- 著者
-
平田 英隆
川村 隆一
野中 正見
坪木 和久
- 出版者
- Meteorological Society of Japan
- 雑誌
- 気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
- 巻号頁・発行日
- vol.99, no.4, pp.899-912, 2021 (Released:2021-08-27)
- 参考文献数
- 26
- 被引用文献数
-
3
2017年1月、温帯低気圧に伴う前線に沿って発達した対流性の降雨バンドが三宅島に記録的大雨をもたらした。本研究は、この降雨バンドの強化過程における黒潮からの熱フラックスの役割について調査した。領域雲解像モデルを用いて降雨バンドの再現実験(コントロール実験)と黒潮からの顕熱および潜熱フラックスを除去する感度実験を実施した。低気圧に伴う温暖前線の北側で発生した非古典的な前線(アウターフロント)に沿って、降雨バンドが発達した。コントロール実験は、降水バンドの強度や移動をよく再現した。さらにコントロール実験では、降雨バンドが発達するにつれて、降雨バンドの南側の低気圧に伴う寒冷コンベアベルト周辺において、黒潮からの熱フラックスが明瞭となった。顕熱フラックスと比較して、潜熱フラックスは約2.3倍の大きさであった。コントロール実験と感度実験との比較は、熱フラックス、特に潜熱フラックスが、降雨バンドを強化することを示した。顕熱フラックスは対流圏下層の対流不安定度を若干強め、潜熱フラックスは地表付近の水蒸気量および対流不安度を大きく増加させた。アウターフロントに沿う前線性の上昇気流によって、強化された対流不安定は解放される。その結果、水蒸気収束、水蒸気の凝結および上昇流が強化され、降雨バンドの発達が生じた。これらの結果は、黒潮からの熱フラックス、特に潜熱フラックスは、水蒸気量と対流不安定度の増加を介して、大雨を引き起こした降雨バンドの発達へ寄与したことを示す。