著者
髙清水 康博
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.119, no.9, pp.599-612, 2013-09-15 (Released:2014-02-07)
参考文献数
79
被引用文献数
4

北海道における津波堆積物研究の現状と課題をまとめ,これまでに公表された北海道の津波堆積物研究に関する文献リストを示した.また,将来の津波防災を考えた際に重要である17世紀津波堆積物についてレビューをした.特に道東地域の“500年間隔地震”による津波,胆振地域の波源不明17世紀津波,および1640年北海道駒ヶ岳山体崩壊津波について研究経過と堆積物の特徴を述べた.その上で,今後の課題を3つ述べた.すなわち,①津波履歴の未解明地域における履歴解明,②重要な社会インフラ施設周辺での重点的な調査,および③17世紀津波(道東の“500年間隔地震”による津波と胆振海岸の津波)の実態解明である.
著者
藤林 紀枝 山上 遥那 高橋 洋子 髙清水 康博 齋藤 暁史 Fujibayashi Norie Yamakami Haruna Takahashi Yoko Takashimizu Yasuhiro Saitoh Akifumi
出版者
新潟大学教育学部
雑誌
新潟大学教育学部研究紀要 自然科学編
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.113-123, 2019-03

月の高度簡易測定器「ツクヨミ」を作成し,方位磁石とともに用いて月の形と移動経路を測定する実習を実施した.小・中学校の学習内容である「月の満ち欠け」,「地球から見た月の動き」,「月と太陽と地球の位置関係」,および「月の運動(公転)と見え方」は,小学校理科の学習項目の中で「教える自信」のない項目の1つである.本研究では,教育学部理科教育専修の2年次学生の授業で,月の高度簡易測定器「ツクヨミ」を新たに作成し,それを用いて1ヶ月間のうち6日の月の観測をさせた.そのデータを基に,月と太陽と地球の位置関係と月の運動(公転)について図示させたところ,系統的に高めの数値を記録した者が数名あったが,測定者ごとの月の移動経路はほぼ弧を描き,有益な結果を得ることができた.授業では他に,ボールとライトを用いた月の満ち欠け実験と,月齢カレンダーを用いた月の形と月の出・入時刻の規則性の調べ等を行った.その結果,授業前は位置関係と地球から見た月の形と出入り時刻の相関性が分かっていた学生が18.2%だったのに対し,授業後は理解度が大きく上昇し81.8%となった.記述からは,月と太陽と地球の位置関係の理解において,視点の転換だけでなく,地球の自転による時刻の変化と,北から俯瞰した時の(観察者にとっての)方角の概念が欠けやすいことが明らかになった.そして,特に中学生以降の観察や観測の機会の少なさが,理解度を減少させる原因の1つとなっている可能性が指摘される.「ツクヨミ」のような簡易測定器を用いて月の位置を数値化し,科学的思考に発展させることが今後重要となるであろう.
著者
川上 源太郎 加瀬 善洋 卜部 厚志 髙清水 康博 仁科 健二
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.123, no.10, pp.857-877, 2017-10-15 (Released:2018-01-25)
参考文献数
90
被引用文献数
3 6

日本海東縁の沿岸域では,津波起源とされるイベント堆積物の報告が急増している.その時間-空間分布を整理し,地域間の対比と推定される波源を提示した.19~18世紀にはいくつかの歴史津波が知られ,地点数は多くないが対応するイベント堆積物が報告されている.18世紀以前は歴史記録に乏しいが,イベント堆積物から14~9世紀の間に次の4つの津波イベントの存在が示唆される-14世紀:青森~山形北部,12世紀:北海道南西部,11世紀(西暦1092年?):佐渡/新潟~山形南部,9世紀(西暦850年?):(佐渡~)山形~青森-.これらのイベントは日本海盆の地震性タービダイトにも記録されている.より古いイベント堆積物は,奥尻島や佐渡島などの離島で認められている.現時点では堆積物の起源の認定や正確な年代決定などに多くの問題が残っており,この総説が今後の問題点の解決と日本海東縁の古津波像解明の一助となることを期待する.
著者
髙清水 康博
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.123, no.10, pp.805-817, 2017-10-15 (Released:2018-01-25)
参考文献数
76
被引用文献数
1 3

