著者
星井 達彦 紙谷 義孝 喜多 学之 山口 征吾 大橋 さとみ 関口 博史 西山 勉
出版者
新潟医学会
雑誌
新潟医学会雑誌 = Niigata medical journal (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.131, no.8, pp.501-508, 2017-08

前立腺癌疑い患者に対して前立腺生検が行われるが,全身麻酔または腰椎麻酔管理による前立腺生検では通常1~2泊の入院管理で行うことが多い.また日帰り前立腺生検では局所麻酔で行われることが多く,局所麻酔時や穿刺時に患者の苦痛が伴う.我々は2016年1月から全身麻酔管理による日帰り前立腺生検を行っている.全身麻酔管理による日帰り前立腺生検を行うにあたり「全身麻酔管理による日帰り前立腺生検クリニカルパス」を作成し行っている.前日夕食後は禁食とし,生検当日は水分を朝6時まで可とし,午前中に全身麻酔管理による日帰り前立腺生検を行う.前立腺生検はReal-time Virtual Sonography (RVS)を用いたMRI-経直腸的超音波検査同期狙撃生検3-6か所,系統生検左右各5か所の計13~16か所の経会陰的前立腺生検を行う.前立腺生検後3~4時間経過観察し,帰宅時チェックリストを用いてすべての項目で問題がないことを確認後帰宅する.2016年12月までの12ヶ月間に67例に全身麻酔管理による日帰り前立腺生検を施行した.1例で術後膀胱タンポナーデを,1例で術後尿閉を経験したが,再入院を必要とした症例はなく,そのほか周術期に問題となった症例はなかった.全身麻酔管理による日帰り前立腺生検は患者の苦痛が少なく,有用な方法と考えられる.
著者
佐久間 真由美 遠藤 直人 Sakuma Mayumi Endo Naoto
出版者
新潟医学会
雑誌
新潟医学会雑誌 = Niigata medical journal (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.130, no.10, pp.559-563, 2016-10

ロコモテイブシンドロームは運動器の障害に伴う移動能力の低下として2007年に日本整形外科学会から提唱された.フレイルは高齢期の生理的予備能低下により脆弱性が亢進する.身体的問題のみならず, 精神・心理的問題,社会的問題を含む概念とされ,老年医学の分野から生まれた.サルコペニアは筋肉減少症として1989年Rosenbergが提唱した概念である.それぞれの用語は異なる母体から相次いで提唱されたが, 互いに重複する部分もある.現状での各用語と関連についてまとめた.
著者
滝沢 一泰 亀山 仁史 若井 俊文 土田 正則 木下 義晶
出版者
新潟医学会
雑誌
新潟医学会雑誌 = Niigata medical journal (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.134, no.4, pp.113-117, 2020-04

2017年度の医学部定員は過去最多となったが,新潟県は都道府県別にみた医療施設に従事する人口10万対外科専門性資格保持医師数はワースト2位であり,将来必要とされる外科医師数を達成するためには年間40人の外科医を育成しなければならない.この度,日本専門医機構により新専門医制度が確立され,2018年度から外科新専門医制度は開始されたが,専攻医の募集定員は全国204プログラムで計2,061人でありそのうち採用されたのは805人であった.新潟県では2プログラムで計8名を採用した.新潟大学外科専門医プログラムでは2018年4月から6名の専攻医が,2019年4月から8名の専攻医が研修を開始した.卒後臨床研修2年間と専攻医としての3年間(1~3年次)規定の手術数を経験する必要があるが,すでに1年次の段階で各分野別の必須手術経験数のほとんどを経験することができた.手術総数350例および術者数120例以外は,すべて新潟大学外科専門医プログラム1年次で経験できる見込みであり,2年次および3年次は大学病院以外の関連病院で術者として手術を経験することになる.サブスペシャルティ領域がすでに決まっているのであれば,2年次3年次の研修はサブスペシャルティ領域を意識してその領域を専門的に研修できる.我々のプログラムにおける連携施設は新潟県でのhigh volume centerが中心となったが,これはプログラムの整備基準により手術症例数や指導医数に応じて,募集できる専攻医数が決まってしまうことによる.これにより集約化がさらに進んでいくものと考えられるが,新潟県は広い医療圏を持つため集約できない地域も存在するので,そういった地域での医療をどのように行っていくかが喫緊の課題である.また,いわゆる「地域枠」あるいは新潟県の修学賓金を受けていた卒後医師は,地域での指定勤務が義務付けられるのであるが,そのために専門医取得が不利にならないように留意して制度づくりを行った.これまで新潟大学外科学教室は「3科1つ屋根の下に」という理念の下,教育指導を行ってきた.今後とも3科で協力体制をとりながら,教育指導にあたっていきたい.
著者
高橋 邦行
出版者
新潟医学会
雑誌
新潟医学会雑誌 = Niigata medical journal (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.132, no.11, pp.369-375, 2018-11

