著者
丹羽 達哉 山下 聡 八久保 晶弘 小西 正朗 坂上 寛敏 仁科 健二 南 尚嗣
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

オホーツク海網走沖におけるメタンハイドレート(MH)の存在の可能性については,我が国が世界に先駆けてMHの資源化プロジェクトを立ち上げた1995年当時,網走沖の北見大和堆にはBSR(海底擬似反射面)らしき反射面が存在すると指摘されたのが始まりである。また,産業技術総合研究所が2001年に実施したGH01航海では,網走沖に顕著なBSRを確認している。この海域から採取した表層柱状試料では,ガスを含むことによる膨張や断裂などの特徴を示しており,海底表層部にMHが存在する可能性が強く示唆された。その後,MHを対象とする継続的な調査は行われていなかったが,2011年に北見工大と東京大学との共同での調査を開始し,2012年の東京海洋大学練習船「海鷹丸」による調査において,網走沖で初めてMHが採取された。その後は,本学が主体となって北海道大学練習船「おしょろ丸」による調査や海洋研究開発機構調査船「なつしま」による調査など継続的に調査を行っている。しかし,調査内容の主体は,計量魚群探知機やマルチビーム音響測深機によるガスプルームや海底地形観測,シングルチャンネル音波探査,サブボトムプロファイラー等の音波探査装置による海底下構造調査,コアラーによる海底堆積物の採取など,洋上からの調査が主体であり,海底面における湧出ガスやMHの胚胎状況などの目視観測は行ってはいなかった。そこで,2017年7月に第一開洋丸(海洋エンジニアリング(株))搭載の遠隔操作無人探査機(ROV;KAIYO 3000)により,北海道網走沖のオホーツク海の水深550m程度の海山頂部および水深750m程度の海底谷の2地点において潜航調査を行った。調査の結果,湧出口は狭い範囲に多数確認され,多量のガスが噴出している様子を撮影することに成功した。また,湧出ガスを漏斗状の容器で捕集し,漏斗上部に取り付けた圧力容器で湧出ガスを直接回収した。さらに,噴出孔付近をROVのマニピュレータで掘削したところ,ガスとともにメタンハイドレートの小片が上昇する様子も見られ,メタンハイドレートが表層付近から存在していることも確認された。調査地点一帯には,多数のバクテリアマットが観察されるとともに,カーボネートの集合体も多数確認された。カーボネート集合体やガス湧出口付近には多くのカニ類も観察され,また,メタン湧出域で生息するシロウリガイと思われる二枚貝の生体個体も採取された。また,潜航調査での撮影画像から,水深550m程度の海山頂部の200×100mの範囲内におけるガス湧出量の概算も行った。調査範囲内において,20か所程度のガス湧出地点が確認され,各地点での湧出口は1か所の場合や複数の湧出口が密集している場合などさまざまであった。湧出ガス量を算定したところ,5m程度の湧出口密集範囲での1年間の湧出量は170,000m3程度と算定された。この量はガス価に換算すると400万円程度であった。また,範囲内全体での湧出量は1,000,000m3,ガス価で2500万円程度と見積もられた。
著者
加瀬 善洋 川上 源太郎 小安 浩理 高橋 良 嵯峨山 積 仁科 健二
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.128, no.1, pp.7-26, 2022-01-15 (Released:2022-02-15)
参考文献数
58
被引用文献数
3

北海道の津軽海峡沿岸域において津波堆積物調査を実施した結果,4地点で泥炭層中に挟在する6枚のイベント堆積物を見出した.イベント堆積物の形成年代は589~516 cal yBP,734~670 cal yBP,1656~1538 cal yBP,1745~1639 cal yBP,2401~2265 cal yBP,2771~2618 cal yBPである.イベント堆積物の供給源,確認地点の現海岸線からの距離,発生頻度から総合的に判断すると,イベント堆積物は津波起源の可能性がある.イベント堆積物はいずれも隣接地域の既知の津波イベントと年代的に近接する.一方,年代の新しいイベントは13~15世紀頃と推定され,北海道から東北地方の太平洋沿岸域で広く知られる17世紀の津波イベントは北海道津軽海峡沿岸に堆積物を残していないことが示された.このことは,17世紀に発生した津波の波源域を考える上で,拘束条件の1つとなる可能性がある.
著者
川上 源太郎 加瀬 善洋 卜部 厚志 髙清水 康博 仁科 健二
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.123, no.10, pp.857-877, 2017-10-15 (Released:2018-01-25)
参考文献数
90
被引用文献数
3 6

