著者
横谷 明徳 高須 昌子 石川 顕一
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.81-85, 2014 (Released:2019-10-31)
参考文献数
10

放射線は,今や医療現場においては治療や診断など国民の健康生活に不可分な要素である一方,福島における低線量被ばくに対するリスク評価など,放射線に関わる研究者が取組まなくてはならない課題は数多くある。複雑な階層構造を持つ生物システムが放射線ストレスに対してどのように応答するかについては,分子,細胞あるいは個体など様々なレベルでの実験が行われている。一方,これらの実験により得られた知見から法則性を抽出し,放射線応答の一般化したモデルを構築することが求められる。コンピュータの高性能化により,最近ではこれらのモデル研究も新しい領域に入りつつある。放射線の照射により生じるDNA損傷・修復の初期の物理・化学的過程からDNA修復に関する生物学的過程及びアト秒領域におけるDNA-電子相互作用に焦点を当てた理論研究など,シミュレーション研究の最前線を解説する。
著者
樋渡 保秋 高須 昌子
出版者
金沢大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

1.ガラス転移点近傍のダイナミックスの異常性 液体の密度の揺らぎの緩和時間はガラス転移点に近づくにつれて非常に長くなる。このような緩和時間の異常性(dynamical slowing down)にともなって、転移点近傍で動的な物性に異常が現れる。我々は簡単な二元合金モデルを用いて長時間分子動力学シミュレ-ションを行う事から過冷液体のslow dynamicsや動的構造およびガラス転移のミクロな機構について考察した。主な結果は、(1)高過冷液体では密度緩和(自己相関関数)がいわゆる引き延ばされた指数関数となる。(2)原子の自己拡散は主としてジャンプ運動による。これらは主に、単原子のジャンプ運動によるものではなく数個ないしは数十個の近傍の原子が連なって協力的に起こる。(3)ノンガウシアンパラメ-タの極大値が通常の液体のそれに比して異常に大きく大きくなる。このことからも原子拡散が単純なブラン運動から予測されるものと大きく異なることが分かる。(4)ノンガウシアンパラメ-タの極大値とその時の時間の値の積とからガラス転移点を見積もる事が出来る。この方法の最大の長所は転移点が中間時間領域の情報から求められることにある。従って、従来の拡散係数などの温度依存性から求める方法では避けられない困難な問題(拡散係数を求めるには長時間の情報を必要とする)が回避できる。(5)(1)で述べた指数の値は温度(密度)の値によって単調に変化する。従って、これはモ-ド結合理論の結果と異なる。2.ガラス転移点近傍のslow dynamicsの理論 トラッピング拡散モデルを用いて過冷液体中の原子拡散の理論的考察を行った。3.過冷液体の2体分布関数の理論 2体分布関数の積分方程式の近似精度をあげることから、液体はもとより過冷液体、ガラス状態の熱力学的諸性質が従来の近似理供よりもはるかに高い精度での計算が可能となった。これを用いて近距離相互作用(斥力)の型と二成分系の相分離傾向の関係について興味ある結果を得た。