著者
長倉 淳子 重永 英年 赤間 亮夫 高橋 正通
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース 第114回 日本林学会大会
巻号頁・発行日
pp.443, 2003 (Released:2003-03-31)

スギとヒノキは日本の主要な造林樹種であり、スギは沢沿い、ヒノキは斜面中腹に植林するのが良い、とされてきた。このことは、スギは水要求度が高く、ヒノキは比較的乾燥に耐えるという樹種特性と、斜面上の水分傾度に基づいていると考えられる。しかし林地の斜面上には、水以外にも環境傾度が存在する。植物の生育に大きく影響を及ぼす窒素条件も斜面位置によって異なることが知られている。そこで本研究では、土壌水分と窒素がスギとヒノキの成長に及ぼす影響を明らかにするため、水分と窒素をそれぞれコントロールして苗木の育成試験を行った。森林総合研究所内苗畑において発芽させたスギ、ヒノキ当年生実生苗を、発芽から約1ヶ月後に赤玉土 (pH(H2O)=5.3)を培地とした1万分の1アールワグネルポットに一本ずつ移植した。約2ヶ月の予備栽培後、ポットを6群に分け、3つの窒素条件と2つの土壌水分条件(湿潤、乾燥)とを組み合わせた6つの処理を約3ヶ月行った(n=10)。窒素条件は培養液の窒素濃度を0.5、2、8mM(0.5N、2N、8N)と変えることによって設定した。窒素源には硝酸アンモニウムを用いた。水分条件は灌水間隔を変えることによって設定した。湿潤条件ではおよそ2日に一回の頻度で灌水し、育成期間中、最も乾燥した日で土壌含水比がθ=0.36(-0.005MPa)程度であった。一方乾燥条件ではθ=0.30(-0.06MPa)程度に乾燥した時点で培養液を灌水した。育成試験は自然光型育成温室で行い、温度25/20℃は、湿度は70/80%とした。育成期間中は経時的に主軸の伸長成長を測定した。処理開始から約7週間後に各処理半数の個体(n=5)について掘り取りを行い、その約5週間後に残りの個体も掘り取った。1回目の掘り取り後の約5週間は、各個体について蒸散量を重量法によって測定した。掘り取った個体は部位別の乾重、根元直径、苗高を測定した。各部位は粉砕して分析試料とした。これらの結果を用いて、個体乾重、R/S比(地下部乾重/地上部乾重)、育成期間後半の水利用効率(蒸散量あたりの乾物生産量)等を算出した。葉と根の窒素含有率をNCアナライザによって測定した。スギの乾物生産は窒素処理濃度の増加に伴って増加したが、水分条件による違いは有意でなかった。しかし、伸長成長は乾燥によって抑制された。一方、ヒノキの乾物生産は処理の影響は有意でなかった。ヒノキは伸長成長についても処理間差は明らかでなかった。スギ・ヒノキ共に乾燥処理によって相対的に根への乾物分配が増え、R/S比が増加した。R/S比は、両樹種とも乾燥処理内では窒素処理濃度が低いほど高かったが、湿潤処理内では窒素条件による違いはみられなかった。スギの水利用効率は、水分条件には影響されなかったが、窒素処理濃度の増加に伴って増加した。ヒノキの水利用効率は水分条件や窒素条件に対する一定の傾向がみられなかった。葉の窒素含有率は、両樹種とも窒素処理濃度の増加に伴って増加し、水分条件の影響は受けなかった。根の窒素含有率は両樹種とも窒素処理濃度の増加に伴って増加し、湿潤処理でやや高い傾向がみられた。スギは乾燥によって伸長成長が低下し、窒素処理濃度の減少によって乾物生産、水利用効率も減少した。一方、ヒノキは水分条件や窒素条件による伸長成長、乾物生産への影響は小さかった。これらのことから、スギはヒノキに比べ、窒素、水分条件に対する感受性が高いと考えられる。斜面下部に比べ、窒素や水分の少ない斜面上部における成長低下はヒノキよりもスギで大きいことが示唆された。
著者
高橋 正通 柴崎 一樹 仲摩 栄一郎 石塚 森吉 太田 誠一
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.51-59, 2020-06-25 (Released:2020-07-14)
参考文献数
58
被引用文献数
1

