- 著者
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麦島 剛
- 雑誌
- 福岡県立大学心理臨床研究 : 福岡県立大学心理教育相談室紀要 (ISSN:18838375)
- 巻号頁・発行日
- vol.8, pp.25-35, 2016-03-31
ミクロ経済学およびそれを含む標準的経済学では、個人および企業は常に合理的行動(最大利得のための振舞い)をとることが大前提となる。一方、行動経済学は、人間および動物の行動には最大利得に向かわないバイアスがあることと、生産消費行動の基盤になる価値が必ずしも金銭的・経済的価値だけで規定されるものではないことを示し、経済学的法則性には心理学的要因が強く関与することを示した。心理学的現象は神経メカニズムとの関係が示唆され、その解明が進展しており、経済学的行動もその神経基盤の解明が始まった。神経経済学は、神経科学と経済学および心理学とを結びつけた領域であり、不確実な状況での選択行動や意思決定等に関する神経機構を検討する分野である。神経経済学は、応用的分野の理論的基盤を築く可能性を持ち、また応用的分野に視座を与える可能性がある。例えば、発達障害に対する心理臨床的援助に対して、衝動的選択の頻度を減らしてセルフコントロール選択の頻度を増やすための応用行動分析に活用できるであろう。エネルギー政策・環境政策の策定に対しては、超長期利得とそれよりは短い中長期的利得との間で合理的に比較検討する視座を与えるであろう。また、企業等の組織経営や労働政策の策定に対しては、仕事の意味づけ等の価値と金銭的価値とを合理的に比較検討する視座を与えるであろう。