著者
藤井 健太郎 秋光 信佳 藤井 紳一郎 加藤 大 月本 光俊 成田 あゆみ 横谷 明徳 丹羽 修 小島 周二
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

リボ核酸の一種であるアデノシン三リン酸(ATP)は、生体エネルギー供与物質として様々な生化学反応へエネルギーを供与している。また同時に、遺伝情報の仲介物質であるメッセンジャーRNAを合成するための基質として、さらには細胞間情報伝達物質としても働く。本研究では、放射光軟X線により、ATPに生じた放射線障害が、ATPの持つ生物学作用にどのように関わっているかに注目して、その生物学的効果への寄与を解析することを試みた。そして、ATP分子の構造変化はガン細胞の放射線感受性に変化を生じさせている可能性を示唆する結果を得た。
著者
横谷 明徳
出版者
The Japanese Radiation Research Society
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.74, 2009 (Released:2010-02-12)

これまで放射線のトラック構造と生物影響に深く関係する難修復性のDNA損傷の関連について、モンテカルロシミュレーションを用いた数多くの研究が行われてきた。これらの研究は、トラックがDNA分子を通過することによる直接的なエネルギー付与(直接作用)によりDNA二本鎖切断(DSB)が高い確率で生じ、LETの増大とともにその頻度も増加することを予測している。我々はこれまで、直接作用により誘発されるDSBの収率をプラスミドDNAをモデル分子として観察してきた。試料に用いたpUC18プラスミドDNAは、通常の細胞中のDNAと同じコンフォメーション(B-form)となるよう高水和状態に維持した。この条件では、1ヌクレオチドあたりの水分子は約35分子であり試料の質量中の50%を水が占めることになるが、もしOHラジカルが生成したとしても自由に拡散できるバルク水が無いゲル状の試料である。照射に用いた放射線は、日本原子力研究開発機構高崎研究所TIARA及び放射線医学総合研究所HIMACから得られるHe, C 及びNeイオンを用いた。同一LETでもイオン種によるトラック構造の違いがあるため、異イオン種間のLETの比較は注意を要する。そこで我々は、それぞれのイオン種でLETを変えながらプラスミドのコンフォメーション変化として電気泳動法によりDSBを定量した。その結果、HeイオンによるDSB生成収率は20 keV/µmに極小値をもつが、これより高LET側では急激に収率が増大し、120 keV/µmではその約4倍の値となった。しかしさらに高LET側では、再び減少に転じた。Cイオンでも80-500 keV/µmとLETを上げていくとDSB収率は増大したが、その傾向はHeイオンに比べると小さかった。Neイオンでは、300-900 keV/µmの領域ではDSB収率にほとんど変化はなかった。以上のことは、イオントラックからの直接的エネルギー付与により生じるDSBの収率はLETの増加に伴って増大するが、その傾向はイオン種によって違いがあることがわかった。本口演では、私たちと同様なLET依存性を見せる過去の知見を交えながらDSBの生成収率と生物効果に対する考察を行っていく。
著者
横谷 明徳 高須 昌子 石川 顕一
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.81-85, 2014 (Released:2019-10-31)
参考文献数
10

