著者
本宮 嘉弘 高塚 尚和
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.34-41, 2018 (Released:2019-03-28)
参考文献数
6

わが国では近年、軽ハイトワゴンと呼ばれる車高の高い軽乗用車が流行しているが、このような車種は重心が高いため、交差点等で低速度で衝突しただけでも容易に横転する。車両が横転した場合、乗員が車室内に強く二次衝突したり、割れた窓部から車外放出されるなどして死傷することが多い。筆者らが実際に調査した横転死亡事故をもとに、実車を用いた衝突実験やコンピューターシミュレーション解析により事故時に軽ハイトワゴンが横転するメカニズムを解明した。その結果、横転には衝突後のヨー回転速度やローリング共振周波数等が影響することが判明し、さらに走行速度が低いほど横転し易い可能性も示された。このため、軽ハイトワゴンが横転し易い車両であることを周知させるとともに、横転に備えてカーテンシールドエアバッグの装着を義務付ける等の方策が必要であろう。
著者
本宮 嘉弘 山内 春夫 高塚 尚和
出版者
一般社団法人 日本交通科学学会
雑誌
日本交通科学学会誌 (ISSN:21883874)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.34-41, 2015 (Released:2018-03-01)
参考文献数
2

高速道路で事故を起こしたワゴン車が、事故のはずみでガードロープの支柱を押し倒し、これを跨ぐように停止したが、その直後に出火・炎上して6名が死亡した。車底部の強度部材よりも下方に突出した構造のガソリンタンクにガードロープ支柱が突き刺さり、ここから噴出したガソリンが車体と路面の擦過による火花等により着火したものと推定された。このほかにも、高速道路でスリップした乗用車がガードロープ支柱に横向きに衝突して樹脂製ガソリンタンクが破損し出火した事例や、軽自動車が誤って歩道縁石を跨いで走行したためにガソリンタンクが破損し出火した事例について検討を行った。ワゴン型乗用車では、車室の床面を平坦にするためにタンクを車体中央部に下方に大きく突出した構造となっているなど、車体構造上の問題点もある。道路運送車両の保安基準における燃料タンクの安全基準としては、取り付け位置や強度に関する具体的な数値等は明記されておらず、特にタンク下面に到っては何らの規定もない状態である。また自動車アセスメント(JNCAP)において実施されている前面および側面衝突の試験形態では、変形が燃料タンクまで及ぶことはないことから、事故に起因する燃料漏れで車両火災が生じる危険性をメーカーに周知させるまでには到っていない。
著者
高塚 尚和 松木 孝澄 飯田 礼子 伊保 澄子
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究補助金(平成17年度〜平成19年度)での研究成果は以下の通りである。1. 熱中症モデルマウスの作製とその病態解析まずマウスを用いて熱中症モデルを作製することができた。より高い環境下にマウスを暴露させると、マウスは熱中症を短時間で発症し、極めて短時間で死亡した。その際、TNF-α、IL-1β、MIP-2などのサイトカイン及びケモカインmRNAの発現は、より短時間で発現する傾向があったが、その発現の程度は、必ずしも温度とは相関しなかった。熱中症の死亡原因としては、高サイトカイン血症がその一つとして考えられているが、高温環境下においては、体温調節中枢の非可逆的変化及び高度の脱水等がより重要な役割を演じていると考えられた。なお、この研究結果については、現在投稿準中である。2. 短いDNA断片が、炎症性サイトカインを誘導するメカニズムの解析熱中症の重症化し、敗血症が引き起こされる過程において、細菌菌体そのものにより炎症が惹起されるのみではなく、細菌等が崩壊して形成された短鎖DNAによっても炎症が誘導され、その過程において重要な役割を演じているIFN-αの発現やスカベンジャーレセプターの機能をブロックすれば、熱中症の重症化を軽減できるのではと考えられた。3. 急性重症膵炎を合併した熱射病症例の臨床病理学的研究熱射病では、急性膵炎を合併することは一般的ではないが、炎天下での激しいスポーツを行うことは、熱射病を発症しやすくなるばかりではなく、腹部臓器への循環障害が引き起こされ、急性膵炎等の重篤な疾患が惹起される危険性が示唆された。この結果から、炎天下において激しいスポーツを行う際には、急速や水分補給を十分に行い、体調の変化に十分気をつける必要があると考えられた。
著者
渡辺 拓 高塚 尚和 Watanabe Hiraku Takatsuka Hisakazu
出版者
新潟医学会
雑誌
新潟医学会雑誌 = Niigata medical journal (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.130, no.6, pp.361-373, 2016-06

