著者
長田 悠路 大田 瑞穂 田邉 紗織
出版者
一般社団法人 日本神経理学療法学会
雑誌
神経理学療法学 (ISSN:27580458)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1-11, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
28

【目的】脳卒中後の長期臥床は身体機能の回復を妨げるため、離床に関連する起き上がりなどの動作指導や環境設定が理学療法士に求められる。本研究の目的は片麻痺患者が円滑に起き上がれる上肢の設置位置を明らかにすることである。【方法】片麻痺患者13名の起き上がり動作について、起き上がり側上肢外転角度を30度、60度、90度として動作時間(1相:重心が起き上がり側へ移動し始めた時点から片肘立ち位まで、2相:片肘立ち位から重心が最大に鉛直方向へ移動した地点まで)や体幹角度変化を三次元動作解析装置にて分析した。3課題の各指標について反復測定分散分析またはフリードマン検定にて主効果を確認し、主効果の認められたものは多重比較を行った。有意水準はBonferroni補正を行い0.016%とした。【結果】主効果が認められた因子内の多重比較の結果、動作時間は1相および全体の所要時間が30度の時と比較して90度の時でより短かった(p<0.0167)。体幹角度では、2相の体幹側屈角度変化が30度の時と比較して60度や90度の時の方が少なかった(p<0.0167)。【結論】起き上がり側の上肢外転角度を変えて動作時間や体幹角度変化を比較した結果、非麻痺側上肢を30度外転して起き上がるよりも90度外転して起き上がった時の方が動作時間は短縮し、体幹側屈角度変化は60度または90度外転したほうが少ないことが分かった。
著者
長田 悠 檀辻 雅広
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Bf0856-Bf0856, 2012

【はじめに】 重度な意識障害を呈した両側片麻痺患者に対し意識レベルの向上を目的とした言語刺激入力,関節可動域(以下ROM)運動,端座位練習を行ったが意識レベルに変化は得られなかった。そこで,意識の調節を司る脳幹網様体への入力をさらに増加させるため,長下肢装具(以下LLB)を装着した立位で積極的な抗重力刺激や体性感覚入力を行った。その結果,意識レベルが向上し,表情や手の動きによる非言語的な意思表出が可能となった。また頚部・体幹や股関節周囲筋が賦活されたことで車椅子座位保持が可能となり,家族ニーズが達成されたので報告する。【症例紹介】 症例は80歳代,男性。右視床出血発症後,保存療法を経て49病日目に当院回復期病棟へ入院となった。出血巣はCT上直径2.5cm大で視床から内外側に伸展し,内包後脚,中脳に及んでいた。また,両側脳室,第3脳室に穿破していた。既往は4年前に左被殻梗塞があるが,後遺症なくADLは自立であった。前院理学療法(以下PT)ではROM運動,端座位練習を実施され,わずかに頷きや手の動きを認めていたが,反応には日内・日差変動が見られていた。家族ニーズは意志疎通を図りたい,車椅子で移動可能となりたいであった。【説明と同意】 家族に口頭で説明し同意を得ている。【経過】 初期評価(49病日目)時は意識レベルJCS II-20,GCS E3V1M6であり,コミュニケーションは理解表出共に困難であった。Brunnstrom Stageは左上・下肢,手指共にI,右上・下肢,手指共にIV,ADLは全介助,食事は経鼻経管栄養,排泄は膀胱留置カテーテルであった。 PT開始当初は言語刺激入力,ROM運動,端座位練習を行い,意識レベルの改善を試みたが,血圧や血中酸素飽和度などの全身状態に変動を認めた。PT開始30日頃より徐々に全身状態が安定したため,起立テーブルを用いた立位訓練による抗重力刺激入力を開始したが,意識レベルに変化はみられなかった。また,標準型車椅子座位姿勢は頚部・体幹が大きく崩れるため保持不可であった。 