側頭骨は聴覚,平衡覚のセンサーなどの精密器官や,重要な神経,血管を内部に含む.一方で中耳炎などの炎症疾患が生じやすい部位であり,炎症制御や聴力改善を目的とした手術が行われる.側頭骨手術は,術野が狭い顕微鏡下の手術であること,一度重要構造物を損傷すると不可逆的になることなどの理由から,手術を行う際には三次元的な解剖の熟知が必須であり,難易度の高い手術と考えられていた.しかし近年,さまざまな模擬手術を行うことができるデバイスが発展し,実際の手術以外からも側頭骨解剖を学ぶことができる機会が増えてきた.現在ではカダバー,バーチャルリアリティー,3Dモデルを使用した側頭骨手術トレーニング,シミュレーションが可能であるが,それぞれ利点,欠点が存在する.そのうち3Dモデルは特に有用であり,高いトレーニング効果がみられる.コスト面や手間の問題が解決されることで,3Dモデルは今後さらに普及することが予想され,安全で確実な側頭骨手術に貢献できると期待される.
著者
渡辺 拓 高塚 尚和 Watanabe Hiraku Takatsuka Hisakazu
出版者
新潟医学会
雑誌
新潟医学会雑誌 = Niigata medical journal (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.130, no.6, pp.361-373, 2016-06

全国の交通事故発生件数,負傷者数及び死者数は減少しているが,高速道路における交通事故は増加傾向にある. 一般に高速道路では, 事故が発生すると乗員が重篤な外傷を負う可能性が高く, 事故時の救急搬送体制,救急医療体制の整備が求められている.本研究では,新潟県警察本部交通部から提供された新潟県内の関越自動車道において, 2006年1月から2012年12月末までに発生した人身事故292件について,病院への救急車による搬送の状況を中心に調査を行い,救急医療の現状と問題点について検討した.交通事故292件中,救急搬送された件数は182件(搬送率62%)であった. 負傷者数は463人(軽傷者371人, 重傷者81人,死者11人)であり,救急搬送された負傷者は309人(搬送率67%)(軽傷者228人, 重傷者70人,死者11人)であった.事故発生時刻は, 8~17時に比較的多く発生し, 21~23時, 2時~4時は少ない傾向にあった.事故現場から病院に搬送されるまでに要した時間は、平均20分,距離は平均15.4kmであった. また事故発生現場は関越道ほぼ全域に見られ,負傷の程度とも明らかな関連は認められなかった.救急搬送された負傷者309人のうち,重傷者及び死者が81人と約1/4を占めていたが, 関越自動車道が整備されている中越及び魚沼地区では,高度の救命救急医療が可能な医療機関は,長岡赤十字病院,立川綜合病院,長岡中央総合病院と長岡市に偏在している. 重篤な負傷者は,受傷後1時間以内に手術が行われるか否かが生命予後を決定する重要な因子であるが,前述の3病院に搬送された事例において,交通事故の覚知から病院に搬送されるまでに要した時間が1時間を超えたものが64人中19人, 32%存在していた. 2015年6月に開院した魚沼基幹病院が救急搬送にもたらす効果を明らかにするため,関越自動車道の各キロポスト区間における最短搬送時間と距離を算出し,魚沼基幹病院開院前と同院開院後での変化をシミュレーションした.その結果,上り線では平均搬送時間が27分,搬送距離が26.6km短縮され(p<0.05), 下り線では平均搬送時間が24分,搬送距離が25.3km短縮されることが判明した(p<0.05). さらに上り線及び下り線がそれぞれ交差している国道及び県道に,高速自動車道から直線の救急車専用退出路を設置したと仮定して, 1キロポスト毎に搬送時間を検討した.その結果,上り線では平均搬送時間が3分短縮し(p<0.05), 下り線では1分短縮した(p<0.05). 2016年秋頃に2機目のドクターヘリが長岡赤十字病院に導入されることから,前述の長岡市の3病院に搬送された64人についてその効果を検証した.その結果,平均搬送時間が19分短縮されることが、判明した(p<0.05). しかし, ドクターヘリには,夜間巡航や高速道路上に直接着陸できない等の問題があることから,消防防災ヘリとの連携,高速道賂上やサービスエリア離着陸の検討が必要である. さらにドクターカーの適切な運用や高速道路からの救急車専用退出賂の整備等も必要である.救急搬送に関わる諸機関がこれまで以上に連携して,救急搬送を取り巻く環境及びシステムを改善・構築し, さらなる人命救助に繋げる必要があると考える.
著者
風間 みえ Kazama Mie
出版者
新潟医学会
雑誌
新潟医学会雑誌 = Niigata medical journal (ISSN:00290440)
巻号頁・発行日
vol.130, no.4, pp.237-243, 2016-04

日本の10代の性行動や性意識はインターネットの普及や性情報の氾濫に伴い大きく変化しており, 性行動は低年齢傾向を辿っている. 教育現場では, 中学生に「生命と性」に関する授業, すなわち生命教育と性の健康教育に関する授業を行なっているが, その学習効果は十分に解明されてはいない. そこで本研究では公立中学校の3年生205名に対して生命と性についての授業介入前後にアンケートを行い, 介入効果を調査した. 調査項目は, 「自尊感情」, 「性別の受け止め」, 「男女交際をどの程度まで認めるか」, 「性交のイメージ」, 「性交への意識」の5項目とし, それらを授業前, 授業直後, 授業後2ヵ月に調べた. 自尊感情に関しては, 授業直後から上昇し授業後2ヵ月の時点でさらに上昇が見られた. 性別の受け止めについては, 女子において授業直後で有意に上昇したが授業後2ヵ月時点には上昇は有意でなかった. 「男女交際の限度」, 「性交のイメージ」, 「性交への意識」に関しては, 授業介入の効果は見られなかった. 中学生への生命と性の授業介入で, 自尊感情の上昇と自身の性を肯定することを実証した.