著者
鮫島 輝美
出版者
公益財団法人 集団力学研究所
雑誌
ジャーナル「集団力学」 (ISSN:21854718)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.33-61, 2010

本研究は、現代医療の欠陥として、医師-患者関係における2つの問題点を指摘した上で、フィールドワークで接した医師と住民の姿を理論的に考察することを通じて、それら2つの問題点を克服する方途を提言しようとするものである。まず、第1節では、現代医療の2つの問題点として、①患者という人間ではなく、患者の「病気」だけが医療の対象とされる傾向があること、②病気の専門家である医師と患者の間に、「強者-弱者」の関係が形成される傾向があることを指摘する。さらに、それらの問題点を、フーコーの言う「生-権力」が閾値を超えて過度に強化された帰結であることを論じる。次に、第2節では、筆者のフィールドワークに基づき、2つの問題点を克服する実践例を紹介する。第3節では、まず、「生-権力」概念を、大澤の規範理論に基づき再定位する。すなわち、「(a)原初的な規範形成プロセス → (b)規範の抽象化 → (c)規範の過度の抽象化 → (d)原初的規範形成フェーズへの回帰」という一連の規範変容プロセスにおいて、「生-権力」の形成・強化は(b)の最終段階、「生-権力」の過度の強化は(c)に対応することを論じる。それに対して、上記の実践例は、(d)原初的規範形成フェーズ((d)の段階)を具現化したものであり、したがって、過度に強化された「生―権力」を原因とする上記2つの問題を克服する方途を示唆するものと考察される。
著者
鮫島 輝美
出版者
医学書院
雑誌
看護学雑誌 (ISSN:03869830)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.487-493, 2002-05-01

ここ数十年の間に,医療の高度化,急速な高齢化など社会構造が大きく変化し,看護界を取り巻く内外の環境も変化している.特に大きなものとして,看護職不足が社会問題となり,平成4年6月の「看護婦等の人材確保の促進に関する法律」をきっかけとして,全国各地に4年生の看護系大学が急速に増加した1).看護教育をめぐる環境が大きく変化している中,南は大学における看護教育を「大学教育は看護学の開智の場として,単に知識を伝授するのではなく,物事の本質を見抜き,知識を活用して判断する能力,新たな知識を開発する能力を学生が身につけること」「真の意味の知慧を学生が自ら育てる,人間形成の場」と位置づけている2). このような人間形成を求められる学生の多くは卒業後,社会に出て看護師,保健師,または助産師となって,チーム=組織の一員となって働く.だとすれば,看護学生にとって,「組織」について学ぶということは,今後の看護教育においても重要なことと言えるのではないだろうか.
著者
鮫島 輝美 竹内 みちる
出版者
公益財団法人 集団力学研究所
雑誌
集団力学 (ISSN:21872872)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.98-123, 2014-12-28 (Released:2014-02-07)
参考文献数
27

本研究は,介護を負担と見なすことの問題点を指摘し,その問題点を克服する認知症介護の実践事例を考察することで,要介護者・家族介護者・支援者の「共育」を軸とする新しい介護のあり方を提起する。従来の認知症介護支援では,要介護者は,認知機能が欠損している状態,社会的・職業的機能水準の著しい低下状態とされ,その機能を補うだけの「介護力」が前提とされている。この特徴は,近代医療の特徴とパラレルである。 筆者らは,発症から24 年間,在宅で認知症の妻Kさんの介護を行ってきたT氏の取り組みの中に,新しい認知症介護における一つの方策を見いだした。T氏は,妻の病気を問題とするのではなく,ⅰ)支援の方向性を「妻が楽しくなるような介護」と定め,ヘルパーたちに支援を求めた。そして,支援者たちは,T氏の介護力不足を問題とするのではなく,ⅱ)今,必要な支援を「課題」とし,その課題解決を試みた。また,在宅での認知症介護が一般化される前から,ⅲ)支援者たちはKさんやT氏に寄り添いながら,日常生活の問題に共に向き合い,Kさん–T氏−支援者たちの間で溶け合う関係を通じた支援が長期にわたって行われていた。 以上の具体的実践から,大澤のポスト近代論を援用して,溶け合う関係を通じた支援によって,「介護=負担」という等式が崩壊し,介護関係が「『支援があればできる』認知症を生きる人」と「それを支援する人」という新たな関係を生成することを提示する。また,認知症を生きる人の世界とは,「未だ歩んだことのない新しい道」であり,在宅介護の現場は,規範(意味)の原初的形成の場となり,共に成長する「共育」的関係を醸成していることを提示する。次に,認知症を生きる人は,〈プロレタリアートの身体を生きる〉のであり,彼らの願いとは「よく生きること」である。そのため支援の発動点は常に要介護者側にあり,それを支援側が自覚する必要性を述べる。最後に,支援者に要請されている【専門性】とは,自らの生活世界から出て,相手の生活世界に飛び込み,そこから必要な支援を考える態度であり,支援者が「専門家」という視座をおり,要介護者との「溶け合う関係」を楽しむ姿勢が,支援者と要介護者,家族介護者との関係性を変化させ,新たな支援を生み出す可能性に開かれていることを示す。
著者
鮫島 輝美
出版者
京都光華女子大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

本研究では、「病院」という場を前提とした近代的人間観を見直し、在宅という場の多様性・複雑性をも視野に入れた「ナラティブモデル」の人間観を採用し、在宅ケア支援を総体的に捉えるために、関係論(状況論)的分析を試みた。その結果、以下の4点について成果を得た。(1)在宅医療をめぐる問題点の再整理(2)当事者・利用者が求めている在宅医療のあり方について「療養の場」としての在宅というキーワードからの再検討(3)2つのフィールドワークから、医療者・ヘルパーなどの関係性に注目した考察(4)在宅ケア支援モデルの提案。