著者
濱田 由香里 中尾 理恵子 大西 真由美
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.260-268, 2016 (Released:2016-06-18)
参考文献数
25

目的 長崎県で「薬局 DOTS」を展開するための薬局側の準備状況を明らかにするとともに,薬局 DOTS 展開の実施可能性について分析し,今後行政が薬局 DOTS 導入に向けた検討を行う際の基礎資料とすることを目的とした。方法 長崎県内の結核指定医療機関533店舗の薬局開設者(概ね薬剤師)を対象に,郵送法による自記式質問紙調査を実施した。質問項目は,1)回答者の属性,2)薬局関連情報,3)結核関連学会等参加経験の有無,4)DOTS の認知および薬局 DOTS 協力や研修参加意向,5)薬局 DOTS を実施する場合の課題や必要条件等である。薬局 DOTS の「協力意向」および「研修会参加意向」の関連要素について χ2 検定により分析した。有意水準は0.05未満とした。結果 有効回答212件(有効回答率39.8%)を分析したところ,「学会・研修会参加」,「結核患者支援経験」,「DOTS 認知」,「薬局 DOTS 認知」,「基準調剤加算」,「地域医療連携体制」を有している薬局開設者は,「薬局 DOTS 協力意志有」に統計学的有意に関連していた。また,50歳未満かつ,「学会・研修会参加」,「結核患者支援経験」,「DOTS 認知」,「薬局 DOTS 認知」,「基準調剤加算」,「地域医療連携体制」を有している薬局開設者は,「薬局 DOTS 研修会参加意志有」に統計学的有意に関連していた。薬局 DOTS 展開の必要条件として,6 割以上が「結核に関する知識や情報」,過半数が「薬局のマンパワー」と回答した。結論 「基準調剤加算」および「地域医療連携体制」を有する薬局,50歳未満で,かつ結核関連学会などへ積極的に参加している薬局開設者の中から,今後薬局 DOTS の協力が得られる可能性が高いと考えられる。また,今後は行政が医療機関と連携し,結核や薬局 DOTS に関する研修会を開催するなど十分な準備体制を整えることで,長崎県内での薬局 DOTS 展開が期待できると考えられた。
著者
橋村 愛 大西 真由美
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.323-332, 2016

<p><b>目的</b></p><p>  長崎県内で生殖年齢にある外国人女性が多く居住する長崎市および佐世保市の周産期ケアに携わる看護職が考える「外国人への周産期ケアコミュニケーション能力」として必要な要素を抽出することを目的とした。</p><p><b>方法</b></p><p>  長崎市および佐世保市の分娩取扱い医療機関全25施設のうち、調査協力への承諾が得られた長崎市6施設、佐世保市4施設の計10施設に勤務する、周産期ケアに携わる看護職207人を対象に、郵送法による無記名自記式質問紙調査を実施した。質問紙は個人属性、海外・外国人関連項目(英会話能力、海外滞在・渡航経験、異文化学習経験、外国人患者ケア経験、外国人妊産褥婦ケア経験)、および独自に作成した38項目から成る「外国人への周産期ケアコミュニケーション能力」に関する質問から構成した。38項目は「全く必要でない」「あまり必要でない」「やや必要」「とても必要」の4件法で回答を求め、順に1点から4点と点数化した上で因子分析を行った。</p><p><b>結果</b></p><p>  10施設207人の看護職を本研究対象とし、141人から回答済み質問紙が返送され(返送率68.1%)、そのうち有効回答が得られた120人を分析対象とした(有効回答率58.0%)。外国人妊産褥婦ケア経験のある者は120人中111人(92.5%)であった。長崎市内施設看護職では中国出身、佐世保市内施設看護職では中国または米国出身の外国人妊産褥婦へのケア経験があると回答した者がそれぞれ8割を超えた。「外国人への周産期ケアコミュニケーション能力」に対する必要性の認識では38項目中36項目の平均得点が3.0以上であった。平均得点が3.0を下回った2項目を除く36項目で因子分析を行い、さらに因子負荷量の絶対値の基準0.4以下であった3項目を除外した上で再度因子分析を行った。その結果、「異文化理解」「資源活用」「問題解決」「異文化尊重」「情報伝達」「非言語コミュニケーション」「自文化理解」「分娩期対応準備」の8要素が抽出された。</p><p><b>結論</b></p><p>  長崎市および佐世保市の周産期ケアに携わる看護職は、「外国人への周産期ケアコミュニケーション能力」として、「異文化理解」「資源活用」「問題解決」「異文化尊重」「情報伝達」「非言語コミュニケーション」「自文化理解」「分娩期対応準備」の8の要素の必要性を認識していた。</p>
著者
西原 三佳 大西 真由美 中村 安秀
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.55-67, 2016

