著者
阪本 寧男
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.92-99, 1983-08-05 (Released:2009-12-17)
参考文献数
34
著者
河瀬 真琴 阪本 寧男
出版者
日本育種学会
雑誌
育種學雜誌 (ISSN:05363683)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.1-9, 1987-03-01
被引用文献数
1

ユーラシア各地から収集されたアワ83系統を供試系統(=)に選び,日本,台湾の蘭嶼,ベルギーの3系統をそれぞれテスターA,B,C(=)として交配した.交配にはピンセット乃至は吸入ポンプを用いて効率的に除雄を行たうことができた.試みた249組み合わせのうち224組み合わにおいて系統間雑種を得ることができ,その雑種第一代および供試系統の自殖個体の花粉稔性と種子稔性を調査した.雑種第一代の花粉稔性は8.2%から99,1%まで観察され様々た程度の不稔性が見られたが,同じ交配組み合わせから得られた雑種の個体間では不稔性の程度に欠きた差はなく,その不稔性の出現は遺伝的たものと考えられる.ほとんどすべての供試系統自殖個体の花粉稔性が75%以上であることから,雑種の花粉稔性においても暫定的に75%以上をもって正常と判定した.3種類すべてのテスターとの雑種を得ることのできた62系統はその花粉不稔性にもとづいて6種類の型に分類することができた.テスターA,B,Cのうち,特定のひとつのテスターとの雑種だけが正常な花粉稔性を示す系統をそれぞれA型,B型,C型と分類した.また,テスターAとの雑種もテスターCとの雑種も正常な花粉稔性を示す系統はAC型,テスターBとの雑種もテスターCとの雑種も正常なものはBC型と分類した、どのテスターとの雑種も正常な花粉稔性を示さない系統はX型と分類した.AB型あるいはABC型と分類されるようた系統は見い出されなかった.種子の不稔性にも同様の傾向が認められたが,不明瞭であり花粉不稔性の方が系統間の遺伝的分化をより直接的に反映していると考えられる.分類された冬型はそれぞれ特異的た地理的分布を示した.A型は日本,韓国,中国の系統に高い頻度で見られ,これらの地域のアワが互いに緊密な関係にあることが示唆された、B型は台湾本島山間部と日本の南西諸島の系統に,C型は特にヨーロッパの系統に,それぞれ集中して見い出された。遺伝的により未分化た段階にあると考えられるAC型とBC型の系統はそれぞれアフガニスタンとインドに分布している.X型の系統は台湾の蘭嶼やフィリピンのバタン諸島に集中して見られたほか各地に点在しており,さらにいくつかの型に分類できるかもしれない.このように冬型の分布は明瞭た地理的独白性を示し,各地域に特異的な地方品種群が成立していることが明らかとなった.冬型の地理的分布と穎果のフェノール着色反応性やエステラーゼ・アイソザイムの分布との間にいくつかの対応関係が見い出された、また,台湾から南西諸島へアワの導入された可能性がフェノール着色性の系統の分布から示唆されていたが両地域におけるB型系統の分布はそれを裏付けるものである.遺伝的により未分化と考えられるAC型とBC型の分布はアワの起原を考えるうえで非常に重要である、すたわち,アワがアフガニスタンからインドにかけての地域で起原し,遺伝的に分化しながら東西に伝播していった可能性が示唆される.この可能性はアフガニスタンの系統が草丈カミ低くきわめて旺盛に分けつし小型の穂をもっといった原始的特徴を示すこととも一致している.
著者
木俣 美樹男 阪本 寧男
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.p103-111, 1982-08

目本産力モジグサ属植物のうちで,雑草性の高いカモジグサ(Agropyron tsukushiense var. transiens)の普通型と早生生態型およびミズタガモジグサ(A humidorum)について,繁殖様式と生育場所との相互関係について検討した。これら2種が同所的に生育する静岡県三島市の休閑困における野外調査によると,カモジグサの早生生態型は種子でのみ実生を生じさせていたが,ミズタガモジグサは種子および桿の断片から実生を生じさせていた(第1表)。早生生態型の桿の断片は越夏後に腐敗して萌芽せず,ミズタガモジグサではほぼ半数の桿の断片が萌芽していた(第2表)。ミズタガモジグサの桿はほぼ7節よりなっているが,水岡耕起の際に1〜3節をもつ断片にされることが多かった。桿の断片は3節をもつものがもっともよく萌芽していた(第3表)。ヵモジグサの普通型と早生生態型およびミズタガモジグサの種子を温度および水条件による14の処理区に貯蔵し,経時的に発芽試験を行なった(第1図)。この結果によると,カモジグサの普通型は畑条件下でよく発芽し,早生生態型は州および湛水条件下でよく発芽した。ミズタガモジグサは種子の休眠が深く,湛水条件下でも比較的よく発芽力を維持した。カモジグサの普通型と早生生態型およびミズタガモジグサの桿の1節をもつ断片を温度および水条件による8処理区に貯蔵し,経時的に萌芽試験を行なった(第2図)。この結果によると,カモジグサの普通型および早生生態型の桿の断片の腋芽は休眠性が弱く,7月にはほとんどが萌芽した。しかしながら,ミズタガモジゲサの桿の断片の腋芽は休眠性が強く,9月まで著しい萌芽カミみられなかった。これらの結果は,休閑田における野外調査の結果とよく一致した。すなわち,カモジグサの早生生態型の株は休眠性が弱く湛水下で腐敗し,多年生であるにもかかわらず,自然状態では一年生植物のように種子によってのみ繁殖する。普通型は,種子が湛水・高温条件下で腐敗するので畦より水田中には侵入できない。ミズタガモジグサは種子のほか,株および多年生化した桿によっても繁殖し,水田への適応性が認められた。