著者
山崎 新太郎 釜井 俊孝 渡邊 達也
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2020
巻号頁・発行日
2020-03-13

そこにあるべき海上の島または陸が消滅してしまったという伝説は世界各国にあり,科学的根拠の有無に関わらず人々の関心を引きつけてきた.しかし,地図や写真等で正確な地形の記述がなされるようになった近代以降で,そのような「島の消滅」が記録されている例はほとんど無い. 本講演で扱う長崎県の横島の事例は島の大部分が徐々に消滅していったという状況が,過去の20世紀初頭に作成された地形図や撮影された写真,その後,20世紀中盤から得られている空中写真により明確である希有な事例である.地元香焼町の地誌と地形図によると横島は約20,000平方メートルの面積に約700名が居住していた.これは炭鉱開発のためであり,1894-1902年の短期間のみ開発された後,放棄され,無人島となった.空中写真によると1947年から少なくとも1982年にかけて徐々に島の陸地場が消失していったことが空読み取れる.現在では,島の西部の大部分が消失し,東西に分かれた2つの岩礁となっている.島の消失のメカニズムは炭鉱開発に原因を求めるもの以外にも大規模な岩盤地すべりの発生に求めるものがあった.それは,周囲に大規模岩盤地すべりを起こしやすい地質が分布することや,地元ダイバーによって海底に巨大な岩塊が散在している様子が目撃されていたからである. 著者らは横島の消滅のメカニズムを解析するするために,陸上部の地質調査,ダイビング写真資料の収集を行った.それに加えて,水中透明度の高い条件を待ってUAVによって上空からの撮影を行い,既存のオルソ衛星写真と位置合わせを行って水深 5 mより浅い領域の構造物や地形,節理系などの地質構造を平面図上にマッピングした.さらに,それよりも深い水域に関しては,レジャー用ソナーに搭載されたサイドスキャン機能とシングルビーム測深によって海底の構造物のイメージングを行い,平面図化すると共に地形図を作成した. これらの調査は,水没した旧地表面と多数の水中の地溝状の地形の分布を明らかにした.旧地表面は水中でNからNWに8-12°傾斜しており,その平面形状と現在の島の形状を合わせると1947年撮影の空中写真に認められた島の形状に近かった.水中に没した旧地表面の南縁にはプリズム状に分離した長さ10 mに達する岩塊が幅50 m長さ300 mに亘って散在していた.そして,島の周辺の海底には概ねSWW-NEE走行の地溝が複数認められた.地溝の走行は相対的に不動である島東部の節理系の卓越方向であるNNW-SSEまたはNNE-SSWとは無関係であった. 島の陸上部には,シームレス地質図v2を参考と筆者の調査によると古第三系に属する砂岩・泥岩・凝灰岩が認められ,それらの層理面は不動部の島東部では15°傾斜していた.一方で沈下したと考えられる領域の陸上部の層理面の傾斜はそれより急で25°であった. 以上の調査結果から旧地表面は,約10°北に傾斜して沈下したと考えられる.石炭層およびそれを掘削した坑道の広がりや深度に関する情報は不十分であるが,石炭層および坑道は堆積岩の層理面に平行であると考えられるので,地下の空洞が北に傾斜して形成されていたと考えるのは調和的である.北への鉛直方向への回転・傾動により島が南北に引き延ばされ概ね東西走行の開口が形成された.また,島の南側は南北方向への伸長に加えて急傾斜になり,重力や,回転・傾動に伴う局所的な応力集中によって破壊が進み,節理面を分離面とする崩壊が発生した.これにより旧地形面南縁に巨大プリズム岩塊が散在する海底を島の南縁部に形成した.
著者
Dagvadorj Otgonjargal 中村大 川口貴之 渡邊達也 川尻峻三 宗岡寿美
出版者
一般社団法人 資源・素材学会
雑誌
Journal of MMIJ (ISSN:18816118)
巻号頁・発行日
vol.137, no.7, pp.69-78, 2021-07-31 (Released:2021-07-31)
参考文献数
16

In this study,field surveys were carried out at the damaged area of slope stabilization works,where the main cause was presumed to be the frost heaving of the rock mass.Field measurements of the freezing depth and the amount of frost heave were also conducted.In addition, the effectiveness of the slope stabilization work with the frost heave measures was verified based on the investigation results.The findings are summarized as follows. (1) From the results of the field survey and the field measurements,it was found that even if frost heaving occurred in the extreme surface layer, the rock mass would be degraded and the slope stabilization work would be affected.(2)From the results of the frost heaving tests, it is clear that the frost susceptibility of the damaged rock slope is extremely high, and there was wide agreement between the results of the frost heaving tests and the results of determining the frost susceptibility of the damaged rock slope using a simple strength test method. Therefore, the validity of the simple method proposed by Nakamura et al. for determining the frost susceptibility of rocks by using the strength test was also verified. (3)It was confirmed that both the gabion and the continuous fiber reinforced soil work were effective in preventing the freezing front from advancing into the rock mass.The method of covering the rock slope with non-frost susceptible material to prevent the penetration of the freezing front was found to be effective as a countermeasure against frost heaving.
著者
中村 大 川口 貴之 千葉 貴久 伊藤 陽司 渡邊 達也 山下 聡
出版者
一般社団法人 資源・素材学会
雑誌
Journal of MMIJ (ISSN:18816118)
巻号頁・発行日
vol.132, no.1, pp.14-21, 2016-01-01 (Released:2016-01-16)
参考文献数
5
被引用文献数
1

