経路を転換する企業があった.前者のタイプの企業の多くは創業地を研究開発機能の中核拠点としている傾向があり,後者の企業は合併や都市化によって分業形態を大きく変化させていた.<BR> 最後に③の知識フローに関して,特許の出願状況を分析すると,企業外の組織との関係について企業間で差がみられたほか,企業内の拠点間において,一拠点内部で大半が完結している企業と,複数の拠点間での共願関係が多くみられる企業があった.<BR><BR> Ⅳ 議論<BR> 以上にみた企業間の差異をいかに解釈するかが問題となるが,事業戦略や企業文化の違い,合併や子会社化などの組織変更の有無などの点から検討を試みることにしたい.<BR><BR>参考文献<BR>太田理恵子2008.研究開発組織の地理的統合とコミュニケーション・パターンに関する既存研究の検討.一橋研究32(4): 1-18.<BR>近藤章夫2007.『立地戦略と空間的分業―エレクトロニクス企業の地理学』古今書院.<BR>外枦保大介2012.進化経済地理学の発展経路と可能性.地理学評論85(1): 40-57.