著者
倉山 太一 小宮 全
出版者
Japanese Society of Assistive Technologies in Physical Therapy
雑誌
支援工学理学療法学会誌 (ISSN:24366951)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.64-72, 2022-03-25 (Released:2022-03-31)
参考文献数
8

本稿はGarcia等が提唱した歩行についての数理モデル「Simplest walking model」の解説である。主な読者として、物理や数学に興味のある理学療法士・作業療法士を想定した。また普段数学になじみのない方でも、その導出の概略を理解できるように、式変換などについて逐次説明するよう心掛けた。解説中に出てくる数学的用語や解法を元に、適宜、専門書などを参照頂ければ、最短経路で歩行の数理を理解できる内容となっているので、意欲のある方は、ぜひ紙とペンを使って式の導出を追って頂きたい。もし、大学の物理に興味のある高校生や、教員がお読み下さったならば、本稿を解析力学の簡単な例題としてお使い頂ければ幸いである。
著者
倉山 太一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.41 Suppl. No.2 (第49回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1338, 2014 (Released:2014-05-09)

【はじめに,目的】ヒトはある程度の騒音の中にいても,遠方から友人の声がすれば無意識的に反応し,注意を切り替えることができる。カクテルパーティ効果などと呼称されるこの能力は,外部刺激に対する自動的な脳内情報処理機構として動物が自然界で生き延びるための生来的な能力の一つと言われている。ミスマッチ陰性電位(Mismatch negativity:MMN)はこのような注意に関連した認知機能を反映する事象関連電位として,認知神経科学の分野で多く研究されている。本研究では二重課題歩行が,ヒトの注意機能に与える影響を明らかにすることを目的とし,歩行中のMMNについて検討した。【方法】対象は健常成人24名とした。計測課題はA1:坐位で無声動画を見ながらのMMN計測,A2:自由歩行にて無声動画を見ながらのMMN計測,およびB1:水運搬課題(水の入ったカップを把持し,こぼさず歩く)にてMMN計測,B2:粘土運搬課題(粘土の入ったカップを把持して歩く)にてMMN計測,の4つの課題を被験者ごとに擬似ランダムな順序で実施した(歩行速度は至適速度で統一した)。課題に先立ち5分以上の準備歩行を実施すると共に至適速度を定めた。カップは透明なものを用い,底部から上縁までの80%の高さまで水を入れ,左手で胸骨から真っ直ぐ前方へ30~50cmの持ちやすい位置で把持させた。粘土は水と同じ重さとした。歩行中は加速度計(TSND121,ATR-Promotions)を左手首・第三腰椎に装着し運動学的解析を行った。同時にヘッドフォンを通じて0.5秒間隔の音刺激(75ms)を通常音(1000Hz)と逸脱音(1000±100Hz)が5:1の割合となるよう1200回与え,脳波計(32ch Active-two system,Biosemi)によりMMNを計測した。実験終了後に各課題中に被験者が感じた難易度,覚醒度,集中度などについてvisual analog scale:VASを用いて質問した。脳波データは1-20Hzのデジタルバンドパスフィルターを適用後,音刺激をトリガーとして加算波形を作成した。統計解析は課題A1とA2の間でMMN振幅と頂点潜時,および課題B1とB2の間でMMN振幅と頂点潜時,および運動学的指標(躍度,歩幅,ケイデンス,歩行周期変動),またVASの平均値について,対応のあるt検定を実施した。MMN成分について有意差が認められた場合,Loreta解析を用いて脳活動部位の違いについて推定した。有意水準は5%とした。データ解析にはMatlab 2012aを,統計解析にはSPSS ver19.0のソフトウェアを用いた。【倫理的配慮・説明と同意】本研究は倫理審査会の承認を受けており,対象者への説明・同意の上,実施された。【結果】手先躍度,重心位置躍度,歩行変動性は水運搬課題に於いて自由歩行,粘土運搬課題に比べて有意に低下した。