著者
山崎 理美 岩田 宏紀 村田 恵理 片野 由美 石幡 明
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 医学 : 山形医学 (ISSN:0288030X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.45-56, 2011-08-15

【背景】赤ワインに含まれる多種類のポリフェノール化合物(RWPCs)は強い血管弛緩 作用を有する。RWPCs中の血管弛緩作用を有するポリフェノールはいくつか報告されて いるが、RWPCsにはそれら以外にも未知の成分が多数存在することが知られている。本 研究では、血管弛緩作用を有する新たな赤ワインポリフェノールを探索し、その特性を 検討することを目的に、RWPCsの比較的親水性の高い成分を分離・分画してから、(1)特 に強い血管弛緩作用を有する分画を特定し、(2)分子量の測定と構造の推定を行い、(3)血 管弛緩作用の濃度反応曲線を作成し、作用機序を調べた。【方法】(1)RWPCsのうち比較的親水性の高い成分を、高速液体クロマトグラフィーによ り分画した。(2)得られた各成分の血管弛緩作用は、ラット胸部大動脈を用いて検討した。 (3)強い血管弛緩作用を惹起した分画について、MALDI-TOF型質量分析計を用いて質量 分析を行い分子量決定と構造の推定を行った。(4)その分画の血管弛緩作用については濃 度反応曲線を得るとともに、血管内皮細胞の除去、NO・過分極因子・プロスタサイク リンの阻害による影響を検討した。【結果】RWPCsの主要な血管弛緩成分のひとつとして知られているレスベラトロールよ りも低濃度から弛緩作用を惹起する分画が得られた。その弛緩作用は内皮除去により消 失した。内皮細胞での作用機序を調べた結果、血管弛緩反応はNO合成酵素の阻害によ りほぼ完全に抑制された。質量分析では3469Daの分子量が検出され、解析の結果、糖鎖 を付加した配糖体であることが予測された。【結論】今回得られた分画の成分は、RWPCsが惹起する血管弛緩反応において主要な役 割を果たしている成分の一つである可能性が示唆された。分子量3469Daのポリフェノー ルが現在データベースにないことから、新規物質である可能性が示された。
著者
髙橋 育子 佐藤 幸子 今田 志保 本間 恵美
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 医学 : 山形医学 = Bulletin of the Yamagata University. Medical science : Yamagata medical journal (ISSN:0288030X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.43-50, 2020-02-15

【背景】母親の育児不安の一因として乳児の皮膚トラブルがあげられている。乳児のスキンケアついて整理し、乳児のスキンケアに関わる現状を明確にすることを目的とし文献検討を行った。【方法】「医学中央雑誌」Web版を用い、2018年6月現在、「スキンケア」「沐浴」「皮膚トラブル」「乳児」「子供」「乳児湿疹」をキーワードに組み合わせて検索した。原著論文21件を対象に、研究内容を類似性に基づき分析・分類し、乳児のスキンケアの現状と分娩取扱医療機関におけるスキンケアの指導内容について整理した。【結果】対象となった文献の内容は、「乳児の皮膚トラブルの実態」「乳児の皮膚やスキンケアに対する母親の認識の実態」「スキンケアの効果」「母親が行う乳児へのスキンケアの実態」「分娩取扱医療機関における新生児のスキンケア方法」「分娩取扱医療機関におけるスキンケア指導の実態」の6つのカテゴリーに分類された。その内容として、乳児の皮膚トラブルの実態は、季節に関係なく新生児の約7割、乳幼児の約9割程度に皮膚トラブルがあり、多くの母親の困りごとになっていたこと、分娩取扱医療機関におけるスキンケアの指導は充分行われていなかったこと、母親はスキンケア手技に自信がなく、看護職からのスキンケア指導を求めていることが明らかになった。【結論】乳児の皮膚トラブルは多いが、スキンケア指導が充分に行われていない。母親へのスキンケア指導を推進する必要がある。
著者
黄木 千尋 赤間 由美 森鍵 祐子 小林 淳子
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 医学 : 山形医学 = Bulletin of the Yamagata University. Medical science : Yamagata medical journal (ISSN:0288030X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.25-35, 2021-02-15