放射線は,今や医療現場においては治療や診断など国民の健康生活に不可分な要素である一方,福島における低線量被ばくに対するリスク評価など,放射線に関わる研究者が取組まなくてはならない課題は数多くある。複雑な階層構造を持つ生物システムが放射線ストレスに対してどのように応答するかについては,分子,細胞あるいは個体など様々なレベルでの実験が行われている。一方,これらの実験により得られた知見から法則性を抽出し,放射線応答の一般化したモデルを構築することが求められる。コンピュータの高性能化により,最近ではこれらのモデル研究も新しい領域に入りつつある。放射線の照射により生じるDNA損傷・修復の初期の物理・化学的過程からDNA修復に関する生物学的過程及びアト秒領域におけるDNA-電子相互作用に焦点を当てた理論研究など,シミュレーション研究の最前線を解説する。
著者
横谷 明徳 赤松 憲 藤井 健太郎 渡邊 立子 漆原 あゆみ 鹿園 直哉
出版者
独立行政法人日本原子力研究開発機構
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究では、放射線の直接効果によるDNAの損傷過程を、DNA中の特定元素を狙い撃ちができるシンクロトロン軟X線ビーム(以下軟X線)を用いることで解明することを目的としている。本年度はDNA塩基の蒸着薄膜試料を作成し、短寿命の塩基ラジカルをESRにより測定した。その結果、薄膜にわずかに水分子が吸着すると塩基ラジカルの収率が減少することを、窒素及び酸素のK吸収端の軟X線を利用することで新たに見出し、損傷過程においてDNAと配位水層との間の電荷交換相互作用が介在することが示された。一方、これまでに軟X線を用いて実験的に得られているDNAの1本鎖切断、2本鎖切断及びFpgなどの塩基除去修復酵素との反応で可視化された酸化的塩基損傷の収率について、モンテカルロシミュレーションによる理論的な解析を進め、特定元素の内殻吸収によりクラスター化した複雑なDNA損傷が生じることを明らかにした。さらに、軟X線と同様に高密度励起・電離を与えるイオンビームについても、研究当初には予定されていなかったが同様な実験を進め高LET放射線によるDNA損傷収率を得ることができた。また細胞レベルでの修復応答を調べるための新しい実験方法として、大腸菌の塩基除去修復酵素欠損株に損傷を含むDNAを適当なベクターで導入し、修復反応をさせた後に再び細胞からDNAを回収して損傷の修復度合いを測定する方法を確立した。この方法により、ふたつの塩基損傷からなるクラスター損傷により、修復欠損株では突然変異率が極めて増大することが明らかになった。さらにDNAとタンパク質がクロスリンクするタイプの損傷を調べる目的で、アミノ酸の薄膜に対する軟X線照射及びHPLC法による照射生成物の分析を行ない、光学異性アミノ酸に関する円偏光軟X線二色性スペクトルの測定に世界で初めて成功するとともに、アミノ酸同士が重合した二量体が生成することを確認した。
著者
横谷 明徳 渡辺 立子 秋光 信佳 岡 壽崇 鵜飼 正敏 福永 久典 藤井 健太郎 服部 佑哉 野口 実穂 泉 雄大 Hervé du Penhoat Marie-Anne
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

X線照射したEGFPプラスミドを“非照射”の細胞導入し、ライブセル観察によりEGFP蛍光の発現速度の低下から難修復性のクラスターDNA損傷が生じていることを示した。また軟X線を照射しながら水和デオキシリボース(dR)からの脱離イオンを測定し、水分子が分子の激しい分解を抑制すること、またその理由がdRから配位水への高速のプロトン移動によることを分子動力学計算により示した。さらに放射線トラックエンドで生じる多数の低速2次電子は、発生位置から数nm以上離れたところに塩基損傷を誘発し、修復過程を経てDNAの2本鎖切断に変換され得るクラスター損傷を生成することを示した。
著者
横谷 明徳 黒川 悠索 鵜飼 正敏
出版者
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

突然変異等など放射線による遺伝的変異の主要な要因であるDNAの分子損傷のメカニズムを、物理化学的観点から解明する。このため、DNAの電子状態に焦点を当て、ミクロな世界を支配する量子的性質と分子損傷の相関を実験と理論の両面から探る。特にハロゲンなど重い元素をDNAに取り込ませた生体に現れる高い放射線感受性のメカニズムを解明し、量子的観点から放射線増感剤の効果を制御するための技術開発に資する知見を得る。
著者
鵜飼 正敏 横谷 明徳 藤井 健太郎 斉藤 祐児 福田 義博 島田 紘行 住谷 亮介 安廣 哲 深尾 太志 南 寛威
出版者
東京農工大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

DNAの放射線損傷と損傷を回避するための細胞系の自発的修復とを熱力学的緩和過程の観点から統一的に研究するための分光法の開拓を目的として、既存の液体分子線・シンクロトロン放射光電子分光法を発展させるとともに、新規に、光励起とは相補的な高速電子線エネルギー損失分光システムを開発した。また、光励起と電子エネルギー損失に後続して誘起される分子の非定常状態とその反応を時間発展的に観測するための分光学的研究法を開発した。