北海道太平洋側の古津波堆積物研究の現状と課題を,北方四島と北海道太平洋側の断層モデルに焦点を当てて示した.過去7000年間における国後島と色丹島の津波堆積物の層数は色丹島の方が多いことは,色丹島の方が海溝に近いため,規模の小さな津波でも地層中に記録されたためである.一方,国後島には規模の大きな津波のみが到達するため,巨大津波の履歴がよく記録されている.北海道の太平洋側の津波堆積物の分布を説明するために設定された複数の断層モデルの復元からは,北海道西部太平洋岸の波源として東北北部沖断層モデルの重要性が指摘された.北海道胆振海岸と青森県東通の津波堆積物履歴をあわせて考えると,少なくとも過去2500~2800年前以降に北海道西部太平洋岸に来襲した津波堆積物は1層のみであるということが見えてきた.
著者
石原 与四郎 髙清水 康博 松本 弾 宮田 雄一郎
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.120, no.Supplement, pp.S41-S62, 2014-08-31 (Released:2014-12-26)
参考文献数
40
被引用文献数
2 2

宮崎県の日南海岸沿いには,古第三系~新第三系の深海相がよく露出する.このうち日南市の猪崎には,古第三系日南層群がオリストリスとして見られる.その内部はチャネル・レビーシステムのタービダイトサクセッションから構成されるが,ソールマークや生痕化石が顕著に観察できるとともに,様々な液状化・流動化構造がよく発達していることで知られている.日南層群を不整合で覆う宮崎層群は,前孤海盆充填堆積物であり,粗粒な“宮崎相”と砂岩泥岩互層からなる“青島相”からなる.“宮崎相”は河川~浅海および,狭い陸棚をもつ斜面上に形成されたファンデルタシステムで,相対的海水準の変動と対応した堆積相の分布を示す.これらには石灰岩や波浪を特徴付ける堆積相,さらに重力流堆積物が顕著である.一方,“青島相”は海岸沿いによく露出し,全体的に単調な砂岩・泥岩互層からなる“タービダイト”サクセッションをなす.これらの“タービダイト”は,通常とは異なる堆積構造をもち,その重なりは通常のタービダイトサクセッションとは違う層厚分布を示す.そして一部には津波堆積物と考えられる厚層理砂岩層も挟在する.●本巡検では,主に日南海岸沿いに分布するこれらの深海相・タービダイトサクセッションをめぐり,様々な重力流堆積物やそれらが構成する地層を見学する.
著者
加瀬 善洋 仁科 健二 川上 源太郎 林 圭一 髙清水 康博 廣瀬 亘 嵯峨山 積 高橋 良 渡邊 達也 輿水 健一 田近 淳 大津 直 卜部 厚志 岡崎 紀俊 深見 浩司 石丸 聡
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.122, no.11, pp.587-602, 2016-11-15 (Released:2017-02-20)
参考文献数
52
被引用文献数
3 4

北海道南西部奥尻島南端の低地における掘削調査から,泥炭層中に5枚のイベント堆積物を見出した.イベント堆積物の特徴は次の通りである; (1)陸方向および川から離れる方向へ薄層化・細粒化する,(2)級化層理を示す,(3)粒度組成の特徴は河床砂とは異なり,海浜砂に類似する,(4)粒子ファブリックおよび堆積構造から推定される古流向は概ね陸方向を示す,(5)渦鞭毛藻シストおよび底生有孔虫の有機質内膜が産出する,(6)海側前面に標高の高い沿岸砂丘が発達する閉塞した地形において,現海岸線から内陸へ最大450mほど離れた場所まで分布する.以上の地質・地形学的特徴に加え,過去に高潮が調査地域に浸水した記録は認められないことから,イベント堆積物は津波起源である可能性が極めて高い.14C年代測定結果と合わせて考えると,過去3000-4000年の間に1741年および1993年を含めて少なくとも6回の津波が発生しているものと考えられる.
著者
髙清水 康博 永井 潤 岡村 聡 西村 裕一
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.119, no.1, pp.1-16, 2013-01-15 (Released:2013-05-08)
参考文献数
61
被引用文献数
5

北海道太平洋沿岸の胆振海岸東部に分布する古津波の復元を,堆積学的解析によって試みた.この津波堆積物は,現海岸線からの距離に対して,層厚と代表粒径が減少し,淘汰は良くなる強い相関関係を持つことが認められた.この津波堆積物の不攪乱定方位試料の粒度組成と粒子配列の解析からは,少なくとも3回の強い津波の浸入が認められる.特に,今回解析した地点1の津波堆積物の粒子配列のデータは,地点1では東北東への流れを示す遡上流のみからなる可能性を示した.これらの証拠から,砂丘の背後に広がる湿原に浸入した津波堆積物の堆積モデルを呈示した.最初に砂丘を乗り越えた津波は,地表面を侵食し,泥炭偽礫を取り込む.津波によって流入した海水のほとんどは,海側にある標高の高い砂丘のために海へ戻らずに,沿岸低地に静水域を形成する.引き続く津波は,この静水域の水底の堆積物を侵食する強い力は持たない.最終的に,海水は地下浸透と蒸発によって消滅する.