ケイデンスはほぼ一定であった。MMN振幅は,水運搬課題において粘土運搬課題に比べて有意に高い値となった。MMN潜時について有意差は認められなかった。課題中の主観的な難易度,覚醒度,集中度は水運搬課題で最も高かった。Loreta解析の結果,水運搬課題ではBrodmann area 6,32,24,4,8における有意な脳活動が推定された。【考察】MMN振幅は粘土運搬課題に比べ,水運搬課題で有意に高い値を示した。このことから二重課題歩行においては外部環境音に対する注意状態が高まることが示唆された。またLoreta解析により複雑運動に関与するとされるBrodmann6野,stroop課題など二重課題で活動する32野の活動が高まった。水運搬課題に於いては,水をこぼさないよう手先の制御に集中するほか,手先の位置を安定させるための滑らかな歩行が要請されたことが,被験者の感じる課題への集中度や覚醒状態が上がったことの要因と考えられた。なお水面の状態を常時確認するため,必然的に視線は水面に集中するが,このような状態で外部環境に対応するためには,聴覚的な注意機能を高める必要性が生じることも要因として考えられた。二重課題歩行(B1およびB2)にてMMNに差が生じた要因として以上のような注意・覚醒度の上昇,また視覚情報の制限などが挙げられた。【理学療法研究としての意義】脳波計測は非侵襲的で計測も簡便である一方,アーチファクトの問題により歩行中に実施することは難しく,これまで主に坐位,立位,歩行準備期など,静的な計測条件に限定されてきた。しかし近年,計器性能の向上により実用的なデータが得られることが示されてきており,臨床応用の可能性が広がっている。高齢者や各種疾患を有する人々に於いては,注意機能などの低下が転倒因子の一つと成ることが示されているが,これまで歩行中の注意機能について脳機能計測を用いた直接的な検討は非常に少ない。本研究は脳波計測を歩行中の脳機能評価として応用できる可能性を示した点に於いて意義があると考えている。
著者
村神 瑠美 倉山 太一 後藤 悠人 谷 康弘 田所 祐介 西井 淳 近藤 国嗣 大高 洋平
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】中枢神経系は複雑な歩行制御を,速度に依らない特定のシナジーを用いて簡易化し,恒常的な制御を行うとされている。Ivanenko(2006)らは健常成人の32個の下肢・体幹・肩の歩行筋活動パターンの90%以上が,わずか5つの因子で説明でき,さらにその因子は一定の速度範囲において不変であると報告した。しかし一方で,極端に遅い速度域で健常者が歩行した場合,歩幅や歩行率などの変動性が増大することから,極低速域では恒常的な歩行制御が成立しない可能性がある。脳卒中患者ではそのような低速度域で歩行している場合も多く,歩行介入を考えた場合,極低速域における歩行制御に関する知見は重要な意味を持つと考えられる。そこで本研究では極低速域における歩行制御を筋活動の側面から明らかにすることを目的に,健常者を対象として通常速度域から極低速域における筋電解析,運動学的解析を行った。【方法】対象は健常成人男性20名(26.8±4.53[歳],体重64±8[kg],身長1.72±4.31[m])とした。計測課題は10,20,40,60,80,100[m/min]の6条件でのトレッドミル歩行を擬ランダムな順序で実施した。表面筋電計(Trigno,DELSYS)にて,歩行中の体幹・下肢16筋(外腹斜筋,腹直筋,大腿直筋,外側広筋,長腓骨筋,前脛骨筋,ヒラメ筋,腓腹筋外側頭,半腱様筋,大腿二頭筋,脊柱起立筋,中殿筋,大殿筋,大腿筋膜張筋,縫工筋,長内転筋)を測定した。運動学的指標として歩幅,歩行率などを三次元動作解析装置(Optotrak,NDI)を用いて計測した。筋電解析は,最初に各速度における各筋の表面筋電図について,1歩行周期で正規化し,20歩行周期分の加算波形を作成した。続いて,被験者ごとに得られた16筋の加算波形に対して速度ごとに主成分分析を行い,固有値0.5以上の主成分波形を抽出した。更に速度60[m/min]の主成分波形と,その他の速度の主成分波形の間で相関係数を算出,正規化(Fisher-Z変換)した数値を各波形の類似度とした。運動学的解析については,歩行比(歩幅/歩行率)を算出した。統計は,主成分波形の類似度,及び歩行比について,速度を因子とした一元配置分散分析を実施し,有意差が得られた場合に下位検定として各速度間での多重比較(paired-t検定)を実施した。