背景】日本人の2人に1人ががんに罹患するといわれている。喫煙は、がんに最も大きく寄与する因子であり、がん患者のたばこ対策は大変重要であるが、がん患者の喫煙の実態や関連要因・社会的ニコチン依存度に関する報告は少ないのが現状である。外来化学療法を受けている患者の喫煙の実態と認識を明らかにすることを目的として、がん患者に対する効果的な禁煙指導、喫煙防止対策を検討した。【方法】対象はA病院において外来化学療法を行う患者のうち認知症や質問紙調査票への記入が困難な患者を除外した257名。調査内容は、基本属性、対象者と家族の喫煙状況(「非喫煙」「過去喫煙」「現在喫煙」とブリンクマン指数(一日喫煙本数×喫煙年数))、喫煙に対する認識(加濃式社会的ニコチン依存度(KTSND)と加熱式タバコに対する認識)、禁煙理由である。本研究は山形大学医学部倫理審査委員会の承認(2019-22)を得て行った。【結果】分析対象は257名、有効回答率100%であった。対象者の喫煙状況は、「非喫煙」106名(41.2%)、「過去喫煙」144名(56.0%)、「現在喫煙」7名(2.7%)であった。同居家族に喫煙者がいる割合は、「非喫煙」19.8%、「過去喫煙」25.0%、「現在喫煙」57.1%であった。「現在喫煙」のブリンクマン指数は「過去喫煙」よりも高く、喫煙による健康への影響を強く受けていることが推察された。KTSND得点は、「非喫煙」よりも「現在喫煙」「過去喫煙」が有意に高く、喫煙経験者は非喫煙経験者よりも社会的ニコチン依存度が高く喫煙を容認していた。「加熱式タバコは禁煙の場で使用してもよいと思う」割合は「現在喫煙」が「非喫煙」「過去喫煙」よりも有意に高い結果であった。また、「加熱式タバコを使う事は健康に対し害が少ないと思う」「加熱式タバコを使うことは禁煙に役立つと思う」者がそれぞれ約30%となり、加熱式タバコに関する正しい知識の普及啓発の必要性が示唆された。【結論】外来化学療法を受けているがん患者について、現在喫煙している患者への禁煙支援は重要な課題であり、家族を含め、過去喫煙者・非喫煙者に対しても喫煙による健康被害の知識の普及・啓発と継続した喫煙状況の把握に基づく禁煙支援の必要性がある。
著者
富永 真琴
出版者
山形大学
雑誌
山形医学 (ISSN:0288030X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.1-10, 2009-02

抄録 臨床医学はまぎれもなくサイエンスであるが、医療はアートも大きい部分を占める。筆者は「臨床の知とは何か」について中村雄二郎先生の哲学的思索に触れてみることを勧めたい。厳密物理・精密化学の進歩が万人の幸せに繋がると信じる知の在り方は、中村先生によれば「北型の知」であって、医学も含めたサイエンスの一面に過ぎない。これに対比できるのが「南型の知」で人間や自然本来の複雑性と多義性をそのまま、認めるという知の在り方である。中村先生は「臨床の知」は「南型の知」に似る、としている。一方、長い間、「ヒポクラティスの誓い」に代表される倫理観の下に医療が行われてきたが、その特徴はパターナリズムと矛盾はしなかったことである。近年の医師・患者関係の成熟により、1970年代から患者の人格を尊重する原理および医療資源の公平な配分という原理が導入されている。医療行為がサイエンスに基づく判断の下、患者に対し善行かつ無危害であったとしても、それが患者個人に関わる様々な状況にまったく配慮しない医師の独善的な判断ならば、倫理上も問題とされる。臨床医学が生身の人間を対象としている以上、サイエンスとともに、患者の人格を尊重し思いやるアートの部分も大事である。サイエンスとしての臨床医学が対象とするのは肉体であって,人格ではない。これに対して、アートとしての臨床医学が対象とするのが患者の人格であって,それは複雑性・多義性に満ちている。類型化は可能だとしても二人として全く同じ人格などあり得ない。生身の人間である患者を目の前にした時、「人は自己の存在の理由を求めている。」と斎藤武先生が述べたことを深く理解したい。医師および医療従事者は、複雑性・多義性に満ちたさまざまな患者さんに対し、鋭い洞察力、豊かな想像力そして個々の患者の人格に関する深い理解をもって、適切な医療行為を提供できるようになるため、生涯をかけ、サイエンスとアートの両方の部分に研鑽を積むことが求められている。
著者
佐野町 友美 鈴木 修平 中村 翔 渡邊 千尋 熊西 亮介 中村 元治 鈴木 尚樹 渡邉 要 武田 弘幸 福井 忠久 吉岡 孝志
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 医学 : 山形医学 = Bulletin of the Yamagata University. Medical science : Yamagata medical journal (ISSN:0288030X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.1-7, 2017-02-15