そこでPT開始75日目から,より豊富な体性感覚を入力するために左下肢にLLB,右下肢に膝装具を装着した腰掛立位を行なったところ,開眼持続可能となるなど覚醒レベルの改善が見られ始めた。立位練習開始当初は介助量が多く,立位保持だけに留まっていたが,徐々に体幹・下肢の抗重力筋の活動がみられ,右下肢の支持性が向上した。開始100日目より,自動介助にて右下肢ステップ練習,右上肢のリーチ練習,左下肢を軸にして方向転換をする移動練習などを取り入れ,より積極的に体性感覚入力を継続して行った。その結果,PT開始143日頃に標準型車椅子座位姿勢の崩れが軽減し自力での保持が可能となった。意識レベルは日内変動がなくなり,JCS I-3,GCS E4V1M6となった。また,問い掛けに対して表情変化や頷き,手の動きで応答することが可能となり,さらに鼻を掻く,ピースサインを出すなどの目的を持った右上肢の動作がみられるようになった。【考察】 Magounらの提唱した上行性網様体賦活系は,中脳から延髄にわたる網様構造をした神経組織である脳幹網様体の興奮を視床の非特殊核を中継し,大脳皮質に広く投射することで意識の保持に関与すると考えられている。また,意識障害は大脳皮質の広範な障害による活動低下か脳幹網様体の障害によって生じるといわれており,本症例は広範な出血により中脳も損傷されたため脳幹網様体の機能低下を生じ,重度意識障害を呈したと考えられる。 意識障害に対するPTは端座位や立位などの抗重力位をとることが有効であるとされている。当初は本症例にも同様に実施したが,意識レベルに著明な変化は得られなかった。そこで,抗重力位でより積極的な体性感覚による感覚刺激入力を行なった結果,意識レベルが向上し日内変動が見られなくなった。これは脳幹を上行する感覚の求心性路は脳幹網様体に側枝を出すと言われていることから,本症例に対し積極的に体性感覚入力を行ったことが上行性網様体賦活系の活性化に繋がり,意識レベルが向上したと考えられる。また,意識は注意・行為・言語などの高位機能の基盤であるといわれていることから,本症例が意思表出可能となったのは意識レベルが向上した結果であると考えられる。【理学療法研究としての意義】 重度意識障害の症例に対して,積極的に体性感覚入力を行うことで意識レベルの向上が得られた。理学療法士として運動機能の回復のみならず,意識レベルを向上させることでコミュニケーション能力の回復にも寄与することが出来ることを学んだ。
著者
長田 悠路 本島 直之
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11199, (Released:2016-11-22)
参考文献数
21

【目的】本研究の目的は片麻痺患者に対するローラーを用いた上肢トレーニングの効果を検討することである。【方法】三次元動作解析装置を用い,片麻痺患者7 名のローラー運動20 回後,40 回後,60 回後で上肢最大挙上時の麻痺側肩関節屈曲角度の変化を分析した。その後同様に,片麻痺患者21 名のローラー運動20 回の即時的効果,経時的効果(1日20 回を2 週間)を上肢挙上動作の違いと肩の痛みの変化の違いから分析した。【結果】20 回のローラー運動直後に即時的な肩関節屈曲角度の改善が見られた。経時的な分析では,肩関節屈曲角度の改善が得られ(p<0.05),肩関節の痛みも改善する傾向を示した。【結論】ローラー運動は即時的に麻痺側上肢挙上運動時の肩関節屈曲角度を増大させ,従来のリハビリテーションと併用することでさらに肩関節痛の軽減効果が期待できることが示唆された。
著者
長田 悠 檀辻 雅広