砂漠化防止や気候変動緩和のため乾燥地での植林活動が続けられている。乾燥地・半乾燥地土壌の保水性を高め,苗木の活着や成長を促すため,高吸水性高分子樹脂(superabsorbent polymer,SAP)が土壌改良に利用される。本総説ではSAPを添加した土壌の物理性,化学性,生物性を中心に基礎的知見をとりまとめ,効果的な使い方を考察する。SAP添加土壌は以下のような特徴がある。1)SAPによる保水量の増加は土性の影響が顕著で,埴質な土壌より砂質の土壌の方が保水量は増える。2)SAP添加土壌の水ポテンシャルはpF 2.5以下の水分が主で,永久萎凋点pF 4.2以上で保水される量は少ない。3)吸水と排水過程で大きなヒステリシスが認められ,排水過程の方が保水量は多い。4)塩類濃度の高い水には吸水性能が発揮できない。5)ち密な土壌に粒径の大きな膨潤したSAPを入れると,粗孔隙が増加する。6)SAPの吸水・膨潤時には粗孔隙が塞がれ,一般に透水性は低下する。7)SAPのイオン交換容量(CEC)は大きく,砂質土壌のCEC増加につながる。8)SAP施用により土壌が湿潤になり微生物バイオマスが増加する。9)施用SAPによる環境汚染の影響は小さい。以上のような特性から乾燥地においてSAPを有効に使うには,土壌の塩分が比較的少なく,砂質または粗孔隙の大きな礫質の土壌への施用が推奨される。通常,せき悪土壌は貧栄養なため,肥料と併用するには,SAPの適切な施用位置などの検討が必要である。
著者
重永 英年 長倉 淳子 高橋 正通 赤間 亮夫
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース 第114回 日本林学会大会
巻号頁・発行日
pp.444, 2003 (Released:2003-03-31)

高CO2濃度は植物の成長を促進するが、その程度は栄養状態に左右され、特に窒素が十分でない場合には高CO2の効果が低減することが知られている。CO2濃度上昇が植物の生育におよぼす影響を評価する際には、窒素と高CO2濃度との相互作用を実験的に明らかにするとともに、自然環境下では、植物がどのような窒素の栄養状態にあるのかを把握する必要がある。また、温暖化にともなう気温の上昇は、土壌の養分環境を変化させ、植物の栄養状態に影響をおよぼす可能性が予想される。 葉の窒素含有率は、植物の生育にとって窒素の過不足を表す指標として利用され、光合成速度と密接な関係があることから、モデルのパラメータとして用いられることも多い。本研究では、全国から採取されたスギ針葉の窒素含有率を調べ、平均値とその度数分布を明らかにし、窒素栄養の状態を評価すること、温度環境と針葉窒素含有率との関係を検討することを目的とした。 窒素含有率の測定には、1990年から1994年にかけて林野庁によって行われた「酸性雨等森林被害モニタリング事業」で採取されたサンプルを用いた。上記事業では、全国を20km×20kmのメッシュに区分し、陸地が全体の4分の1未満の場合等を除いた1,033の地理区画ごとに調査地が設定され、林分調査、雨水、土壌の成分分析等が実施された。各地点では、原則として、調査地内の優勢木を対象とし、8月から10月の期間に樹冠上部の当年葉が採取されている。スギ針葉は、香川県と沖縄県を除く45都道府県の500以上の地点から採取された。調査林分の林齢は20から40年生が約8割を占める。針葉の窒素含有率は、CNコーダを用いて定量した。 各調査地の表層土壌の窒素含有率、同C-N比については上記事業のデータを、年平均気温についてはメッシュ統計値(気象庁監修 (財)気象業務支援センター,1996)を利用した。531地点の針葉窒素含有率の度数分布は、正規分布型を示し、平均値は14.0mg gDW-1、標準偏差は2.4mg gDW-1であった。スギ壮齢林の場合には、針葉の窒素含有率が12mg gDW-1未満で成長不良、15mg gDW-1以上で成長良との報告がなされている。本結果では、針葉の窒素含有率が15mg gDW-1以上の地点は全体の3割以上を占め、12mg gDW-1未満の地点は2割に満たない。調査地の設定にあたり、生育不良な林分は選定されていない可能性があるが、針葉の窒素含有率から判断すれば、窒素が大きく不足しているスギ林は多くはないと考えられる。また、スギ苗木では、針葉の窒素含有率が約15mg gDW-1までは光合成速度は増加するが、それ以上では飽和することが知られている。針葉窒素含有率のモードは14から15mg gDW-1にみられ、この値は光合成にとって過不足の無い最適な窒素含有率に近かった。 表層土壌のC-N比を4水準に区分し、各区の針葉窒素含有率を比較すると、C-N比が高い区では針葉の窒素含有率が低い値をとった。年平均気温によって区分した場合は、針葉の窒素含有率は、9.5℃未満の地点では13.6mg gDW-1、14.5℃以上の地点では14.2mg gDW-1と、年平均気温が低い区で値が低い傾向がみられた。低温環境では、表層土壌の窒素含有率、同C-N比が高い値を示しており、土壌有機物の分解が抑制され、窒素の可給性が低いことが、上記の結果と関係していると考えられる。このように、温度環境に対して針葉の窒素含有率は変化する傾向があるものの、その変化量自体は非常に少なかった。温暖化による気温の上昇により土壌の養分環境が変化したとしても、スギ針葉の窒素含有率は大きくは変化しないことが予想される。
著者
高橋 正通 柴崎 一樹 仲摩 栄一郎 石塚 森吉 太田 誠一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.100, no.6, pp.229-236, 2018-12-01 (Released:2019-02-01)
参考文献数
72
被引用文献数
3 2

