著者
伊藤 隆二
出版者
東洋大学
雑誌
東洋大学児童相談研究 (ISSN:02885247)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.1-15, 1999-03

子どもの「嗜虐性」の発生機序を単に人間関係の葛藤や軋轢から解明するだけではなく,現代社会の不平等性にもメスを入れる必要がある。ここに報告した4事例から,いじめる子どもには実存的空虚感,「甘え」への欲求不満,恥の意識の希薄化,それに畏怖の念の消失などが共通していることが示唆されたが,これらは不平等性を助長する社会に生きることから生じたことを解明した。そこで子どもの「嗜虐性」発生を阻止するためには不平等社会を真の平等社会へ転換させる教育を開始する必要がある。その教育は人間の尊厳性を基軸とした平等の精神を社会に取り戻すいとなみであり,それはトランスパーソナルな視点から構築されるものである。
著者
伊藤 隆二
出版者
東洋大学
雑誌
東洋大学児童相談研究 (ISSN:02885247)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.1-15, 1998-03

子どもの「嗜虐性」の払拭の機序は何か,という問題意識のもとで,「小動物虐待」の悪癖をもつ中学生(男子)のカウンセリング経験を通じて,考察した。その結果,「嗜虐性」の払拭は自分が「spiritualな存在」であることに気づき, そのことを常に覚醒し,自分を生かしてくれている,人間の力を超えたものに感謝し,祈るというspiritual conversionに深くかかわっている,という結果を導き出すことができた。
著者
近江 宣彦 天野 マキ
出版者
東洋大学
雑誌
東洋大学児童相談研究 (ISSN:02885247)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.69-82, 1999-03

革新自治体である美濃部都政は母親の保育要求に応えて多くの保育関係の単独事業を行ったが,本論文ではその成果と限界についての予備的な考察を行った。美濃部都政においては保育所の量的拡大の点では大きな進歩があり,質的にも拡充を図ったが,未措置児童の増加や特殊保育の不十分な内容など多くの問題点も残していた。本稿では美濃部都政の保育政策の展開を整理しながら,それらの問題点を仮説的に抽出した。
著者
梶谷 奈生 尾畑 博子 松本 貴子 岡戸 順一 是沢 博昭 松本 恒之
出版者
東洋大学
雑誌
東洋大学児童相談研究 (ISSN:02885247)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.25-42, 1997-03

大学生が日常的に感ずるストレスについて調査した。対象は,私立大学学生男女合計113名(男性66名,女性47名)である。集められたデータは分類整理し11領域にまとめられた。各領域の内容について,そのストレスとされる頻度と強度を計算し比較考察した。
著者
旭 洋一郎
出版者
東洋大学
雑誌
東洋大学児童相談研究 (ISSN:02885247)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.109-125, 1996-03

本稿は障害者のセクシュアリティ問題の解決・援助に関して障害者福祉,ソーシャルワーカーの役割と方法,その課題について論じた。その議論の材料として,ゴールドスミスの提案(性教育の実行者の役割,セックスカウンセラーの役割,権利擁護の役割)とオランダのセクシュアルなケアを行っているボランティア団体の活動を紹介し,わが国における解決すべき課題に論究した。
著者
小松 啓 窪田 暁子
出版者
東洋大学
雑誌
東洋大学児童相談研究 (ISSN:02885247)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.17-30, 1998-03

今日わが国の社会福祉援助技術の領域で心理・社会的アプローチと呼ばれているモデルは,フロイトによる精神分析理論(力動精神医学)に基づく診断主義的ケースワークとしてアメリカで1920年代から発達し,アメリカのケースワークの主流となり,その後わが国でも取り入れられた援助方法である。わが国では主に児童相談所や精神医学ソーシャルワークの分野で用いられ,利用者や利用者の家族に対する治療的処遇及びその理論に基づくスーパービジョンの方法などにより,特に児童相談所を児童の臨床機関として機能させることに貢献した。その後児童相談所の行政色の強まりと共に,児童相談所の臨床機関としての機能は低減したが,児童及びその家族を行政機関において深く治療的に処遇することができた功績と,診断主義的アプローチの人間理解の深さの意義は,今日の社会福祉実践の領域において再検討されるべきであると考える。