有意水準は5%とした。解析および統計にはMatlab 2012aならびにSPSS 19.0を用いた。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会にて承認され,全対象者に内容を説明後,書面にて同意を得た。【結果】主成分分析の結果,平均で5.1個の主成分が得られた。主成分波形の類似度(相関係数のz値)は,第1主成分では極低速域(10,20[m/min],<i>z</i>=0.8)が他の速度域(<i>z</i>=0.9~1.1)に比べ有意に低下した(<i>p</i><.05)。第2~第4主成分では10[m/min]でそれぞれ<i>z</i>=0.6,<i>z</i>=0.5,<i>z</i>=0.4であり他の速度(<i>z</i>=0.7~1.1,<i>z</i>=0.6~0.9,<i>z</i>=0.5~0.8)と比べ有意に低下した(<i>p</i><.05)。第5主成分においては全速度間で有意差はみられなかった(<i>z</i>=0.3~0.6)。歩行比については,60[m/min]以上ではほぼ一定(0.0051~0.0056[m/steps/min])の値を示したが,低速域では10,20[m/min]でそれぞれ0.0093,0.0066[m/steps/min]と速度が低下するにつれて有意に増加した(<i>p</i><.05)。また極低速域では,歩行比の変動係数が10,20[m/min]でそれぞれ0.38,0.26となり,通常速度(0.15~0.17)と比べて増加傾向であった。【考察】極低速域における筋活動の主成分波形は,通常速度域とは有意に異なった。このことから通常速度でみられる恒常的な筋活動パターンは,極低速域では成立しないことが示唆された。特に20[m/min]以下の速度では,主成分波形の類似度が他の速度よりも有意に低下し,また運動学的な観察においても,歩行比が有意に増大し変動性も増加傾向にあったことから,これ以下の速度では歩行の恒常性が維持されず,通常速度域とは異なる歩行制御がなされていることが推察された。以上の知見より,極低速域にて歩行する患者への歩行介入において,いわゆる正常歩行パターンを適用することが好ましくない可能性を示した。【理学療法学研究としての意義】低速歩行に関して,従来のメカニズムとは異なる可能性があるという示唆が得られ,脳卒中患者など超低速歩行で歩行する病態へのアプローチにおける基礎的な知見を提供した。
著者
谷川 伸也 倉山 太一 影原 彰人 須賀 晴彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B4P1074, 2010

【目的】3次元動作解析装置は、現況では、どの施設でも導入出来るような安価なものは少なく、特に光学センサーを用いるタイプは測定場所が限られてしまう。そこで我々は、臨床における客観的な評価ツールとして、安価で使いやすい動作解析システムを構築することを念頭に情報収集を始めた。2008年8月、任天堂の汎用ゲーム機Wiiのリモコン(以下:Wiiリモコン)を用いて、パソコンをコントロールするソフトウェアがフリーで公開されたこと、また2009年4月に刊行された技術評論社ソフトウェアデザイン5月号の記事がヒントとなり、我々は公開されているフリーソフトを改変してパソコンにWiiのデータを保存し、エクセル上で解析を行うというシステムを構築した。具体的にはWiiリモコンには高感度な3軸加速度センサーが内蔵されており、経時的に加速度データを送信しているが、このデータをBluetoothという通信機器でパソコンと接続し(無線通信)、Wii Flashというアプリケーション用いて、100Hzの頻度でパソコンに取り込むものである。なお必要経費はPCも含め5万円を下回る(システムについては問い合わせに応じる)。元々、Wiiリモコンは人間の3次元的な動作を元にアプリケーションを操作する「physical computing」の分野から生まれたものであり、動作解析には適している。今のところ医療分野において正式な研究報告は少ないが、テニスプレーヤの動作解析など国内においてWiiリモコンを使用した動作解析の研究報告があり、測定機器としての信頼性も獲得されつつある。そこで今回我々は、Wiiリモコンを用いて脳卒中片麻痺患者の歩行を定量的に評価する試みを行った。