ポリアクリル酸等を材料とする高吸水性高分子(SAP)は1970年代後半から土壌保水材として利用されている。乾燥地・半乾燥地における農林業や緑化へのSAP利用に関する研究報告や実証試験をレビューした。SAPは自重の数百倍の純水を吸収できるが,塩分を含む水では吸水能が数分の1に低下し,土壌中では粒子間での膨潤に限られる。SAPの利用は,1)裸苗の根の乾燥防止や活着促進,2)土壌の保水性と苗木の乾燥耐性の向上,3)植栽穴への施用による活着や成長促進,4)種子の発芽促進,を期待した研究が多い。ポット試験の結果からは,土壌の保水量はSAP添加量に比例して増加するが,粘土質より砂質土壌で土壌有効水量が増加し,樹木の耐乾性も向上する。実証試験からは,SAP施用で活着や成長が概ね良くなるが,土質や樹種によって反応が異なり,過剰な添加はしばしば苗木の成長を低下させる。SAPの課題として,肥料との併用による保水効果の低下,持続性の短い保水効果,現場コストの未検討等を指摘できる。今後は,体系的な実証研究によるSAPの施用方法の確立,有効な樹種の選別,製品性能の改良が望まれる。
著者
谷川 東子 高橋 正通 今矢 明宏 稲垣 善之 石塚 和裕
出版者
一般社団法人日本土壌肥料学会
雑誌
日本土壌肥料學雜誌 (ISSN:00290610)
巻号頁・発行日
vol.74, no.2, pp.149-155, 2003-04-05
被引用文献数
3

アンディソルとインセプティソルにおける硫酸イオンの現存量を調査し,以下のことを明らかにした。1)吸着態硫酸イオンが主体であるPO_4可溶性Sは全Sの約30%を占める主要な画分であり,その含有率はアンディソルでは16〜880mg S kg^<-1>と高く,インセプティソルでは10〜296mg S kg^<-1>と低く,明瞭な差があった。また欧米の土壌の既報値に比べ,本邦のアンディソルが含有する吸着態硫酸イオンは著しく多く,全Sに占める割合も高かった。2)溶存態硫酸イオン(Cl可溶性Sおよび水溶性S)は両土壌でPO_4可溶性Sよりも含有率が有意に低く,全Sの10%に満たなかった。そのため硫酸イオンはほとんど吸着態で存在していることが明らかになった。3)両土壌におけるPO_4可溶性Sの断面プロファイルは,表層で低く50cm〜1m深で最大値に達する特徴を持っており,とくにメラニューダンドでは最大値に達してからも,高い含有率が下層で維持されていた。4)PO_4可溶性Sは,硫酸イオン吸着能を持つ鉄やアルミニウムの酸化物,とくに腐植複合体画分を除いた非晶質酸化物やアロフェンといった非晶質粘土鉱物,さらに結晶質鉄酸化物の存在に影響を受けていると推察された。溶存態硫酸イオンのうち,交換性硫酸イオン含有率もまたこれらの土壌因子に影響を受けていることが示された。5)メラニューダンドの下層では,硫酸イオン吸着能が著しく高く,その高い硫酸イオン吸着能が水溶性硫酸イオン含有率を低く維持していることが推察された。6)表層から1m深まで積算したPO_4可溶性Sの現存量は,アンディソルでは870〜2670kg S ha^<-1>,インセプティソルでは91〜1440kg S ha^<-1>であった.溶存態硫酸イオンの現存量はPO_4可溶性Sに比べ著しく低く,表層から1m深までの積算で,Cl可溶性Sはアンディソルで17〜103kg S ha^<-1>,インセプティソルで13〜144kg Sha^<-1>,水溶性Sの現存量はアンディソルで23〜56kg S ha^<-1>,インセプティソルで26〜91kg S ha^<-1>であった。