著者
柏木 慎也 相沢 充 黒佐 義郎
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.376-380, 2006 (Released:2006-12-26)
参考文献数
6

近年,手術創管理に関して,ガーゼドレッシング以外の方法がいろいろ開発されてきている。ダーマボンド®は,シアノアクリレートモノマーが水分を重合開始剤として短期間のうちに重合し,ポリマーとなり,硬化することを利用した合成皮膚表面接着剤である。整形外科領域の手術創に対してダーマボンド®を塗布することにより創管理に良好な結果を得たので報告する。対象は当科にて2001年6月から2002年5月までに行なった20例。方法は閉創の際に皮下縫合した後,創上にダーマボンドを3層で塗布する。結果は全例において創感染,創離開,出血,発赤などは見られなかった。特に副作用は認めなかった。関節可動部に使用しても問題は生じなかった。ダーマボンド®を3層塗布することによって,通常の皮膚縫合の3分の1の強度を得られる。ダーマボンド®が硬化したあとは水分を通さないので新たな細菌感染は生じない。術後早期の入浴も可能である。単価は1本2,300円。これまでに術後出血等の問題は起きていない。最近増加傾向にあるDay Surgeryにおいて十分使用可能と思われる。今後日本の医療体制が治療費の包括医療の方向へと向かって行くと,Day Surgeryが主流となり,それに対しても有効なドレッシングの方法であると思われる。ダーマボンド®の応用例としては外科や婦人科領域における腹腔鏡下手術,甲状腺手術,顔面の手術などがある。ダーマボンド®を使用することにより整形外科領域での手術創管理に対して良好な結果を得たので報告する。
著者
吉田 裕俊 中井 修 黒佐 義郎 鵜殿 均 山田 博之 大谷 和之 山浦 伊裟吉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.247-252, 1994-03-25

抄録:腰椎椎間板内に生じる透亮像は,vacuum現象として知られているが,実際には同部は真空ではなく,ガスが存在しているとされている.その発生には,高度に変性した椎間板が関与しているとの報告があるものの,その発生の由来および病態については未だ不明のままである.そこで,腰椎椎間板内ガス像を認める椎間の画像診断上の特徴を検討し,椎間板変性との関係について言及すること,腰椎椎間板内ガスの由来及び病態を考察することを今回の研究目的とした.その結果,腰椎椎間板内ガス像を認める椎間には,椎間板腔狭小化が88%,脊髄造影で,椎間板膨隆が80%,CTで終板破壊が95%,MRI上,終板軟骨下骨輝度変化が76%に認められた.終板の破壊性変化部位に一致したガスの存在や,終板の欠損部にもガスが存在していることから,椎間板内ガスは腰椎伸展などにより生じた椎間板内陰圧部に,椎体内血液から終板を経由し発生したものと考えられた.
著者
大谷 和之 中井 修 黒佐 義郎 進藤 重雄 安部 理寛 北原 建彰 山浦 伊裟吉
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.413-418, 1997-04-25

抄録:脊椎手術後の髄液漏の自然経過を明らかにする目的で,術後7日以上漏出が続いた14例,偽性髄膜瘤を形成した9例,胸腔内に髄液が貯留した8例の合計31例を調査した.発生率は脊椎手術1408例中2.2%で,平均漏出日数は19.4日(7日~57日)であった.全例が硬膜修復やくも膜下ドレナージを要することなく治癒した.偽性髄膜瘤や胸腔内貯留も数カ月以内に自然吸収された.感染は2例あり,1例は髄膜炎,1例は表在感染であった.長期化する髄液漏はすべて頚胸部での発症例であり,腰仙部で7日以上漏出が続いた症例はなかった.前方手術後の髄液漏は後方のものと比べ早期に閉鎖し偽性髄膜瘤を形成する傾向があった.治癒過程において漏出部とクモ膜下腔との圧の差が大きな役割を果たすためと考えられる.術後髄液漏は自然治癒傾向があり特に処置を施さなくとも問題となることは少ないが,その病態と治癒機序を考慮し体位による治療を行えば漏出期間の短縮が可能であろう.
著者
萩尾 慎二 黒佐 義郎 小島 秀治 相澤 充 青山 広道 前原 秀二 三宅 諭彦 藤田 浩二 多川 理沙 佐藤 智哉
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 第54回日本農村医学会学術総会 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
pp.256, 2005 (Released:2005-11-22)

高齢の大腿骨頸部骨折患者が入院時に熱発を呈することをしばしば経験する。また大腿骨頸部骨折患者の主な合併症として肺炎や尿路感染症が挙げられる。今回、入院時に採取した尿の細菌培養を行ない熱発と尿路感染(腎盂腎炎)との関係を調査した。【方法】大腿骨頸部骨折患者を入院時熱発群(術前最高体温38.0以上)と非熱発群に分け年齢、性別、入院時血液検査(白血球数、CRP、好中球%)、尿沈渣による白血球数、尿培養結果、入院時胸部レントゲン像による肺炎の有無、術後最高体温との関連を調査した。【結果】調査数15症例(平均82歳、男性1例、女性14例)のうち術前38.0度以上の熱発が見られたのは4例(全て女性、平均78.8歳)だった。熱発群ではCRPが平均3.5と上昇していた(非熱発群は平均1.6)。血液検査の白血球数、尿沈渣による白血球数、胸部レントゲン写真による肺炎像の有無、術後最高体温については非熱発群との差を認めなかった。尿培養では熱発群2例(50%)、非熱発群4例(36.4%)で陽性であり計7例中大腸菌が3例で検出された。【考察】大腿骨頸部骨折患者は大多数が高齢者であり、複数の合併症を有することが多い。入院後患者が熱発したとき、その原因として(1)骨折自体による熱発 (2)肺炎 (3)腎盂腎炎などが考えられる。受傷後、臥位が続けば肺炎、腎盂腎炎を併発するリスクは高くなると予想されるが、今回の調査では入院時検査において発熱群と非発熱群との差を認めなかった。その理由として(1)感染症の併発の有無を問わず骨折自体による熱発が多くの症例でみられる (2)入院後早期に手術が施行(平均手術待機日数1.5日)され、その際に使用される抗生剤により感染症が治癒したと考えた。尿培養では一般的に言われているように大腸菌が検出されることが多かった。我々の施設では術後抗生剤としてセファメジンα(セファゾリンナトリウム:第一世代セフェム)を使用しているが、今回の調査中に培養で検出された6菌種のうちセファメジンに感受性がなかったのは1菌種のみであった。 熱発がないにも関わらず尿培養陽性だった例(無症候性細菌尿)が多くみられたことより、熱発時に細菌尿を認めたからといって熱源の探索を怠ると他の原因の見落としにつながる危険性が十分にあると思われた。