目的 東日本大震災被災地,岩手県陸前高田市において震災後から継続して未来図会議(保健医療福祉包括ケア会議から名称変更)が実施されている。この会議が果たしてきた役割を分析し,今後の災害対応計画への一助とする。<br/>方法 未来図会議創成期の保健医療福祉関係者10人(行政 6 人,行政以外 4 人)への聞取り結果,既存資料による情報収集を基に,経済協力開発機構開発援助委員会(OECD/DAC)による評価 5 項目を用いて分析した。<br/>結果 被災直後,市関係者は支援調整対応に追われ現状確認と情報集約が出来ない状況にあった。元市職員の支援者が調整役となり初回会議が2011年 3 月27日に開催され,参加者は官民区別なく全保健医療福祉関係者とされた。各方面の現状情報共有と支援調整が行われ,5 月には復興に向けた課題共有を開始した。6 月末までほぼ毎週開催され,災害援助法救護班派遣が終了した 7 月より月 1 回の開催となった。参加者はその頃より現地職員を主とし,地元市民団体,外部支援団体となり,中長期的課題共有と対応検討をし続け,現在に至る。<br/> DAC 評価 5 項目別に以下の結果が得られた。①妥当性:被災後の現状把握,情報共有,支援調整の場として機能した。②有効性:行政,民間,支援関係者が共通認識をもち役割を確認し,支援連携を生む機会となった。③効率性:支援の需要と供給のマッチング機会を創出した。知恵が集積され新たな視点や効果的な活動を生み,支援の効率化に貢献した。④インパクト:関係者への知識普及と課題の共通理解を促進した。包括的ニーズ把握が施策化に活かされた。⑤自立発展性:早期からの復興イメージ提示により課題共有がされ,行政・民間双方において復興に関し検討する必要な場として認識されている。<br/>結論 災害時の国際協力では効率的支援と最大限の支援効果を目的とするクラスターアプローチが実施される。専門分野ごとにパートナーシップを構築し支援調整を行うものだが,未来図会議は,緊急期,復旧期においてこのクラスターアプローチの役割を担っていた。復興期以降は全関係者が中長期的課題を共有し検討できる場として役割を担っている。このような未来図会議の取組みは今後の災害対応計画において一つのモデルとなり得る。<br/> 提言として①早期に情報交換の場を立ち上げること,②会議参加者の資格は問わず自由参加とすること,③地元既存組織を含め民間組織との平時からの関係構築,が挙げられた。
著者
中尾 理恵子 杉山 和一 川崎 涼子 大西 真由美 本田 純久
出版者
日本健康学会
雑誌
日本健康学会誌 (ISSN:24326712)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.130-140, 2018-07-31 (Released:2018-08-20)
参考文献数
53
被引用文献数
1

This study aimed to clarify factors related to self-rated health among elderly people who live in geographically disadvantaged environments in sloped residential areas. A self-administered questionnaire was carried out among elderly residents aged 65 years or older living in a sloped residential area in Nagasaki City, Japan. Among a total of 148 respondents (46 males, 102 females), 35.8% demonstrated poor self-rated health. The factors statistically significantly associated with better self-rated health were going out, participating in social activities, and having relationships with neighbors. No relationship was found between self-rated health and sex/family structure. Logistic regression analysis showed that the factors associated with poor self-rated health were falls (odds ratio [OR]: 3.64, 95% confidence interval [CI]: 1.3-10.2), assistance with going out (OR: 10.43, 95%CI: 2.3-46.7), limited access to shopping (OR: 4.99, 95%CI: 1.8-13.7), and not participating in volunteer activities (OR: 5.26, 95%CI: 1.3-21.2). These results suggest that getting assistance when going out and voluntarily participating in social activities may improve the health of elderly residents living in sloped residential areas.
著者
大西 真由美
出版者
茨城県立医療大学
雑誌
茨城県立医療大学紀要 (ISSN:13420038)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.61-71, 2000-03

1997年の日本の妊産婦死亡率は6.5であり, 一方1995年のパラグアイの妊産婦死亡率は130.7である。日本とパラグアイにおける妊産婦保健の状況と妊娠・出産に関する経験を比較し, 妊産婦死亡率を低下させるための戦略を考察する一助とする。日本においては, 現在においても妊産婦保健医療向上のために, 数, 質共に適切な医療従事者の配置と24時間管理体制の整備が必要であると報告されている。パラグアイにおいては, トレーニングを受けた助産婦数の確保と適切な配置が, 妊産婦死亡率を低下させる戦略として不可欠である。しかしながら, 両国における妊産婦死亡原因とそれをとりまく背景は複雑に入り組んでいる。今後の課題として, 戦後, 日本がたどった妊産婦死亡率低下と妊産婦保健サービス向上の経験を, 社会・経済的要因や女性の地位等も含めて多角的に研究することにより, パラグアイをはじめとする開発途上国の妊産婦保健向上のために貢献できると考える。