- 著者
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須賀 祐治
- 雑誌
- マルチメディア,分散協調とモバイルシンポジウム2017論文集
- 巻号頁・発行日
- vol.2017, pp.689-695, 2017-06-21
Bitcoinは,P2Pネットワークと暗号技術を用い,利用者の匿名性を確保しながらコインの流通が可能な仮想通貨の一方式である.匿名の研究者,中本哲史氏による論文がBitcoinのコンセプトとともに2008年11月に公開され,さらに約2ヵ月後の2009年1月にはThe Cryptography Mailing ListにオープンソースであるBitcoin v0.1が投稿された.論文だけでなく実装が登場したことでBitcoinは徐々に認知され利用されるようになった.この時点ではごく少数のコミュニティでP2Pネットワークが形成され,Bitcoinの交換が行われていたものと推測される.Bitcoinそのものも仮想的な価値があるのみで,そこまで流通していなかったと考えられ,実際初期に生成(採掘)されたBitcoinの多くはまだ利用されていないものが多く見受けられる.このように狭い範囲の閉じた世界で流通していたBitcoinに対して,実世界での価値を見出す者が現れたことが転機となった.2011年1月,通販サイトSilkRoadでの決済方法にBitcoinが利用可能になったことで,匿名で決済できる手段を持つ仮想通貨が注目され,ほぼ同時期にBitcoinの交換レートが急騰していることが報告されている.研究や実証実験で投入されたこのプロジェクトは,決済時の匿名性確保というモチベーションにより一気にユーザ層が変化した(匿名通信方式Torを利用して商取引を行うようなユーザの利用が増えた,もしくはマネーロンダリング,さらに秘密裏に国外へ貨幣を持ち出したいユーザが増えた)と分析できる.この際,やはり同時にBitcoinの暴落が起きている.為替や株式などと同様,またはそれ以上に外的要因が交換レートに影響しているとも言える.最近のBitcoin利用拡大に対し,政府によるBitcoinに対してポジティブ・ネガティブ両方の見解が表明されている.匿名性を持って取引ができ,中央組織を持たずに国境を越えて自由に流通してきたBitcoinは,技術的にも信頼できる仕組みとして認識され,今まさに一般社会に受け入れられようとしている.しかし取引所のひとつであったMt.Goxの破綻により,状況が刻一刻と変わり続けているのも事実である.本稿のコントリビューションは以下の2点である.1)仮想通貨としてのBitcoinを別の用途で利用するいくつかの提案を行う.2)仮想通貨の中の仮想通貨というLocal bitcoinの流通という新しい概念とその可能性について議論する.