著者
岸本歩 宮地修平 西村真美 中村友美
出版者
医薬ジャーナル社
巻号頁・発行日
pp.857-861, 2019-03-01

吃逆(しゃっくり)は横隔膜の不随意のけいれん性収縮によって生じ,吸気が閉鎖している声門を急激に通過するために特有の音が発生する。通常反復して発生するが,一過性のことが多い。しかし長時間持続し,食物摂取困難,不眠,精神的疲労をきたすこともあるため,その治療法を十分に知っておく必要があると言われている。薬物治療においては,クロルプロマジンを除き適応外使用であるため,エビデンスに乏しい。独立行政法人国立病院機構姫路医療センターでは,吃逆の治療薬として院内製剤の柿蔕(シテイ)の煎じ薬が使用されている。我々は薬剤師として,とりわけがん化学療法中の患者に使われる事例を多く経験したので,それらの事例解析をとおして,柿蔕の位置づけを考察した。
著者
原田紗希 西田承平 小林亮 鈴木昭夫 伊藤善規
出版者
医薬ジャーナル社
巻号頁・発行日
pp.687-692, 2017-02-01

医療過誤の減少に向けてさまざまな取り組みが行われており,薬剤師はその職能を生かして医療安全に貢献することがさらに強く求められている。薬剤に関連する過誤(メディケーションエラー)は最も典型的な医療過誤であり,指示伝達ミス等のコミュニケーションエラーは過誤の主な発生原因の一つである。実際に岐阜大学医学部附属病院において発生したメディケーションエラーを解析したところ,インスリンスライディングスケール(SSI)に関連する過誤の多くに,指示伝達ミス等のコミュニケーションエラーが関与していた。そこでSSIに関連する過誤の減少を目指して,薬剤部,糖尿病代謝内科および医療安全管理室が協働で院内統一の指示記載様式(テンプレート)を作成した。本報告ではSSIの院内統一テンプレート導入までの経緯と導入後の効果について紹介する。
著者
鈴木亮
出版者
医薬ジャーナル社
巻号頁・発行日
pp.81-85, 2019-01-01

インスリンは,インスリン様成長因子(IGF)と同様に,細胞増殖作用を持つ。2004年の後ろ向きコホート研究で,インスリン治療を受けている2型糖尿病患者の結腸直腸がんの発症リスクは有意に高く,また年数が長いほどリスクは上昇していた。2009年には,欧州糖尿病学会誌Diabetologiaに4本の論文が同時掲載され,インスリングラルギン長期使用時の発がん性の懸念が大きく注目された。現在もインスリン製剤とがんの関連性に結論は出ておらず,継続的に検討が行われている。2016年のグラルギンに関する系統的レビューでは,観察期間の短さや時間関連バイアスなど,方法論的な限界が指摘されると同時に,特に乳がんリスクについては不確実さが残るとしている。
著者
寺田智祐
出版者
医薬ジャーナル社
雑誌
医薬ジャーナル (ISSN:02874741)
巻号頁・発行日
vol.54, no.6, pp.1383-1385, 2018-06-01

2017年のノーベル経済学賞は,行動経済学に関する業績であった。実は,行動経済学が脚光を浴びたのは,2002年のノーベル経済学賞まで遡る。当時の受賞理由は,「不確実性下における人間の判断や意思決定に関して,心理学の研究成果を経済学の考え方に統合したこと」とある。それまでの伝統的な経済学では,「ホモ・エコノミカス」と呼ばれる,非常に合理的で,完全な情報と計算能力を持っていて,常に自分の満足度を最大化するように行動する人間像を想定していたが,行動経済学は従来の説に対する強烈なアンチテーゼでもあった。振り返って,医療界はどうであろうか?例えば,患者は常に病気の治療に前向きに取り組み,医師の指示には100%従い,治療中の様子を医療者へくまなく報告する者ばかりであろうか?実際そうでないことは,誰でも知っている。本稿では行動経済学が示唆してくれる,行動科学の知見について紹介したい。