著者
齋藤 新 佐藤 大介 高木 啓伸
出版者
日本ソフトウェア科学会
雑誌
コンピュータ ソフトウェア (ISSN:02896540)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.3_42-3_57, 2014-07-25 (Released:2014-09-25)

近年,情報通信機器およびそれらを介して得られる情報にアクセスできることは,暮らしの上で必要不可欠なものとなっている.とくに,障害を持つユーザにとって,情報通信技術(ICT)は「社会への扉」でありその社会的意義は非常に大きい.そのため,情報および情報通信機器へのユニバーサルアクセスを義務付ける,または推進するための法令を施行している国は多い.また,World Wide Web Consortium (W3C)などの標準化団体はアクセス可能性(アクセシビリティ)に関する技術的標準およびガイドラインを定めており,ICTの提供者が具体的に検証することを可能にしている.本稿では,ICTにおけるアクセシビリティを取り巻く歴史的経緯について紹介し,アクセシビリティ向上を推進する法整備および標準規格について解説する.また,それらの法令・規格に適合するコンテンツの作成および検証を支援する技術について概説する.さらに,近年注目を浴びているタッチUIおよびクラウドソーシングを含む,アクセシビリティ研究の最新動向についても述べる.
著者
高木 啓伸 村田 将之 佐藤 大介 田中 俊也 籔内 智浩 粥川 青汰 木村 駿介
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.63, no.11, pp.d12-d29, 2022-10-15

視覚障がい者の自由な移動を可能にするため,白杖やスマートフォンアプリなどさまざまな支援技術が開発されてきた.しかし初めて訪れる公共空間での移動は依然として困難である.そこで行き先を対話的に選択することで目的地まで誘導する,スーツケースを模した自律型ナビゲーションロボットシステム「AIスーツケース」を開発した.本稿では開発のきっかけから複数企業による共同開発に至った経緯を紹介するとともに,AIスーツケース・システムを構成する技術について解説する.各組織が実施している実験から得られつつある最新の知見を紹介するとともに,今後の普及に向けた技術的,制度的,社会的課題について考える.
著者
高木 啓伸
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.1317-1327, 2000-05-15
被引用文献数
14

情報の電子化が進む現在,検索システムを用いることで膨大なデータの中から特定の情報を容易に探し出すことができる.ところが一方で情報の増加にともない,あまりにも多くの検索結果が引き出されるという現象が起きている.そのため初心者のみならず,目的の情報にたどりつけないという状況に陥ることもしばしばである.このようなユーザの迷いの状態をコンピュータが自動検出し,適切な作業支援を行えばユーザの作業効率が著しく向上すると期待される.しかし,従来の作業履歴の解析を中心とした作業支援システムでは,ユーザが「迷い」の状態に入ったときに履歴自体の取得が困難になるため,その原因を推定することは難しい.ユーザの迷いを推測するためには,時間の空白なくユーザの作業を測定する必要がある.そこで,本論文では視線追跡装置を用いて,ユーザの視線の動きをリアルタイムに測定し,その測定結果よりユーザの迷いを推測する手法を提案する.画面上を移動するユーザの視線には迷っているときに特徴的に現れる視線の一連の規則的な動き,「視線パターン」が含まれている.このような「視線パターン」を発見するためのN-Gram解析を用いた解析手法と,パターンの発生時のユーザの思考を測定してパターンの意味を検証する手法を提案する.本手法を翻訳課題に適用した結果,ユーザが「迷いの状況」に陥ったことを示す規則的な視線パターンを発見した.さらに,このパターンが生じたときのユーザの思考を測定して,これらのパターンが確かにユーザが迷っているときに生じていることを明らかにした.最後に,これらの結果を利用した「迷い」の状況に応じた効果的な作業支援システムの実現性を検討する.With the rapid digitalization of data and the development of efficientsearch engines, it has become easier to track down desired informationwithin a vast volume of data. However, the quantity of online dataoften causes a search engine to return a huge number of hits. As aresult, even advanced users often cannot find the information theywant. It would be possible to offer a better task-processingenvironment if computers could automatically recognize uncertainty onthe part of the user and offer appropriate assistance.However, it is very difficult for existing task assistance systems,which facilitate operation by analyzing a user's operational history,to detect when a user is experiencing uncertainty, since nooperational history exists for such periods. To detect uncertainty, asystem would need to measure a user's behavior continuously withoutany gaps.In this paper, we propose a method of realizing such detection. Themethod is based on measurement of a user's eye movements in real timeby means of an eye-tracking system. While a user's eyes are followingmovements on the screen, a frequent and recurrent ``eye movementpattern" occurs when a user experiences uncertainty. We propose ananalysis method, based on N-Gram analysis, for detecting suchpatterns. We then propose an evaluation method for determining themeaning of the pattern by questioning the user about his or herthought processes during the period when this pattern appeared.We applied this method to a translation task, and detected a recurrenteye movement pattern that occurred when a user experienceduncertainty. Questioning of the user at this time confirmed thereality of the pattern. On the basis of our results, we investigateways of creating an effective task assistance system for various typesof uncertainty.