In this study, we conducted a follow-up survey of brick cracking on a brick wall in the parking space of JR Kitami Station and installed temperature sensors on the surface of the brick wall in order to measure changes in the brick wall temperature during late winter. In addition, we attempted to reproduce the brick cracking observed on the brick wall by conducting an indoor freeze-thaw experiment. The field investigation confirmed that the brick cracking on the brick wall occurred on the south-facing wall in the period from the coldest season to late winter. It was also confirmed from the records of the measured surface temperatures of the brick wall that, even in winter, the bricks could thaw in daytime and re-freeze at night, depending on the weather, solar radiation, and depth of snow coverage. Furthermore, we were successful in reproducing the brick cracking observed on the brick wall in the parking space of JR Kitami Station in the indoor freeze-thaw experiment. Our experience outlined above has demonstrated that frost damage can occur on the brick wall at JR Kitami station by a mechanism caused by the phenomenon of closed-system freeze-thaw, which the authors propose.
著者
加瀬 善洋 仁科 健二 川上 源太郎 林 圭一 髙清水 康博 廣瀬 亘 嵯峨山 積 高橋 良 渡邊 達也 輿水 健一 田近 淳 大津 直 卜部 厚志 岡崎 紀俊 深見 浩司 石丸 聡
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.122, no.11, pp.587-602, 2016-11-15 (Released:2017-02-20)
参考文献数
52
被引用文献数
3 4

北海道南西部奥尻島南端の低地における掘削調査から,泥炭層中に5枚のイベント堆積物を見出した.イベント堆積物の特徴は次の通りである; (1)陸方向および川から離れる方向へ薄層化・細粒化する,(2)級化層理を示す,(3)粒度組成の特徴は河床砂とは異なり,海浜砂に類似する,(4)粒子ファブリックおよび堆積構造から推定される古流向は概ね陸方向を示す,(5)渦鞭毛藻シストおよび底生有孔虫の有機質内膜が産出する,(6)海側前面に標高の高い沿岸砂丘が発達する閉塞した地形において,現海岸線から内陸へ最大450mほど離れた場所まで分布する.以上の地質・地形学的特徴に加え,過去に高潮が調査地域に浸水した記録は認められないことから,イベント堆積物は津波起源である可能性が極めて高い.14C年代測定結果と合わせて考えると,過去3000-4000年の間に1741年および1993年を含めて少なくとも6回の津波が発生しているものと考えられる.
著者
中村 大 川口 貴之 渡邊 達也 川尻 峻三 山崎 新太郎 山下 聡
出版者
一般社団法人 資源・素材学会
雑誌
Journal of MMIJ (ISSN:18816118)
巻号頁・発行日
vol.133, no.2, pp.4-11, 2017-02-01 (Released:2017-02-08)
参考文献数
12

Recently it has been found that frost heave phenomena can be seen not also in soil but also in rock. It is obvious, however, that the number of researches on frost heaving in rock is much less than that of researches on frost heaving in soil. In the present research, we newly developed test equipment in which a pressure transducer is incorporated into a device for testing frost heave in rock. Frost heaving tests were performed using three types of rocks (Ohya tuff, which is soft rock with high frost susceptibility; Kimachi sandstone, which is medium-hard rock with low frost susceptibility; and Sapporo soft rock, which is non-frost-heaving soft rock) to measure the suction pressure generated in the process of frost heaving. In these tests, we obtained fairly large negative pressures for Ohya tuff and Kimachi sandstone. In mediumhard Kimachi sandstone, negative pressure was generated before frost heaving displacement started. On the other hand, negative pressure was not generated in non-frost-heaving Sapporo soft rock. Therefore we considered that frost heaving in rock might be caused by negative pressure generated in the process of frost heaving.
著者
渡邊 達也
巻号頁・発行日
2013

Thesis (Ph. D. in Science)--University of Tsukuba, (B), no. 2624, 2013.1.31
著者
渡邊 達也
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

周氷河地形は、岩石・土壌中の水分の凍結融解作用、永久凍土の破壊や変形など寒冷地域特有のプロセスによって形成される.周氷河プロセスには気候・水文・地質条件など様々な要因が影響するため、未解決な問題が数多く残されおり、詳細な現地調査・観測が必要とされる。本研究では、代表的な周氷河地形の一つである構造土の内部構造、形成環境や変形が生じる条件を理解することを目的とし、特にローカルなスケール(同一気候条件下)で多様な構造土が形成される要因の解明を目指した。そこで、北極圏スピッツベルゲン島のスバルバール大学に長期滞在し、多様な構造土の内部構造調査や土層変形・破壊、地温、土壌水分、積雪深の観測を実施した。調査結果に基づいて、各構造土の分布と地盤・水文条件の関係や温度条件について調べた。その結果、円形土と大型多角形土の分布域では粘土含有量,飽和度,凍結構造に明瞭な違いがみられた。また、急冷による凍結クラックを形成プロセスとする大型多角形土は、円形土に比べて冬季の地温低下が著しい傾向があり、積雪深や地盤の熱的性質の違いがその分布に影響しているとみられる。また、円形土を取り巻くように発達する小型多角形土は、円形土の凍上・沈下に対応するように収縮・膨張する変形パターンを示しており、大型多角形土とは変形条件が異なる可能性が示唆された。研究経過に関して、スバルバール大学にて開催されたヨーロッパ永久凍土学会でポスター及び野外巡検コースでの発表を行った。