また同時に健常者でも測定を行い、患者との相違について比較検討した。<BR>【方法】対象患者は、脳卒中片麻痺患者(以下患者群)11名(男性8名、女性3名、平均年齢65.5±10.4歳、左麻痺8名、右麻痺3名、Brs3:2名、4:5名、5:3名、6:1名、発症からの年数3.0±2.1年)とし、対照群は、健常者(以下健常群)11名(男性8名、女性3名、平均年齢27.4±5.1歳)とした。患者は近位監視レベルで屋外歩行が可能な者を対象とした。測定課題は左・右下腿外側にWiiリモコンをバンドで固定し、平地歩行路を快適速度で100歩歩行することとした。加速度データは3軸で、前後方向(X軸)、上下方向(Y軸)、左右方向(Z軸)となるようWiiリモコンを固定した。解析は、Root Mean Square(RMS)を算出し、患者群、健常群それぞれで、左・右下肢のRMS平均値の差を取り、その絶対値について、対応の無い t検定を用いて患者-健常者間で比較した。<BR>【説明と同意】全て参加者には、事前に研究の趣皆、実施内容を説明し同意を得ている。<BR>【結果】X軸方向(前後)における患者群のRMS平均値の左右差は、健常群よりも有意に増大していることが認められた(p<0.05)。また、患者、健常者で、測定条件および測定場所を同一にし、複数回測定を行った結果、患者、健常者両者とも、ばらつきが少ない結果が得られており、再現性が確認された。<BR>【考察】片麻痺患者の下肢加速度については、特にX軸方向(前後)で有意な左右差が認められ、これは麻痺側の振り出しの加速度が非麻痺側に比べ減少していることに起因すると考えられた。なお、「ぶん回し歩行」による横方向の加速度は検出できなかったが、今後、Wiiの角加速度データについても解析することで検出が可能か検討したい。なおデータから左右下肢の加速度の相違についてのグラフなどによる可視化、数値化が可能であった。視覚的、数値的に歩行の性質を明示出来ることから、Wiiリモコンによる動作解析は脳卒中片麻痺患者の歩行の特徴を捉えることが可能であること、また経時的変化を記録して、治療効果判定に利用できる可能性が示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究は、これまで敷居が高く臨床現場で気軽に実施することが難しかった3次元動作解析を、汎用ゲーム機であるWiiリモコンを用いることで可能とした点で重要である。また実際に片麻痺患者における歩行解析に有用であることも示した。測定機器を用いた客観的な動作解析が臨床現場で普及しない要因は大きく"価格"と"気軽さ"にあると考えるが、今回のシステムはこれらの問題をクリアしており、今後の普及が期待できる。
著者
倉山 太一 渡部 杏奈 高本 みなみ 重田 奈実 長谷川 裕貴 山口 智史 小宮 全 吉田 奈津子 清水 栄司 影原 彰人 須賀 晴彦
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.929-933, 2009 (Released:2010-01-28)
参考文献数
23

〔目的〕通所リハにおける在宅脳卒中患者を対象としたCI療法の効果について検討した。〔対象〕当院通所リハを利用の片側上肢機能不全を有する脳卒中患者で適応基準を満たした6名であった。〔方法〕非麻痺側上肢の運動制限を行いながら,麻痺側上肢の集中的な課題遂行型介入を1日5時間,2週連続(平日の10日間)で実施した。評価項目は,Wolf motor function test(WMFT),Motor activity log(MAL),Fugl-Meyer assessment scale(FM)とし,CI療法の実施前後,3ヶ月,6ヶ月後に実施した。〔結果〕WFMTのtimeおよびMALにおいて,介入前後で,有意な改善を認めた。また,評価が可能であったすべての症例で,3ヶ月後,6ヶ月後においても介入効果が持続していた。〔結語〕通所リハにおいて,一般的な手法に従ったCI療法実施は可能であり,上肢の機能改善および実用性が向上することが示唆された。
著者
笹谷 香織 倉山 太一 村神 瑠美 大高 洋平
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100195-48100195, 2013

