著者
勝海 東一郎 河手 典彦 平野 隆 高橋 秀暢 木下 孔明 平栗 俊介 田口 雅彦 梶原 直央 安富 文典 小中 千守 加藤 治文
出版者
The Japanese Association for Chest Surgery
雑誌
日本呼吸器外科学会雑誌 (ISSN:09190945)
巻号頁・発行日
vol.8, no.5, pp.638-642, 1994
被引用文献数
1

46年間無症状で経過したのち血痰, 喀血にて発見された肺内異物 (焼夷弾破片) の一症例を経験したので報告する.肺内異物のうち, 特に本症例の如き鉱物性肺内異物では肺内における異物の移動とそれに伴う臨床症状の発現あるいは異物近傍からの発癌の報告例もあり, たとえ無症状で経過している場合でもその発見機会や症状発現時には可及的に外科的摘出を考慮すべきと思われた.
著者
川久保 晋 東 龍介 日野 亮太 高橋 秀暢 太田 和晃 篠原 雅尚
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

北海道襟裳沖のプレート境界浅部はスロー地震活動が活発な海域として知られ,超低周波地震(Very Low Frequency Earthquake, VLFE)は2003年十勝沖地震以降(Asano et al., 2008),低周波微動は日本海溝海底地震津波観測網(S-net)の運用が始まった2016年以降(Tanaka et al., 2019; Nishikawa et al., 2019),それぞれの活動の様子が把握されてきた.とりわけ2016年以降にはS-netによってVLFEの活動に先駆けて半日から4日前に微動活動が始まることが明らかとなった(Tanaka et al., 2019).一方,VLFEの活動範囲は2011年東北地方太平洋沖地震(東北沖地震)前後で変化していないように見えることから,微動活動も東北沖地震以前より発生していた可能性がある.そこで本研究は,北海道襟裳沖における東北沖地震以前の微動の検出とその活動様式を明らかにすることを目的とする. 本研究では,2006年10月25日から2007年6月5日に設置されていた自己浮上式海底地震観測網42点の記録から,エンベロープ相関法(Ide, 2010)を用いて微動を検出し震源決定を行った.本研究では観測点間のエンベロープ波形の最大相互相関係数が0.6を超える観測点ペアが10組を超えた場合にイベントを検出したとみなした.震源決定には相互相関係数が最大となるときの時刻差を観測走時差として用い,この走時差を最もよく説明する震源をインバージョンによって求めた. 解析の結果,検出された全イベント10445個のうち,継続時間20秒以上かつマグニチュードが3以下で,震央誤差と時間残差が小さい微動は989個見つかった.検出された微動の震源は海溝軸から一定の距離に分布しており,深さの推定誤差が10 km未満と小さいイベントは沈み込む太平洋プレートの境界面に集中して分布する様子がみてとれた. 観測期間中に微動とVLFEの活動が共に活発だった時期(活動期)は2006年11月,2007年3月,そして2007年5月の3度あり,それぞれの期間で微動の時空間的な特徴に着目した.1つ目の活動期(2006年11月12日~19日)には微動の活動域は16–23 km/dayで北東に移動していたと推定された.ただし,11月15日に千島海溝中部で発生した巨大地震(Mw 8.3, Lay et al., 2009)の活発な余震活動の影響で微動の検知能力が低下した可能性がある点や,設置されていた地震計が全観測網の南側半分のみであった点に留意する必要がある.2つ目の活動期(2007年3月15日~19日)には微動の活動域は25–30 km/dayで南西に移動していたと推定された.3つ目の活動期は2007年5月10日のみで終息した小規模なものであり,先の活動期とは違い地震発生場所の移動は認められなかった. これら3つの微動活動とAsano et al. (2008)のVLFE活動を比較すると,両者の活動時期はおおよそ一致し,詳しく見ると微動がVLFEに対して半日~4日半ほど先に活動を開始する傾向があることが分かった.こうした関係性は東北沖地震後の微動・VLFE活動(Tanaka et al., 2019)に共通する.また,検出した微動全ての震央分布を東北沖地震後にS-netで検出された微動(Nishikawa et al., 2019)と比較すると,両者は空間的にほぼ一致しており,東北沖地震前後で分布域に変化はなかったと考えられる.このような2006年から2007年と現在の微動・VLFE活動の共通点は,東北沖地震によってこの領域におけるスロー地震活動の振る舞いに影響を及ぼさなかったことを示している.
著者
内田 直希 東 龍介 石上 朗 岡田 知己 高木 涼太 豊国 源知 海野 徳仁 太田 雄策 佐藤 真樹子 鈴木 秀市 高橋 秀暢 立岩 和也 趙 大鵬 中山 貴史 長谷川 昭 日野 亮太 平原 聡 松澤 暢 吉田 圭佑
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

