著者
溝口 義人 鍋田 紘美 今村 義臣 原口 祥典 門司 晃
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.38-45, 2015 (Released:2017-02-16)
参考文献数
72
被引用文献数
1

がん,糖尿病,心血管疾患などの身体疾患,肥満など生活習慣病およびうつ病を含む精神疾患にはいずれも慢性炎症が病態に関与するとされる。心身相互に影響する共通の分子機序として,免疫系の関与が重要であるが,精神疾患の病態においては脳内ミクログリア活性化が重要な位置を占める。ミクログリアの生理的機能を解明しつつ,向精神薬の作用を検討していくことは今後も重要であり,うつ病を含む各精神疾患の病態仮説にかかわる BDNF の作用機序および向精神薬の薬理作用には細胞内 Ca2+シグナリングが関与すると考えられる。
著者
門司 晃
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.147-150, 2020 (Released:2020-09-25)
参考文献数
16

約20年前から激増し,10数年間にわたり年間3万人を超えていた本邦の自殺者数は,ここ数年間の減少の結果として,約20年前の水準である年間2万人程度に戻っている。これ以上の自殺者数の減少を実現させるためには,精神医学的対策がまさに現時点で求められている。神経炎症仮説は幅広い精神疾患に当てはまると考えられているが,最近の総説では,各々の精神疾患の中にこの神経炎症が重要な役割を果たす亜系ないしは臨床ステージが存在する可能性が指摘されている。具体的には重症例,治療抵抗例に並んで自殺関連行動例が挙げられており,それらに対しての抗炎症療法の有効性が示唆されている。自殺関連行動に関する新たな診断や治療法の開発にブレークスルーをもたらすことを期待しつつ,神経炎症仮説からみた自殺関連行動のバイオロジーについて概説した。
著者
山村 和彦 加藤 しおり 加藤 隆弘 溝口 義人 門司 晃 竹内 聡 古江 増隆
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第39回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.156, 2011 (Released:2011-08-20)

慢性蕁麻疹は6週間以上継続する蕁麻疹を指し、その病態には、自己免疫性メカニズムを介した肥満細胞の脱顆粒に伴う、ヒスタミンを中心としたケミカルメディエーター放出が深く関わっている。通常、抗ヒスタミン薬の内服治療を行うが、治療抵抗性症例も少なくない。我々は、こうした治療抵抗性の慢性蕁麻疹に対して、認知症に伴う精神症状や不眠症などで用いられる抑肝散の内服が奏功した症例を報告してきた。抑肝散はソウジュツ、ブクリョウ、センキュウ、チョウトウコウ、トウキ、サイコ、カンゾウの7種類の生薬からなる漢方薬で、近年、外傷性脳損傷後の精神症状の緩和やアルツハイマー病の痴呆による行動異常や精神症状の改善といった、中枢神経に対する新たな効能も報告されている。今回、我々は肥満細胞モデルとして良く使われるラット好塩基球白血病細胞(RBL-2H3細胞)を用いて、抑肝散の治療抵抗性蕁麻疹に対する抑制メカニズムを検討した。その結果、カルシウム蛍光指示薬Fura-2を用いた測定系で、抑肝散がIgE感作後の抗原刺激によるRBL-2H3細胞の急激な細胞内カルシウム濃度上昇(脱顆粒を反映)を著明に抑制することを見出した。この抑制効果は代表的な抗ヒスタミン薬であるクロルフェニラミンでは認められず、治療抵抗性蕁麻疹への抑肝散の薬効を反映するものと考えられた。
著者
溝口 義人 門司 晃
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.117-122, 2013 (Released:2017-02-16)
参考文献数
41
被引用文献数
1

ミクログリアは中胚葉由来の免疫担当細胞で,感染や組織損傷などに応答し活性化すると,貪食能を獲得し,炎症性サイトカイン等の細胞障害因子やBDNFを含む神経栄養因子を産生放出する。最近は,ミクログリアが細胞外環境を積極的に監視して,神経炎症のみではなく,神経回路形成や神経可塑性など脳機能の恒常性維持にも関与すると報告されている。またミクログリア活性化はうつ病や統合失調症など様々な精神疾患,とくに急性期における関与が指摘されており,向精神薬によるミクログリア活性化抑制作用の細胞内機序としては,細胞内Ca2 +シグナリングが重要な役割を担う可能性が高い。また種々の精神疾患への関与が指摘されるBDNFもミクログリア活性化において重要な役割を担っており,今後BDNFの前駆体であるproBDNFによるミクログリア活性化の制御機序を,とくに細胞内Ca2+シグナリングに着目して解明することが重要である。