日本海東縁の沿岸域では,津波起源とされるイベント堆積物の報告が急増している.その時間-空間分布を整理し,地域間の対比と推定される波源を提示した.19~18世紀にはいくつかの歴史津波が知られ,地点数は多くないが対応するイベント堆積物が報告されている.18世紀以前は歴史記録に乏しいが,イベント堆積物から14~9世紀の間に次の4つの津波イベントの存在が示唆される-14世紀:青森~山形北部,12世紀:北海道南西部,11世紀(西暦1092年?):佐渡/新潟~山形南部,9世紀(西暦850年?):(佐渡~)山形~青森-.これらのイベントは日本海盆の地震性タービダイトにも記録されている.より古いイベント堆積物は,奥尻島や佐渡島などの離島で認められている.現時点では堆積物の起源の認定や正確な年代決定などに多くの問題が残っており,この総説が今後の問題点の解決と日本海東縁の古津波像解明の一助となることを期待する.
著者
加瀬 善洋 仁科 健二 川上 源太郎 林 圭一 髙清水 康博 廣瀬 亘 嵯峨山 積 高橋 良 渡邊 達也 輿水 健一 田近 淳 大津 直 卜部 厚志 岡崎 紀俊 深見 浩司 石丸 聡
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.122, no.11, pp.587-602, 2016-11-15 (Released:2017-02-20)
参考文献数
52
被引用文献数
3 4

北海道南西部奥尻島南端の低地における掘削調査から,泥炭層中に5枚のイベント堆積物を見出した.イベント堆積物の特徴は次の通りである; (1)陸方向および川から離れる方向へ薄層化・細粒化する,(2)級化層理を示す,(3)粒度組成の特徴は河床砂とは異なり,海浜砂に類似する,(4)粒子ファブリックおよび堆積構造から推定される古流向は概ね陸方向を示す,(5)渦鞭毛藻シストおよび底生有孔虫の有機質内膜が産出する,(6)海側前面に標高の高い沿岸砂丘が発達する閉塞した地形において,現海岸線から内陸へ最大450mほど離れた場所まで分布する.以上の地質・地形学的特徴に加え,過去に高潮が調査地域に浸水した記録は認められないことから,イベント堆積物は津波起源である可能性が極めて高い.14C年代測定結果と合わせて考えると,過去3000-4000年の間に1741年および1993年を含めて少なくとも6回の津波が発生しているものと考えられる.
著者
吉本 充宏 古川 竜太 七山 太 西村 裕一 仁科 健二 内田 康人 宝田 晋治 高橋 良 木下 博久
出版者
日本地質学会
雑誌
地質學雜誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.109, no.10, pp.595-606, 2003-10-15
被引用文献数
5 18

鹿部冲の海底に分布する北海道駒ヶ岳火山1640年の岩屑なだれ堆積物を調査した音波探査の結果,海底岩屑なだれ堆積物の分布の末端部を確認することに成功したこれらは溶岩流などに認められる急勾配の末端崖は示さないものの,傾斜の変化を示す海域に分布する流れ山は岩屑なだれ堆積物分布末端部では存任せず,流走距離に反比例して規模・分布頻度が小さくなる傾向を示す海域における岩屑なだれ堆積物の分布は,主方向が北東方向と東方向の双頭状の分布を示し,給源からの最大水平流走距離は約20km,最大幅は約15km,分布面積は約126km^2であるH/L比は0.06であり,海底を流走した岩屑なだれは同規模の陸上岩屑なだれより流動性が高い傾向がある実際に海中に流入した体積は,探査から求めた海底地形データによって見積もった体積に,薄く広がった部分と流れ山の体積を加えた0.92〜120km^3と見積もられた