著者
石橋 正信 馬場 俊孝 高橋 成実 今井 健太郎
出版者
日本自然災害学会
雑誌
自然災害科学 (ISSN:02866021)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.125-142, 2019 (Released:2020-02-29)
参考文献数
12

南海トラフの沈み込み帯において,M9クラス巨大地震とそれにともなう巨大津波の発生の可能性が内閣府により指摘されて久しい。この津波被害想定によると,地震域近傍の沿岸地域では地震発生から数分後に巨大な津波が到達してしまうため,津波防災に向けた行動計画の再構築や人的被害軽減のための迅速な対応策の検討が極めて重要になる。その対応策のひとつとして,高速かつ高精度な即時津波予測が有効と考えられる。本研究では,地震と津波観測に向けた稠密海底観測網(DONET)による沖合観測網を利用した即時津波予測システムを構築し,和歌山県沿岸6地域において実装を行い,その有効性の検討を行った。本システムにより,地震と津波の初動到達時間を即時評価できること,沿岸津波高や浸水域の即時予測が可能であることを示した。さらに,1944年昭和東南海地震の事例と内閣府のM9クラス巨大地震の波源シナリオを用いて本システムの予測精度を検証した。本システムで即時予測される沿岸津波高や浸水域面積はやや過大評価傾向にあるものの,おおむね安全側の予測結果となり,津波防災上有効なシステムであることを示した。
著者
石村 大輔 馬場 俊孝 近貞 直孝 山田 圭太郎
出版者
東京都立大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

人類の多くは沿岸低地に居住しており,津波リスクにさらされている.中でもフィリピンが面する南シナ海の周辺人口は数億人にのぼり,東南アジアの主要都市が立地している.しかし,南シナ海の津波リスク把握のための基礎的情報が圧倒的に不足しており,実証的なデータ(津波堆積物)に立脚した津波リスク評価は喫緊の課題である.そこで本研究では,南シナ海における津波リスク評価の高度化を目指して,ルソン島の海岸に分布する巨礫を対象にし,1)空撮画像による巨礫の大きさ・分布の把握,2)巨礫を運搬させうる津波の数値計算,を行う.そして,過去に南シナ海を襲った津波の規模と波源の推定を行い,津波リスクを評価する.
著者
高橋 光太郎 柏原 健之朗 五十嵐 康彦 馬場 俊孝 堀 高峰 岡田 真人
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第33回全国大会(2019)
巻号頁・発行日
pp.4K3J1304, 2019 (Released:2019-06-01)

津波による被害を抑えるために,水圧計を使用した津波高即時予測システムは世界中で使われている. 津波の高さは,基本的に伝播中の地形(海底地形)に依存するため,予測には沿岸付近で観測された圧力計の値と海岸近くの予測点での津波の高さの間の相関関係を利用する. 津波高の予測には,被害を最小限に抑えるために予測精度と過小評価を避けることの両方が重要になっている. 従来の方法は,1506の地震シナリオから観測された水圧計の値に幅を持たせその中で最大の津波高を予測値としている.しかし,過小評価を避けるために実際の津波高に比べて大きく予測され,精度の低い手法となっている. 本研究では,ガウス過程回帰を用いた津波高予測手法を拡張し,過小評価が少なく精度の高い予測手法を提案した.また,従来法と提案法において,南海トラフの震・津波観測監視システム(DONET1)の圧力計データを用いて津波高を予測する検証を行い,予測精度と過小評価率の比較を行なった.
著者
馬場 俊孝 岡田 泰樹 芦 寿一郎 金松 敏也
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

南海トラフなどの沈み込み帯では海溝型地震が繰り返し発生する.過去の事象の解明は将来の予測に直結するが,近代的な地震津波観測が始まったのはおよそ100年前であり,それよりも古い地震については史料や地質調査に頼らざるを得ない.徳島県には「震潮記」という史料が存在する.これには1512年永正地震,1605年慶長地震,1707年宝永地震,1854安政南海地震の徳島県宍喰地域の被災状況が記録されている.宍喰は四国の南東部にある海岸沿いの集落であり津波による被害が甚大である.特に1512年永正地震では津波により3700人あまりが死亡したと震潮記にあり,大津波の発生を推察させる.ところが1605年慶長地震,1707年宝永地震,1854安政南海地震の記録は震潮記以外にも多数の記録が存在し,それらの津波は西南日本の太平洋沿岸部を広く襲ったと解釈できるが,1512年永正地震に関する史料は震潮記を除いて存在せずこの地震の真偽は定かではない.本研究では1512年永正津波が局所的な津波であったと仮定してその波源について考察する.局所的な津波の例としては,たとえば1998年のパプアニューギニア地震津波のような海底地すべりによる津波が挙げられる.海底地形図を用いて海底地形を調査し,宍喰の南東約24km沖合の水深約800mの海底に幅約6km,高さ約400mの滑落崖を確認した.さらに学術研究船「白鳳丸」KH-16-5次航海において無人探査機NSSの深海曳航式サブボトムプロファイラを用いて調査したところ,比較的最近起こったとみられる地すべりの詳細な内部構造が捉えられ,それによる地層の垂直変位は約50mであった.これらの情報を基に海底地すべりをモデル化しWatts et al.(2005)の式を用いて津波の初期水位を求めた.ここで地すべり土塊の移動量は不明であるため,地すべり土塊の移動量を800mから3000mまで変更させて複数回計算を行った.津波シミュレーションでは非線形浅水波式を差分法で解いた.ネスティング手法を用いて宍喰地域の空間分解能を向上させた.宍喰地域の陸上地形データは現況の地形から堤防など人工構造物を取り除くとともに,古地形図などを用いて可能な限り当時の地形に近づけた.津波解析の結果,地すべり移動量1400m~2400mで震潮記に記載された宍喰の浸水状況を再現できることがわかった.この場合の宍喰での最大津波高は6m~9mで,一方対岸の紀伊半島沿岸では最大で津波高3mとなった.
著者
Phil R. CUMMINS 馬場 俊孝 堀 高峰 金田 義行
出版者
公益社団法人 東京地学協会
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.110, no.4, pp.498-509, 2001-08-25 (Released:2009-11-12)
参考文献数
39
被引用文献数
2 2

By carefully analyzing the source process of the 1946 Nankai earthquake and its correlation with plate boundary structure, we attempt to explain the occurrence pattern of historical earthquakes in the Nankai Trough, in which great earthquakes tend to rupture separately either the western or eastern portions of the Nankai Trough. The source process of the 1946 earthquake consists of two major subevents, each corresponding to segments A and B, defined by Ando (1975), which have long been thought to correspond to units of earthquake rupture in the western Nankai Trough. Furthermore, rupture in each subevent begins near the eastern edge of the respective segment, where there are pronounced contortions of the plate boundary : a subducting seamount chain off Cape Muroto and a rapid change in subduction angle beneath the Kii Peninsula. We suggest that these seismotectonic features of the plate boundary shape control to some extent the pattern of great earthquake occurrence in the Nankai Trough.