著者
谷川 伸也 倉山 太一 影原 彰人 須賀 晴彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B4P1074, 2010

【目的】3次元動作解析装置は、現況では、どの施設でも導入出来るような安価なものは少なく、特に光学センサーを用いるタイプは測定場所が限られてしまう。そこで我々は、臨床における客観的な評価ツールとして、安価で使いやすい動作解析システムを構築することを念頭に情報収集を始めた。2008年8月、任天堂の汎用ゲーム機Wiiのリモコン(以下:Wiiリモコン)を用いて、パソコンをコントロールするソフトウェアがフリーで公開されたこと、また2009年4月に刊行された技術評論社ソフトウェアデザイン5月号の記事がヒントとなり、我々は公開されているフリーソフトを改変してパソコンにWiiのデータを保存し、エクセル上で解析を行うというシステムを構築した。具体的にはWiiリモコンには高感度な3軸加速度センサーが内蔵されており、経時的に加速度データを送信しているが、このデータをBluetoothという通信機器でパソコンと接続し(無線通信)、Wii Flashというアプリケーション用いて、100Hzの頻度でパソコンに取り込むものである。なお必要経費はPCも含め5万円を下回る(システムについては問い合わせに応じる)。元々、Wiiリモコンは人間の3次元的な動作を元にアプリケーションを操作する「physical computing」の分野から生まれたものであり、動作解析には適している。今のところ医療分野において正式な研究報告は少ないが、テニスプレーヤの動作解析など国内においてWiiリモコンを使用した動作解析の研究報告があり、測定機器としての信頼性も獲得されつつある。そこで今回我々は、Wiiリモコンを用いて脳卒中片麻痺患者の歩行を定量的に評価する試みを行った。また同時に健常者でも測定を行い、患者との相違について比較検討した。<BR>【方法】対象患者は、脳卒中片麻痺患者(以下患者群)11名(男性8名、女性3名、平均年齢65.5±10.4歳、左麻痺8名、右麻痺3名、Brs3:2名、4:5名、5:3名、6:1名、発症からの年数3.0±2.1年)とし、対照群は、健常者(以下健常群)11名(男性8名、女性3名、平均年齢27.4±5.1歳)とした。患者は近位監視レベルで屋外歩行が可能な者を対象とした。測定課題は左・右下腿外側にWiiリモコンをバンドで固定し、平地歩行路を快適速度で100歩歩行することとした。加速度データは3軸で、前後方向(X軸)、上下方向(Y軸)、左右方向(Z軸)となるようWiiリモコンを固定した。解析は、Root Mean Square(RMS)を算出し、患者群、健常群それぞれで、左・右下肢のRMS平均値の差を取り、その絶対値について、対応の無い t検定を用いて患者-健常者間で比較した。<BR>【説明と同意】全て参加者には、事前に研究の趣皆、実施内容を説明し同意を得ている。<BR>【結果】X軸方向(前後)における患者群のRMS平均値の左右差は、健常群よりも有意に増大していることが認められた(p<0.05)。また、患者、健常者で、測定条件および測定場所を同一にし、複数回測定を行った結果、患者、健常者両者とも、ばらつきが少ない結果が得られており、再現性が確認された。<BR>【考察】片麻痺患者の下肢加速度については、特にX軸方向(前後)で有意な左右差が認められ、これは麻痺側の振り出しの加速度が非麻痺側に比べ減少していることに起因すると考えられた。なお、「ぶん回し歩行」による横方向の加速度は検出できなかったが、今後、Wiiの角加速度データについても解析することで検出が可能か検討したい。なおデータから左右下肢の加速度の相違についてのグラフなどによる可視化、数値化が可能であった。視覚的、数値的に歩行の性質を明示出来ることから、Wiiリモコンによる動作解析は脳卒中片麻痺患者の歩行の特徴を捉えることが可能であること、また経時的変化を記録して、治療効果判定に利用できる可能性が示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究は、これまで敷居が高く臨床現場で気軽に実施することが難しかった3次元動作解析を、汎用ゲーム機であるWiiリモコンを用いることで可能とした点で重要である。また実際に片麻痺患者における歩行解析に有用であることも示した。測定機器を用いた客観的な動作解析が臨床現場で普及しない要因は大きく"価格"と"気軽さ"にあると考えるが、今回のシステムはこれらの問題をクリアしており、今後の普及が期待できる。
著者
倉山 太一 渡部 杏奈 高本 みなみ 重田 奈実 長谷川 裕貴 山口 智史 小宮 全 吉田 奈津子 清水 栄司 影原 彰人 須賀 晴彦
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.929-933, 2009 (Released:2010-01-28)
参考文献数
23

〔目的〕通所リハにおける在宅脳卒中患者を対象としたCI療法の効果について検討した。〔対象〕当院通所リハを利用の片側上肢機能不全を有する脳卒中患者で適応基準を満たした6名であった。〔方法〕非麻痺側上肢の運動制限を行いながら,麻痺側上肢の集中的な課題遂行型介入を1日5時間,2週連続(平日の10日間)で実施した。評価項目は,Wolf motor function test(WMFT),Motor activity log(MAL),Fugl-Meyer assessment scale(FM)とし,CI療法の実施前後,3ヶ月,6ヶ月後に実施した。〔結果〕WFMTのtimeおよびMALにおいて,介入前後で,有意な改善を認めた。また,評価が可能であったすべての症例で,3ヶ月後,6ヶ月後においても介入効果が持続していた。〔結語〕通所リハにおいて,一般的な手法に従ったCI療法実施は可能であり,上肢の機能改善および実用性が向上することが示唆された。