- 著者
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新井 かおり
- 出版者
- 北海道大学アイヌ・先住民研究センター
- 雑誌
- アイヌ・先住民研究 (ISSN:24361763)
- 巻号頁・発行日
- vol.1, pp.173-200, 2021-03-01
昨年二〇〇九年、通称「アイヌ施策推進法」が成立し、「アイヌの人々が主体となった研究」をすることが、官民挙げての課題となった。しかしアイヌが研究の主体になることは、当時主流であった戦後史学の目的論的な、発展法則的な歴史観とはあいいれないことや、アイヌ側からの資料に乏しいなどの理由があって、特にアイヌ史研究では立ち遅れてきた。本論では90年代までアイヌの諸運動のけん引者として著名だった貝沢正のアイヌ史編さん事業について、まず本論の筆者である“私”と貝沢の関係に由来する視座と資料について述べる。そして、他に例がないほど、「アイヌ側から見たアイヌ史」に固執し、三度ものアイヌ史の執筆・編さんにとりくんだ貝沢正のかかわった、ウタリ協会(名称当時)発行の『アイヌ史』(全五巻)をその失敗例と見て、同じく貝沢が執筆・編纂の責任者であった『二風谷』をその成功例と見て、「アイヌ側から見たアイヌ史」の可能性を探る。