著者
長岡 浩司 韓 太舜 藤原 彰夫
出版者
電気通信大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、主として量子推定理論と量子相対エントロピーに注目し、統計学的・情報理論的視点を通して量子系の情報幾何学の深化を図るとともに、幾何学的視点を通して量子系の統計学的・情報理論的諸問題に新しい光を当てることをも目指して研究を行った。主要な研究成果は以下の通りである。1.忠実な量子状態(正則な密度行列)全体の成す多様体上に導入されるFisher計量と(α=±1)-接続の成す双対平坦構造の一連の量子力学的対応物をできる限り統一的な視点のもとに整理するとともに、量子情報幾何構造の一般理論といくつかの個別構造の特徴、物理的・情報理論的意義などについて考察を行った。2.無数に考えられる指数型分布族の量子対応物のうち、推定論的に重要な意義を持つSLD(対称対数微分)にもとづいた量子指数型分布族に注目し、特に純粋状態から成る量子指数型分布族上の双対平坦構造が、複素射影空間(=純粋状態空間)上のFubini-Study計量(=SLD計量)の成すケーラー構造と密接に関係することを示した。また、純粋状態空間上ではRLD (右対数微分)に基づいたリーマン計量(RLD計量)は発散してしまうが、複素化された余接空間上ではこの計量は有限にとどまり、かつ推定論的な意義も保たれることを示した。これらの結果は未だ部分的知見に留まっているが、情報幾何の量子化・複素化への一つの方向性を示したものと言える。3.ボルツマンマシンは確率的ニューラルネットワークの一種であり、その平衡分布の成す集合は指数型分布族を成すことが知られている。我々は量子相対エントロピーおよびBKM計量から導かれる量子情報幾何構造の観点からボルツマンマシンの量子対応物を考え、古典的な場合との類似と相違について明らかにした。4.量子通信路の推定問題についてさまざまな研究を行い、情報幾何構造との関連を明らかにした。5.その他、関連研究として情報理論、量子情報理論、確率過程の情報幾何などに関する研究を行った。
著者
長岡 浩司
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.88, no.8, pp.874-885, 2005-08-01

情報幾何では, 確率分布を要素とする多様体上にフィッシャー計量及びα-接続という微分幾何学的構造を導入する. これは相対エントロピー(Kullback-Leiblerダイバージェンス)の幾何ともみなせ, 統計学や情報理論をはじめとする広範な確率論的世界にかかわっている. 本論文では, 量子状態(密度作用素)を要素とする多様体上にフィッシャー計量とα-接続(特にα=±1の場合)の類似物を導入するいくつかの試みについて紹介する. 単なる数学的事実の解説にとどまらず, それらの背景や動機, 今後の展望についても言及する.
著者
池田 浩二 長岡 浩司
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D-II, 情報・システム, II-情報処理 (ISSN:09151923)
巻号頁・発行日
vol.76, no.9, pp.2109-2115, 1993-09-25
被引用文献数
2

本論文では,隠れ素子なしのボルツマンマシンを用いた学習における結合パターンの決定という問題を扱う.これは,統計的モデル選択問題の一種である.モデルの良さを表す規範のとり方としては多くの方法が提案されているが、ここではMDL(minimum description length)を用いた選択法を考える.ボルツマンマシンにおける結合パターンの総数は素子数と共に爆発的に増加するので,すべてのモデルの中からMDL最小となるモデルを探索する従来の方法では,計算量的に膨大な負担を強いられる.また,MDLを求める際の対数ゆう度の計算では,あらゆる状態に関するエネルギー値をすべて求めるという手続きが必要であり,これはボルツマンマシンの分散並列性を大きく損なう.そこで,MDLを用いたモデル選択において計算量を軽減するための方策として,「隣接モデル探索」および「対称化ゆう度差SLD」という二つのアイデアを導入する.簡単な場合について計算機シミュレーションを行い,これらの方法の有効性を検証する.