- 著者
-
齋藤 貴之
- 出版者
- 日本文化人類学会
- 雑誌
- 文化人類学 (ISSN:13490648)
- 巻号頁・発行日
- vol.70, no.1, pp.1-20, 2005-06-30 (Released:2017-09-25)
本稿は、野鍛冶の現状から野鍛冶の生存に不可欠な要素を見出し、それをもとに今後の野鍛冶の生存戦略を提示することを目的とする。野鍛冶とは、1つの地域に1軒、あるいは1つの集落に1軒というほど数多く存在し、さまざまな鉄製品を製作・修理し、人びとの暮らしに深い関わりを持つ鍛冶屋である。野鍛冶製品が工業製品に取って代わられ、野鍛冶の姿を見ることもほとんどなくなってしまった現在にあっても、その利用者との関係は失われることなく、人びとの暮らしとともに野鍛冶は生き続けている。厳しい状況の中で、野鍛冶はさまざまな方法を駆使して変化に対応し、生き残りを図っているのである。本稿が対象とする野鍛冶は、平成14年(2002)から平成15年(2003)年にかけて、計3回にわたって行った秋田県内全69市町村を対象とした調査で確認された27軒の野鍛冶である。これらは、多くの野鍛冶が次々と姿を消す中で生き残ってきた野鍛冶であり、現在の営業の中にさまざまな生存戦略を見ることができる。そして、それらの生存戦略から、野鍛冶の生存に必要不可欠な要素として、「生じた変化を活用し、利用する」、「新たな営業基盤を獲得する」、そして「野鍛冶本来の役割を果たす」の3つを導き出すことができる。現在、これらの要素を満たし、順調に営業を続ける5軒の野鍛冶は、農・林・漁業従事者や周辺地域の住民といった従来の利用者に代わる利用者を獲得し、新たな営業基盤を築き、これまで主としてきた周辺地域の人びとを相手にした製品を従とする営業形態を確立していることがわかる。したがって、本稿は、野鍛冶の製品を必要としている人びとを独自に見出し、その注文や要求に応じた製品を作り出し、またその反応に応じた試行と改良を積み重ねることで、これまで周辺地城の人びととの間にあったものと同様の信頼関係を新たな利用者との間に築き、維持していくことを今後の野鍛冶の生存戦略として提示する。