【はじめに、目的】小型加速度計は、歩行周期時間や歩幅などの客観的な指標を精度良く算出することが可能であると報告されており、非拘束で測定場所を選ばない点や、測定の簡便さから、臨床応用の容易な歩行解析機器として着目されている。現在、加速度計はiPhone(Apple社)などの汎用電子機器にも標準的に内蔵されており、これを利用した加速度計測用のソフトウェアも複数存在する。iPhoneによる歩行解析については、加速度のピーク時間より同定される歩行周期時間をはじめとした、時間因子に関わる評価について報告が複数あるものの、重心変位幅など加速度値そのものを利用した歩行評価については十分に検討されていない。そこで本研究では、iPhoneによって計測された加速度値、またこれを利用した重心変位量の妥当性を検討することを目的に、異なる歩行速度における重心位置の加速度と、これを利用し算出した重心変位量について、三次元動作解析装置ならびに、研究用小型加速度計との比較を行った。【方法】対象は健常成人9 名(男性5 名、女性4 名、平均年齢23.3 ± 1.1 歳)とした。第3 腰椎棘突起部を重心位置としてiPhoneをベルトで固定し、同じ箇所に研究用加速度計(DELSYS社)を重ねて貼付し、課題中の加速度を垂直・前後・左右方向で計測した。iPhoneの加速度取得にはiPhoneのアプリケーションである「加速度ロガー(アイム有限会社)」を使用した。また光学式三次元動作解析装置(NDI社製、以下、動作解析装置)の光学マーカーを同じ場所に貼付し、位置情報の計測により各方向における変位量、及び加速度の基準値(実測値)を算出した。サンプリング周波数は100Hzで統一した。測定課題はトレッドミル上での歩行とし、歩行速度[m/min]は20、40、60、80、100 の5 条件とした。解析は、静止立位時の加速度が全方向で0 となるように重力の影響を校正した後、iPhone及び加速度計で取得された40 歩分の加速度データについて、速度別に、研究用加速度計、並びに動作解析装置から得た基準加速度値との相関検定を行った。またiPhoneと研究用加速度計で得られた加速度を積分して各軸における変位量を算出し、動作解析装置の実測値との相関について検定した。データ解析および統計解析にはMatlab 2012aを用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は病院倫理委員会の承認を得ており、対象者に研究内容を十分に説明し、同意を得て行った。【結果】iPhoneで計測された加速度は、全方向、全速度条件で動作解析装置の基準値と有意に相関した。相関係数の平均値は、垂直方向では、0.95 ± 0.03、前後方向では0.93 ± 0.07、横方向では0.85 ± 0.07 であった。また同じく研究用加速度計とも有意な高い相関を示した。iPhoneのデータを元に算出された重心変位量については実測値との比較では全方向で相関係数は最大で0.06 であり相関は認められなかった。一方、研究用加速度計とiPhoneの重心変位量については相関係数が0.35 〜0.63と全ての速度で有意に相関した。【考察】iPhoneで取得された加速度は、動作解析装置ならびに研究用加速度計における加速度と高い相関を示した。このことから歩行速度が20 〜100[m/min]の範囲でiPhoneを加速度計として歩行解析に用いることは妥当性があることが示唆された。一方、加速度から計算された重心変位量については、研究用加速度計から算出された重心変位量との相関は高かったが、実測値である動作解析装置の値とは相関が低く、重心変位量の計測に於いてはiPhoneの妥当性は低い可能性が示された。結論としてiPhoneは加速度計の性能としては研究用加速度計と同等であるといえるが、同時に、加速度計が持つ特性である重力加速度の影響を受けることから、重心変位量の計測においては誤差が大きくなることが示唆された。歩行解析に於いて加速度計は体幹や下肢に装着して使用するため、それらの周期的運動による重力方向の変化が、計測される加速度に影響を与える。今後はこれらの性質や特徴を明らかにし、何らかの補正方法を考案することで重心変位量の誤差を低下させる取り組みなど、追加検討を実施したい。【理学療法学研究としての意義】加速度計はiPhone以外にも多くの汎用電子機器に内蔵されており、その普及率は高い。本研究はこれらの機器を利用した歩行評価の可能性を一部示した点において意義があると考えている。