著者
柏浦 正広 小林 未央子 阿部 裕之 神尾 学 黒木 識敬 田邉 孝大 濱邊 祐一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.9, pp.767-773, 2013-09-15 (Released:2013-12-30)
参考文献数
18

【目的】精神科領域,特に統合失調症患者において病的多飲を誘因とする水中毒がしばしばみられる。また水中毒の経過中に横紋筋融解症(rhabdomyolysis, RML)を併発することがある。しかし,その発症機序やリスクについては解明されているとは言い難い。水中毒患者におけるRML発症要因と予後について検討した。【対象・方法】2006年1月から2012年8月までに東京都立墨東病院救命救急センターに搬送され,水中毒と診断した症例を対象として診療録を後方視的に検討した。RML非発症例を対照群としてRML発症例の患者背景,入院時の検査値,検査値の推移,救命救急センター在室日数,入院日数,合併症,予後を比較した。【結果】水中毒と診断された患者は33例で,そのうちRML発症例は18例(55%)であった。最大血清creatine kinase(CK)値の中央値は22,640 IU/l(四分位範囲 6,652-55,020 IU/l)だった。RMLの合併例と非合併例において入院時血清Na値や血漿浸透圧値では有意差を認めなかった(p=0.354,p=0.491)が,血清Na値の補正速度に有意差を認めた(p=0.001)。経過中に急性腎傷害(acute kidney injury: AKI)の合併は5例あったが,腎代替療法を要した症例や腎障害が遷延した症例はなかった。橋中心性髄鞘崩壊症候群(central pontine myelinolysis: CPM)を合併した症例や死亡例はなかった。【結語】水中毒においてRMLの合併は少なくない。RML合併には急速な血清Na値の補正が関連している可能性があり,CPMと併せて注意すべき合併症である。
著者
黒木 識敬 安倍 大輔 鈴木 紅 岩間 徹 濱邉 祐一
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.617-624, 2016 (Released:2017-06-15)
参考文献数
20

背景 : 本邦におけるマラソン大会中の心肺停止は, 救護の立場からの報告はあるが医療機関搬送後の経過については, いくつか症例報告されているのみである. 目的 : 当院に搬送された心肺停止の患者6,841例からマラソン大会中の心肺停止患者について, 予後を検証するとともにその原因を考察する. 方法 : 2006年1月から2015年10月の当院に搬送された院外心肺停止6,841例のうち, マラソン中に発症した患者を抽出し検討した. 結果 : 心肺停止患者は10歳代から30歳代が4例 (若年群) と, 50歳代から60歳代が4例 (中年群) であり, 社会復帰例5例, 神経学的後遺症1例, 死亡2例であった. 社会復帰例はいずれも目撃あり, 直後からのバイスタンダーによる心肺蘇生があり, 病院到着前に自己心拍再開を認めていた. 心肺停止の原因は, 若年群ではカテコラミン感受性多形心室頻拍, 特発性心室細動など不整脈が主体であった. 中年群ではいずれも心筋虚血であるが, 心電図ではST上昇を認めず, 冠動脈造影では完全閉塞ではなく狭窄病変が主体であった. 結論 : 各大会において短時間で心肺蘇生・除細動を実施できる救護体制を構築する必要がある. また, 原因は年齢層によって異なる. これまで心筋虚血を原因とした心室細動はプラーク破裂を主因とした一般的な急性冠症候群の発症様式が多いとされていたが, それを示唆する所見はなく, 過度な心負荷と冠動脈狭窄による相対的な心筋虚血が原因と考えられた.
著者
明石 暁子 阿部 裕之 黒木 識敬 田邉 孝大 杉山 和宏 山川 潤 濱邉 祐一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.11, pp.799-805, 2012-11-15 (Released:2013-01-17)
参考文献数
10

