- 著者
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長山 三男
- 出版者
- 公益社団法人 精密工学会
- 雑誌
- 精密機械 (ISSN:03743543)
- 巻号頁・発行日
- vol.10, no.117, pp.325-344, 1943
本研究の結果,摩擦圓盤装置が多少の誤差を伴ふも,對空射撃指揮具内の航速測定用計算機構として實用し得るを確認するのみならず,計算機の目的に應じ如何なる注意を拂ふべきやも明瞭にし得たものと信ずる.以上を一括すれば<BR>(1)機素の精度は現在の精密工作法にて充分である.尚送りネヂの中央部分を特に嚴密に工作し誤差を減ずれば一層良い.<BR>(2)組立誤差中,最も影響大なる摩擦圓盤の傾斜はその軸を長くし支持法を適當に改めれば除き得る.目的に應じ(24)式に依り檢討するの要あるは當然である.<BR>(3)滑りとHertzの彈性變形は,それ自身としては顧慮外に置き得る程度である.然し新しく轉動盤を設計するに際しては<I>r</I>/<I>R</I>を次の如く決定すると宜しい.即<BR><I>A</I>=§/μ<SUP>3</SUP>√9/128θ<SUP>2</SUP>(1/<I>R</I>+1/<I>r</I>)<I>P</I><SUP>2</SUP><BR>を觀察するに,立方根内の1/<I>R</I>+1/<I>r</I>の項は,今迄考へてきたる程度の<I>R</I>の大さにては,1/<I>r</I>が遙に大きく,<I>R</I>を増すも餘り變化なし.然るにξ/μの方は表3を見ればτ=20°以以では急激に減少するを以て,τを極めて小にしてみる.即τ=10°とせば<BR><I>M</I>-<I>N</I>/<I>M</I>+<I>N</I>=1-<I>r</I>/<I>R</I>/1+<I>r</I>/<I>R</I>=cos10°=0・98<BR>從つて<I>r</I>/<I>R</I>=1/99.故に<I>r</I>=1・5mmなれば<I>R</I>=148・5mmとなる.これより<BR><SUP>3</SUP>√9/128θ<SUP>2</SUP>(1/<I>R</I>+1/<I>r</I>)=1・05,<BR>又ξ/μ=0・423なるを以て<BR><I>A</I>=0・44<I>P</I><SUP>2/3</SUP>(μ)<BR>となり半減する.然し<I>R</I>=148・5mmの轉動輪は固定式に非れば使用困難であらう.<BR>設計に際しては最初<I>r</I>を決定し,摩耗の状態を實驗し,次に計算機の大さに應じRを適當に定むれば良し.<BR>(4)摩擦圓盤の表面仕上程度は極力良好ならしむ.<BR>(5)接觸壓は摩耗を顧慮しつつ増大するを可とす.<BR>(6)摩擦圓盤の角速度は小なるが良い.且その誤差は1/1000以下ならしめるが良い.<BR>(7)材料は徑年變化少きものを選定し,熱處理に注意を拂ふこと.材質は現在使用中のものにて良し.<BR>(8)最後の調整は計算と實驗とに依り轉動輪の徑を適宜縮少して行へば良し.<BR>要するに固有滑りの物理的基礎附けは未だしなるも,工業的,實驗的には本装置の適用範圍と研究方法とを究明し得たるなり.<BR>尚BushがDifferential Analyserに使用せる摩擦圓盤装置はトルク増幅器を使用する爲轉動輪の採るべきトルクは極めて小にて可なる爲,延いては接觸面積も小となり,Analyser全體にて精度を0・1%以内に收め得ると云ふ.此の精度には,本装置にては(1)乃至(8)項に亘る條件に注意し且2mm以上のρの範圍にて使用するが如き,固定式大型のものを設計製造せば到達し得る筈なり.<BR>又Hertzの彈性變形の基礎的實驗法を擴張應用する時,各種の精密測定器或はスフエロ計等の測定壓及測定端面の問題,又は球軸承の球の變形に伴ふ偏心運動の問題等の再檢討に役立つこと大なるものありと信ずる.