【背景】昨今、臨床実習の重要性が増す中で医学生の実習中の不適切言動や精神的な負荷が問題視され、検討課題とされている。がん患者を担当する場合、特に負荷が重いと推測されるが、学生から患者への説明などの実習における具体的な関わりや精神的負荷に関する検討はほとんどない。そこで今回、がん患者・医学生・医師の3者の視点から学生の説明内容の信頼性や精神的負荷へ焦点をあて検討を行った。【方法】2015年12月から約1か月間、本学においてがん患者実習経験のある学生、腫瘍内科医師並びに実習協力経験のあるがん患者へ連結不可能匿名化の質問紙法を用いて、がん患者へは実習時の説明とその説明への信頼等、学生へは患者との関わりや説明の内容等、精神的負荷等、医師へは学生の不適切言動や診療への影響等を中心に調査した。本研究は本学倫理審査委員会の承認を得て行った。【結果】学生43名、患者18名、医師9名から回答を得た。患者・医師からは守秘義務違反や無礼な行動などの不適切言動は指摘されなかった。学生が患者へ説明を行う場面は実際に存在(77%)し、学生は自身が発した情報を患者が信頼すると考えることが多い(78%)が、患者は学生が説明する内容をあまり信頼していない(p =0.022)という結果だった。患者の自由記載では学生の傾聴や応対への感謝が目立ち、医師の自由記載ではがん患者を担当することの重要性や難しさの指摘が目立った。学生の多くは実習で精神的負荷を感じ(66%)ており、精神的負荷を感じている学生は患者へ説明の経験があるという結果だった(p =0.018)。学生の自由記載の形態素解析では精神的な面に関連する単語の頻度が多く検出され、精神的に不安定ながん患者を担当する学生へは指導者は十分な配慮を行う必要性が示唆された。【結論】医学的説明を行う場面は学生には負荷となりうるが、患者の信頼は必ずしも高くなく、むしろ学生の傾聴や円滑なコミュニケーションが診療に有益である可能性が示された。
著者
林田 昌子 清野 慶子 伊関 憲
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 医学 : 山形医学 (ISSN:0288030X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.57-62, 2011-08-15

キノコ中毒の多くは秋におこり、また集団発生することが特徴である。今回我々は山 で誤って採取したツキヨタケ(Lampteromyces japonicus)により、家族4人が中毒に 陥った症例を経験したので報告する。【症例】(1)79才、男性 (2)76才、女性 (3)48才、女性 (4)15才、男性【現病歴】2009年9月某日、20時頃、母親が山で採ってきたキノコを味噌汁にして家族で 食べた。1時間30分後より嘔気、嘔吐が出現した。A病院受診し、4時間後に当院救急 部に紹介となった。持参したキノコの柄の根元に黒いシミがあることからツキヨタケと 判明した。【来院後経過】4名とも来院時バイタルサインは安定しており、検査上異常所見は認めら れなかった。嘔気・嘔吐が強かったためメトクロプラミド10mg静注、脱水に対して輸液 を施行した。その後経過観察のため入院となった。翌日には嘔気、嘔吐の症状が消失し、経 口摂取可能となった。その後、全身状態安定しており、退院となった。【考察】ツキヨタケの主毒成分はイルジンSである。これまでの報告では、ツキヨタケの 個体によって、イルジンSの重量当たり含有量は異なるとされている。このため、ツキ ヨタケ摂取量と症状は必ずしも相関しないこととなる。 ツキヨタケ中毒の症状としては摂取後30分〜1時間より激しい嘔吐、下痢、腹痛がおこ る。重症例では著明な腸管の浮腫や肝機能障害がおこる。 中毒治療としては、毒物を除去するために、催吐、胃洗浄が行われることがある。また、 対症療法として、初期に十分な補液を行う必要がある。4症例とも来院時より細胞外液 の投与を行った。摂取量は異なっているが、発症時期や収束した時期はほぼ同じであっ た。ツキヨタケ中毒の治療は輸液管理が中心となるが、今回の症例も輸液を中心とした 対症療法で治療することができた。
著者
伊藤 嘉高 佐藤 慎哉 山下 英俊 嘉山 孝正 村上 正泰
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 医学 : 山形医学 (ISSN:0288030X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.15-25, 2013-08-15