症例は,神経科入院歴のある61歳の女性。かかりつけ医から処方されていた徐放性塩化カリウム錠(スローケー®,600mg錠で,1錠につき塩化カリウム8.0mEq含有)約90錠を自殺目的で過量服薬した。救急隊搬送中に心肺停止状態となった。服薬後約90分で病院に到着したが,来院時も心肺停止状態であった。来院時の心電図は,高カリウム血症が原因のventricular tachycardia(VT)であった。Advanced cardiovascular life support(ACLS)に反応がないため,percutaneous cardiopulmonary support(PCPS)を装着することによって循環の維持が可能となり意識も回復した。高カリウム血症(K 11.6mEq/l)の是正のためにhemodialysis(HD)を行いつつ,腹部単純X線に写った大量の徐放性塩化カリウム錠の錠剤を上部消化管内視鏡で除去した。翌日にはPCPSより離脱し,経過中左側胸水や肺炎を合併しながらも全身状態は改善して第26病日,救命救急センターから一般病棟へ転棟した。入院時の上部消化管内視鏡の所見で,著しいびらんと出血を認めた。第68病日の上部消化管内視鏡では,胃弓隆部の狭小化と胃体部の著しい狭窄を認めた。この徐放性塩化カリウム錠が原因の瘢痕狭窄に対して,第81病日に胃分節切除術を施行した。全身状態も良好となった第136病日精神病院へ転院した。塩化カリウム製剤の過量服薬症例では,正常な腎機能を有する場合でも短時間のうちに致死的な高カリウム血症を生じる危険性がある。また急性期の高カリウム血症に対する治療が終了した後も胃の瘢痕狭窄に対して注意深いフォローアップを要する。
著者
大橋 浩一 鈴木 紅 佐々 達郎 宮崎 紀樹 立石 和也 金子 雅一 春成 智彦 黒木 識敬 弓場 隆生 安倍 大輔 岩間 徹
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.47, no.12, pp.1421-1427, 2015 (Released:2016-12-15)
参考文献数
7

手術歴や外傷歴のない27歳男性. 緩徐に増悪する腹痛が出現し, 腰痛, 両側下腿浮腫も出現したため当院救急外来を受診した. 造影CTで肝静脈合流部近位下大静脈~両側腎静脈内, 右第三腰静脈内に血栓像を認め, 両側総腸骨静脈領域までの連続する下大静脈血栓症の診断となった. 内視鏡検査では腸管内に特記すべき病変はなかった. 血液検査で抗核抗体, 凝固因子, プロテインS, プロテインCなどの血栓素因は正常範囲であったが, 血漿ホモシステイン (以下Hcy) 濃度が上昇しており高Hcy血症による血管内皮障害から下大静脈血栓症に至ったと考えられた. 葉酸とビタミンB6を補充しつつ抗凝固療法による保存的加療により症状は軽快し, 画像所見でも血栓は縮小した. 抗凝固療法継続中であり, 静脈血栓症の増悪・再発は認めていない. 高Hcy血症が原因と考えられる広範囲に及ぶ下大静脈血栓症は稀であり, 葉酸・ビタミンB6投与と抗凝固療法で保存的加療にて軽快した症例を経験した.
著者
山本 豊 藤田 浩 田邉 孝大 杉山 和宏 黒木 識敬 明石 暁子 濱邊 祐一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.15-22, 2011-01-15 (Released:2011-03-25)
参考文献数
19

症例は29歳,男性。市民マラソンに参加したが競技中に意識消失し当院搬送となる。熱中症と診断し治療を開始したが,第2病日に急性肝炎重症型となり凝固因子補充目的に新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma; FFP)の輸血を施行し,第3病日に劇症肝不全となる。同日もFFP投与を行ったが,輸血開始後に頻脈や頻呼吸を認め非侵襲的陽圧換気を開始した。心エコー検査を施行したが輸血関連循環過負荷と輸血関連急性肺障害との鑑別は困難であり,その後も呼吸循環動態には改善を認めず気管挿管下に集中治療を開始した。輸血前後の検体からは抗HLA抗体,抗顆粒球抗体等の検出は認めず,診断指針推奨案に基づいて輸血関連急性肺障害疑いと診断,重篤な経過をたどったが救命に成功した。救急医療の現場では急性肺障害を来しうる誘因は多数あるが,輸血も鑑別の一つとなりうることを留意すべきである。