全国の交通事故発生件数,負傷者数及び死者数は減少しているが,高速道路における交通事故は増加傾向にある. 一般に高速道路では, 事故が発生すると乗員が重篤な外傷を負う可能性が高く, 事故時の救急搬送体制,救急医療体制の整備が求められている.本研究では,新潟県警察本部交通部から提供された新潟県内の関越自動車道において, 2006年1月から2012年12月末までに発生した人身事故292件について,病院への救急車による搬送の状況を中心に調査を行い,救急医療の現状と問題点について検討した.交通事故292件中,救急搬送された件数は182件(搬送率62%)であった. 負傷者数は463人(軽傷者371人, 重傷者81人,死者11人)であり,救急搬送された負傷者は309人(搬送率67%)(軽傷者228人, 重傷者70人,死者11人)であった.事故発生時刻は, 8~17時に比較的多く発生し, 21~23時, 2時~4時は少ない傾向にあった.事故現場から病院に搬送されるまでに要した時間は、平均20分,距離は平均15.4kmであった. また事故発生現場は関越道ほぼ全域に見られ,負傷の程度とも明らかな関連は認められなかった.救急搬送された負傷者309人のうち,重傷者及び死者が81人と約1/4を占めていたが, 関越自動車道が整備されている中越及び魚沼地区では,高度の救命救急医療が可能な医療機関は,長岡赤十字病院,立川綜合病院,長岡中央総合病院と長岡市に偏在している. 重篤な負傷者は,受傷後1時間以内に手術が行われるか否かが生命予後を決定する重要な因子であるが,前述の3病院に搬送された事例において,交通事故の覚知から病院に搬送されるまでに要した時間が1時間を超えたものが64人中19人, 32%存在していた. 2015年6月に開院した魚沼基幹病院が救急搬送にもたらす効果を明らかにするため,関越自動車道の各キロポスト区間における最短搬送時間と距離を算出し,魚沼基幹病院開院前と同院開院後での変化をシミュレーションした.その結果,上り線では平均搬送時間が27分,搬送距離が26.6km短縮され(p<0.05), 下り線では平均搬送時間が24分,搬送距離が25.3km短縮されることが判明した(p<0.05). さらに上り線及び下り線がそれぞれ交差している国道及び県道に,高速自動車道から直線の救急車専用退出路を設置したと仮定して, 1キロポスト毎に搬送時間を検討した.その結果,上り線では平均搬送時間が3分短縮し(p<0.05), 下り線では1分短縮した(p<0.05). 2016年秋頃に2機目のドクターヘリが長岡赤十字病院に導入されることから,前述の長岡市の3病院に搬送された64人についてその効果を検証した.その結果,平均搬送時間が19分短縮されることが、判明した(p<0.05). しかし, ドクターヘリには,夜間巡航や高速道路上に直接着陸できない等の問題があることから,消防防災ヘリとの連携,高速道賂上やサービスエリア離着陸の検討が必要である. さらにドクターカーの適切な運用や高速道路からの救急車専用退出賂の整備等も必要である.救急搬送に関わる諸機関がこれまで以上に連携して,救急搬送を取り巻く環境及びシステムを改善・構築し, さらなる人命救助に繋げる必要があると考える.