沈み込み帯研究のフロンティアである前弧の海域下において,防災科学技術研究所は新たに日本海溝海底地震津波観測網(S-net)を構築した.S-netは東北日本の太平洋側の海岸から約200kmの範囲を海溝直交方向に約30km,海溝平行方向に50-60km間隔でカバーする150点の海底観測点からなり,その速度と加速度の連続データが,2018年10月より2016年8月に遡って公開された.観測空白域に設置されたこの観測網は,沈み込み帯の構造およびダイナミクスの解明に風穴をあける可能性がある.本発表ではこの新しいデータを用いた最初の研究を紹介する.まず,海底の速度計・加速度計の3軸の方向を,加速度計による重力加速度および遠地地震波形の振動軌跡を用いて推定した.その結果,2つの地震に伴って1°以上のケーブル軸周りの回転が推定されたが,それ以外には大きな時間変化は見られないことがわかった.また,センサーの方位は,5-10°の精度で推定できた.さらに得られた軸方向を用い,東西・南北・上下方向の波形を作成した(高木・他,本大会).海底観測に基づく震源決定で重要となる浅部の堆積層についての研究では,PS変換波を用いた推定により,ほとんどの観測点で,350-400mの厚さに相当する1.3 – 1.4 秒のPS-P 時間が観測された.ただし,千島-日本海溝の会合部海側と根室沖の海溝陸側では,さらに堆積層が厚い可能性がある(東・他,本大会).また,雑微動を用いた相関解析でも10秒以下の周期で1.5 km/s と0.3 km/sの2つの群速度で伝播するレイリー波が見られ,それぞれ堆積層と海水層にエネルギーを持つモードと推定された(高木・他,本大会).さらに,近地地震波形の読み取りによっても,堆積層およびプレート構造の影響を明らかにすることができた.1次元および3次元速度構造から期待される走時との比較により,それぞれ陸域の地震の海溝海側での観測で3秒程度(岡田・他,本大会),海域の地震で場所により2秒程度(豊国・他,本大会)の走時残差が見られた.これらは,震源決定や地震波トモグラフィーの際の観測点補正などとして用いることができる(岡田・他,本大会; 豊国・他,本大会).もう少し深い上盤の速度構造もS-netのデータにより明らかとなった.遠地地震の表面波の到達時間の差を用いた位相速度推定では,20-50sの周期について3.6-3.9km/sの位相速度を得ることができた.これはRayleigh波の位相速度として妥当な値である.また,得られた位相速度の空間分布は,宮城県・福島県沖の領域で周りに比べて高速度を示した(石上・高木,本大会).この高速度は,S-netを用いた近地地震の地震波トモグラフィーからも推定されている.また,このトモグラフィーでは,S-netの利用により海溝に近い場所までの速度構造がよく求まることが示された(豊国・他,本大会).雑微動解析によっても,周期30秒程度の長周期まで観測点間を伝播するレイリー波およびラブ波を抽出することができた.これらも地殻構造の推定に用いることができる(高木・他,本大会).また,海域の前弧上盤の構造についてはS-net 観測点を用いたS波スプリッティング解析によって速度異方性の特徴が明らかになった.プレート境界地震を用いた解析から,速いS波の振動方向は,海溝と平行な方向を向く傾向があり,マントルウエッジの鉱物の選択配向や上盤地殻のクラックの向きを表している可能性がある(内田・他,本大会).プレート境界においては,繰り返し地震がS-net速度波形によっても抽出できることが示された.プレート境界でのスロースリップの検出やプレート境界の位置推定に役立つ可能性がある(内田・他,本大会).さらに,S-net加速度計のデータの中には,潮汐と思われる変動が観測されるものもあり,プレート境界におけるスロースリップによる傾斜変動を捉えられる可能性があるかもしれない(高木・他,本大会).以上のように,東北日本の前弧海洋底における連続観測について,そのデータの特性が明らかになるとともに,浅部から深部にわたる沈み込み帯の構造や変動についての新たな知見が得られつつある.これらの研究は技術的にも内容的にもお互いに密接に関わっており,総合的な解析の推進がさらなるデータ活用につながると考えられる. 謝辞:S-netの構築・データ蓄積および公開に携わられた皆様に感謝いたします.