著者
関根 一希 渡辺 直 東城 幸治
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.119-131, 2020-12-25 (Released:2021-10-21)
参考文献数
65

Ephoron of polymitarcyid mayflies in East Asia includes three species, E. shigae, E. limnobium, and E. eophilum, but the former two species are not separated on their molecular phylogenetic trees. All-female automictic parthenogenetic reproduction is known only in Japanese E. shigae in which bisexual and unisexual populations are distributed across Japan without any clear biogeographic boundaries. Population genetic structure studies show the parthenogenetic origin occurred only once in western Japan and then expanded all over Japan. In some rivers, both reproductive types coexist, and parthenogenetic females occupied the population within 20 years after unisexual introduction. Ephoron shigae has univoltine life cycles, and adults emerge synchronously in early autumn in bisexual or unisexual populations. It is a future problem for this ecologically interesting mayfly to inhabit the same rivers with both reproductive types.
著者
関根 一希 鶴田 大三郎 東城 幸治
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.253-260, 2007 (Released:2008-09-30)
参考文献数
24
被引用文献数
4 6

オオシロカゲロウは進化生態学的に興味深い昆虫であるが,比較的大・中規模とされる河川,かつ水深が深い中・下流域に棲息するため,生活史全般に渡る調査研究は困難とされてきた。本研究では,小規模な農業用水路・日野用水(東京都日野市)において本種が高密度で確認されたため,調査に適した棲息地として2005年の一年間,生活史を詳細に追究した。その結果,主たる孵化期間は2月下旬-3月下旬であり,羽化期間は8月30日-9月20日間(ピークは9月3日,4日)であることを確認した。また一方で,一年を通して孵化前卵が認められたが,これは休眠卵に適切な低温処理がなされず,春になっても休眠解除されなかったものであると考えられる。これらの卵は翌年(あるいは,それ以降の年)の春季に休眠が解除される可能性も考えられ,鰓脚類や一部の昆虫類などでみられるようなエッグバンク的機構が備わっている可能性も示唆された。
著者
関根 一希
出版者
立正大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

オオシロカゲロウは同調的な一斉羽化をし, 大量発生に至ることもある河川棲の水生昆虫である。これまで, 本種はオスとメスからなる両性個体群とメスのみの雌性個体群が認められる地理的単為生殖種であること, また, 日本各地に分布する雌性個体群は, 西日本の個体群に起源する単為生殖系統によって維持されていることを明らかにしてきた。さらに, 両性個体群であったとしても, 両性生殖系統と単為生殖系統とが同一河川内に生息することもあり, このことは東日本である福島県・阿武隈川や埼玉県・荒川の個体群において明らかとなってきている。両系統が生息する河川内では, 一斉羽化の時間帯にずれが生じており, 単為生殖系統のメス個体は, 両性生殖系統のオスやメス個体よりも比較的早い時間に羽化することも明らかになってきた。これまで, カゲロウ類の一斉羽化の適応的意義としては, 仮説1. 交尾相手発見の容易さ説と仮説2. 捕食者の飽食説が挙げられていた。オオシロカゲロウの雌性個体群では, 交尾相手のオス個体はいないことから, 仮説1は当てはまらないが, 同調的な羽化は認められる。したがって, オオシロカゲロウの一斉羽化では, 捕食者による被食を頭打ち, つまり飽食させることで, 羽化個体の生存率および繁殖成功率を上げるといった仮説2が主な適応的意義であると考えられる。しかし, それではなぜ, 両性生殖系統と単為生殖系統とが同一河川内に生息する場合に, 一斉羽化の時間帯にずれが生じてしまうのか。本研究ではオオシロカゲロウを研究対象とし, カゲロウ類の一斉羽化はなぜ生じるのか, といった適応的意義について新たな解釈「繁殖干渉相手からの逃避説」を得ることを目的とする。
著者
関根 一希 末吉 正尚 東城 幸治
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.73-84, 2013-05-10 (Released:2014-05-15)
参考文献数
26
被引用文献数
3

オオシロカゲロウは国内広域の河川中・下流域に棲息し,幼生は河床の砂礫に潜って生活する。羽化は初秋 (1週間から数週間程度) の日没後にみられるが,極めて同調性の高い羽化であり,交尾飛翔・群飛が認められ,大発生に至ることもある水生昆虫である。1970年代から本種における大発生は日本各地の河川において報告されてきたが,本種の棲息状況に関しては,羽化個体において評価されるに留まっており,河川内の詳しい分布は十分には把握されていないのが現状である。理由としては,1) 短い亜成虫・成虫期間 (長くても2時間程度),2) 短い羽化時期,3) 短い幼生期間 (約半年を休眠卵で過ごす),4) 典型的なハビタットは比較的大きな河川の中下流で,かつ河床の砂礫に潜る生活型であることがあげられる。このような状況から,本研究では,本種の大発生が1928年と最も古い記録 (志賀直哉の小説「豊年蟲」としての記録) として残され,現在も規模の大きな発生が続いていて,個体群規模も大きな長野県・千曲川を調査地として,幼生ステージにおける分布調査を実施した。その結果,羽化量調査による先行研究と同様,最も多くの羽化個体が認められた平和橋粟佐橋調査区において,体サイズの大きい幼生が高い個体密度で棲息することが確認された。一方,平和橋粟佐橋調査区より上流や下流側では,個体密度や体サイズなど現存量の低下が認められた。羽化量調査により分布が認められないとされていた犀川合流地点よりも下流側においても,幼生の棲息が認められた。しかし,幼生の体サイズは小さく,比較的貧栄養的な犀川の合流により千曲川の汚濁度が低下し,幼生の餌であるデトリタス量が低下したことに原因があるのかもしれない。