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Bf0856, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに】 重度な意識障害を呈した両側片麻痺患者に対し意識レベルの向上を目的とした言語刺激入力,関節可動域(以下ROM)運動,端座位練習を行ったが意識レベルに変化は得られなかった。そこで,意識の調節を司る脳幹網様体への入力をさらに増加させるため,長下肢装具(以下LLB)を装着した立位で積極的な抗重力刺激や体性感覚入力を行った。その結果,意識レベルが向上し,表情や手の動きによる非言語的な意思表出が可能となった。また頚部・体幹や股関節周囲筋が賦活されたことで車椅子座位保持が可能となり,家族ニーズが達成されたので報告する。【症例紹介】 症例は80歳代,男性。右視床出血発症後,保存療法を経て49病日目に当院回復期病棟へ入院となった。出血巣はCT上直径2.5cm大で視床から内外側に伸展し,内包後脚,中脳に及んでいた。また,両側脳室,第3脳室に穿破していた。既往は4年前に左被殻梗塞があるが,後遺症なくADLは自立であった。前院理学療法(以下PT)ではROM運動,端座位練習を実施され,わずかに頷きや手の動きを認めていたが,反応には日内・日差変動が見られていた。家族ニーズは意志疎通を図りたい,車椅子で移動可能となりたいであった。【説明と同意】 家族に口頭で説明し同意を得ている。【経過】 初期評価(49病日目)時は意識レベルJCS II-20,GCS E3V1M6であり,コミュニケーションは理解表出共に困難であった。Brunnstrom Stageは左上・下肢,手指共にI,右上・下肢,手指共にIV,ADLは全介助,食事は経鼻経管栄養,排泄は膀胱留置カテーテルであった。 PT開始当初は言語刺激入力,ROM運動,端座位練習を行い,意識レベルの改善を試みたが,血圧や血中酸素飽和度などの全身状態に変動を認めた。PT開始30日頃より徐々に全身状態が安定したため,起立テーブルを用いた立位訓練による抗重力刺激入力を開始したが,意識レベルに変化はみられなかった。また,標準型車椅子座位姿勢は頚部・体幹が大きく崩れるため保持不可であった。 そこでPT開始75日目から,より豊富な体性感覚を入力するために左下肢にLLB,右下肢に膝装具を装着した腰掛立位を行なったところ,開眼持続可能となるなど覚醒レベルの改善が見られ始めた。立位練習開始当初は介助量が多く,立位保持だけに留まっていたが,徐々に体幹・下肢の抗重力筋の活動がみられ,右下肢の支持性が向上した。開始100日目より,自動介助にて右下肢ステップ練習,右上肢のリーチ練習,左下肢を軸にして方向転換をする移動練習などを取り入れ,より積極的に体性感覚入力を継続して行った。その結果,PT開始143日頃に標準型車椅子座位姿勢の崩れが軽減し自力での保持が可能となった。意識レベルは日内変動がなくなり,JCS I-3,GCS E4V1M6となった。また,問い掛けに対して表情変化や頷き,手の動きで応答することが可能となり,さらに鼻を掻く,ピースサインを出すなどの目的を持った右上肢の動作がみられるようになった。【考察】 Magounらの提唱した上行性網様体賦活系は,中脳から延髄にわたる網様構造をした神経組織である脳幹網様体の興奮を視床の非特殊核を中継し,大脳皮質に広く投射することで意識の保持に関与すると考えられている。また,意識障害は大脳皮質の広範な障害による活動低下か脳幹網様体の障害によって生じるといわれており,本症例は広範な出血により中脳も損傷されたため脳幹網様体の機能低下を生じ,重度意識障害を呈したと考えられる。 意識障害に対するPTは端座位や立位などの抗重力位をとることが有効であるとされている。当初は本症例にも同様に実施したが,意識レベルに著明な変化は得られなかった。そこで,抗重力位でより積極的な体性感覚による感覚刺激入力を行なった結果,意識レベルが向上し日内変動が見られなくなった。これは脳幹を上行する感覚の求心性路は脳幹網様体に側枝を出すと言われていることから,本症例に対し積極的に体性感覚入力を行ったことが上行性網様体賦活系の活性化に繋がり,意識レベルが向上したと考えられる。また,意識は注意・行為・言語などの高位機能の基盤であるといわれていることから,本症例が意思表出可能となったのは意識レベルが向上した結果であると考えられる。【理学療法研究としての意義】 重度意識障害の症例に対して,積極的に体性感覚入力を行うことで意識レベルの向上が得られた。理学療法士として運動機能の回復のみならず,意識レベルを向上させることでコミュニケーション能力の回復にも寄与することが出来ることを学んだ。