著者
笹 賀一郎 佐藤 冬樹 藤原 滉一郎
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.22-29, 1993-06-30

北海道北部地域を対象に,厳冬期における渓流流出と森林の影響に関する観測を行っている。本報告では,強風寒冷地の典型とされる宗谷丘陵での観測結果(1989-1990年・1990-1991年・1991-1992年の3冬期中心)をもとに,森林の流域的規模での堆雪効果と厳冬期流出に与える影響について報告した。観測流域は,草地70%・ササ地30%のサンナイ川と,針広混交林が70%/草地30%のオテンナイ川の源頭域である観測流域の面積は,サンナイ川10.4haとオテンナイ川11.6haである。流域の方向も同じようになるように選定し,この観測流域ではほぼ北西向きになっている。また,丘陵地帯であるため,流域の源頭部は標高85mから90mと,両流域は同じ高さにある。地質は,両流域とも第三紀層である。寒冷・強風地における積雪は,再移動もともない,沢などの地形的な低地に集中的に堆積する。したがって,尾根部の積雪は極端に少なくなる。このような堆雪傾向においても,森林は積雪を貯留する効果をもち,尾根部の森林内でも沢底と同じかそれ以上の積雪を蓄えている状況が観察された。このような状態は流域的規模においても同様であり,森林の多いオテンナイ川流域では草地化されたサンナイ川流域より,平均積雪深で2倍,積雪推量では4倍以上の積雪を蓄えていた。また,サンナイ川のように積雪の少ない流域では,60%以上の面積の表土が凍結していた。オテンナイ川のように,林内や窪地(沢底)に積雪が多く貯留される流域においては,表土の凍結が防止されていた。表土の凍結の発生域は,源頭尾根部の草地化された部分だけであり,最大でも流域の16%ほどであった。表土凍結の発生が防止されるためには,積雪移動の多発する地域においては,約50cmの積雪深が必要と判断された。50cm以上の積雪深があり,表土凍結の発生していない地域においては,積雪下面での融雪現象も観察された。また,オテンナイ川のように表土凍結面積の少ない流域の厳冬期流出量は,表土凍結面積の多いサンナイ川流域の1.5倍から3倍をこえる値になっていた。表土凍結面積の多い流域では,それだけ地表への水分供給量が少なくなることから,流出量の差は表土の凍結に影響されていると判断された。したがって,強風寒冷地における森林は,堆雪効果を発揮し,表土凍結を防止することで,厳冬期の渓流流出にも大きな影響をあたえていると考えられた。
著者
小池 孝良 笹 賀一郎 日浦 勉 高木 健太郎 牧野 周 丸山 温 船田 良
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002 (Released:2002-04-01)

冷温帯葉落広葉樹の光合成生産機能を,森林を構成する高木の機能を樹冠レベルで評価するとともに,ギャップ更新稚樹や低木層構成樹種の光合成特性を基礎に考察した。樹冠部の光合成特性は林冠層をやや越えた高さ24mの樹冠観測タワーを用いて測定した。上層木の開葉と共に林床へ到達する光量は減少し,落葉とともに増加した。また,CO_2濃度の垂直変化は,風のない日中に樹冠部位では約320ppmまで低下し,夕方には林床付近で約560ppmに達した。高木層の開葉は雪解けの約1週間後から始まり樹冠基部から先端に向かって進行した。シラカンバやケヤマハンノキなどの散孔材樹種の開葉が早く,ハリギリやヤチダモなどの環孔材では約2週間遅かった。初夏には全ての樹種の樹冠部位での光合成速度は高かったが,真夏には樹冠のやや内部に位置する葉の光合成速度が最高であった。落葉が始まる初秋には先駆種であるシラカンバとケヤマハンノキの光合成速度は高かったが,全体としては樹冠部位での光合成速度に樹種間の差はなかった。樹冠下部の葉では集光機能を代表するクロロフィルb量が多く,また,窒素のクロロフィルへの分配量も多かった。林床では上層木の葉が展開して林冠が閉鎖する前に葉を展開し終える樹種や,上層木が落葉しても葉を保持し降霜まで緑葉を維持する樹種が存在した。林床に生育する稚樹では,光飽和での光合成速度(最大光合成速度)は大きな年変動を示した。この原因として春先の乾燥により厚く小さな葉が形成されることが考えられ,葉内部でのCO_2拡散抵抗が最大光合成速度を律速することが示唆された。窒素は最大光合成速度と高い正の相関を持つことから,非破壊で同一葉の機能を推定できる窒素計測器を導入することによって樹冠全体の光合成生産を非破壊で推定できる。