【背景】医療提供に真に必要な医師数を推計することは困難である。厚生労働省「医師の需給に関する検討会」の医師需給推計を背景に医学部入学定員抑制が進められた結果、今日、国民のあいだで広く医師不足の事態が認められている。さらに、これまで、地域ごとの将来医療需要に基づく診療科別の必要医師数の推計が試みられたことはない。そこで、本稿では、現在のフリーアクセス等の医療提供体制を前提として、今後も医学部入学定員増加が続き、勤務医の負担軽減が図られた場合の山形県における診療科別将来必要病院勤務医数を推計した。【方法】患者調査と人口推計に基づく診療科別の将来医療需要を算出するとともに、医師・歯科医師・薬剤師調査のデータに基づく医師就業の卒後1年階級別コホートモデルを作成した。そして、県内病院勤務医の過重労働の是正を加味したうえで、両結果に基づき2030年に必要医師数を充足させるために必要な新卒医師数を推計した。【結果】2030年の県内病院勤務医は全体で3,048名(2008年比122.0%)となる。他方で患者数は減少し、将来医療需要に基づき過重労働状況の解消を図ると、全体で4.0%(73人分)の医師数の余裕が生まれることになる。しかし、全ての診療科で余裕が生まれるわけではない。現在見られる新卒医師の診療科選択の傾向が今後も続いた場合、とりわけ外科は23.7%の更なる新卒医師数の上乗せが必要であり、脳神経外科など他の外科系も10%前後の上乗せが必要になる。他方で、新卒医師の半数以上が余剰になるおそれのある診療科も見られる。【論】本推計は、医療提供体制のみならず、医師の就業動態など多くの仮定に基づいており、推計の精度には改善の余地がある。しかし、それでも、現在の医療提供体制が続く限り、外科系等の診療科は今後も相対的な医師不足が続くことが推測される。医学部教育や医療提供体制の見直し、病院勤務医の勤務環境の改善等について適切な対応が求められる。
著者
大竹 まり子 田代 久男 齋藤 明子
出版者
山形大学
雑誌
山形大学紀要. 医学 : 山形医学 (ISSN:0288030X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.57-69, 2004-02-16
被引用文献数
2

背景:在院日数の短縮化が図られている社会情勢から、山形大学医学部附属病院に地域医療連携センターを設置する運びとなった。そこで、センターにおける退院支援部門の役割を明確にするため、センター開設前の当院における退院困難事例に注目して調査を行なったので、その結果を報告する。対象:山形大学医学部附属病院の病棟看護師、看護師長より提出された退院困難事例。 方法:山形大学医学部附属病院看護部に質問紙を配布し、過去及び現在の退院困難事例に関する記載を依頼。提出された111事例を退院困難事例として分析対象とした。退院困難事例の年齢、性別、家族構成、居住地、診療科、現在もしくは退院時に行っている医療処置、退院後の療養生活に影響する障害の有無、障害者手帳など福祉制度の利用の有無、ADL、痴呆の有無、退院支援で困っていることについて記載を求め、退院困難事例の特徴を分析した。結果:事例の年齢層は0歳から89歳の広範囲にわたったが、65歳以上の高齢者が47.7%を占めた。在宅療養に影響する障害および疾患は、運動機能障害が最も多く31事例(35.1 %)であり、次いで悪性疾患、精神疾患、難病であった。111事例中94事例(84.7 %)が何らかの医療処置を行っていた。ADL評価では自立の事例に次いで重度の事例が多く、ADL が5項目とも自立している事例は23事例(20.7 %)であった。痴呆評価では正常な事例が40.5%であった。 ADL が自立し、痴呆のない14事例の退院困難理由の背景は、医療処置があること、精神疾患、悪性疾患、一人暮らしであった。医療依存の高い患者、介護力に問題のある患者の退院後の生活環境を整えることがセンターにおける退院支援部門の役割であることが示唆された。