著者
猪狩 恵美子
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.41-47, 2008-05

近年、いくつかの自治体で就学猶予・免除となっていた成人障害者の養護学校入学が始まり、その教育成果が明らかになっているが、入学が認められない自治体も多い。筆者らは、就学猶予・免除の成人障害者の教育権保障について、各自治体の受け入れ状況や入学が実現した経過を明らかにし、成人期の教育ニーズと学校教育の果たす役割を検討した。実現の背景には学校教育を求める保護者・当事者の強い願いと運動があり、希望者全員に対する一日も早い実現が求められる。さらに、成人期に配慮した授業実践は重症児(者)の生涯教育を充実させる課題を提起している。学校教育か、社会教育かという択一的選択ではなく、学校教育で明らかになった成人期の発達の可能性を発展させていくことが求められている。
著者
高橋 智 中村 美樹
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.60-65, 2010-02

日本の学校に在籍する障害を有する外国人児童生徒本人とその保護者及び学級担任に調査を行い(東京都内の小・中学校の特別支援学級・通級指導学級及び特別支援学校高等部に在籍する外国人児童生徒本人4名,その保護者5名及び学級担任7名.調査期間:2006年11月〜2007年1月),障害を有する外国人児童生徒の困難・ニーズと彼らに対する支援の実態を明らかにした.とくに母親の抱える情報不足・地域参加の困難に起因する社会的孤独感が子どもに不安を伝え,学校との関わりに閉鎖的傾向をもたらすことが明らかとなった.本人・保護者が閉塞的な学校・地域との関係から脱却し,双方向的な関わりが可能となるような支援を構築していくことが急務である.また,本人は文化的背景の肯定的受容,アイデンティティの形成や帰属意識の希薄さ等の困難を有しており,さらに不安定な生活展望が長期的な支援を困難にしていた.このような困難・ニーズの実態を踏まえ,単純な受け入れ論ではなく,多文化社会が抱える複合的な諸課題に対処して具体的支援を構築していく必要がある.
著者
金澤 誠一
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.2-11, 2010-02

本稿は,三つの部分から成っている.第1に,貧困概念についての検討である.貧困概念は,この間大きく変化している.絶対的貧困論から相対的貧困論へと貧困概念は拡大してきた.しかし,相対的貧困論もまたそのあいまい性を露呈しているのが現代社会の特徴である.そのあいまい性を克服するために,新しい最低生活の指標を作ることが試みられている.また,それに基づく現代のナショナルミニマム論が展開されている.第2に,現代の貧困の原因・捉え方について,20世紀末の福祉依存型文化論による福祉国家への攻撃からパネル調査による社会的排除論に基づく能動的福祉・エンパワーメントへの展開とその問題点を指摘し,現代社会における福祉国家の再構築の必要性を述べている.第3に,「最低生計費」試算を行い,それを基軸とした「最低生活の岩盤」の形成の必要性を展開している.
著者
浅井 春夫
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.12-20, 2010-02

子どもの貧困への社会的関心が集まりつつある.わが国の子どもの貧困率は14.2%であり,ひとり親世帯の貧困率は54.3%となっている.この数値はOECD加盟国30ヵ国のなかで低位にある.とくにひとり親世帯は最悪の状態にある.子どもが貧困生活を生きるということは,親・保護者からの期待値が低いなかで生きるということであり,希望を早い時期から奪われている現実がある.それに対してわが国の貧困削減政策はほとんど機能していないのが実際である.新政権のもとで子どもの貧困削減政策をどのように具体化するのかが問われている.その点に関わって,本稿では基本的な視点と当面の具体的な政策の方向と内容を提起する.
著者
磯野 博
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.33-42, 2010-02

本稿は,無年金障害者問題をとおして障害者の貧困を社会階層論的にとらえ,障害者の貧困が,不安定・低所得(低年金)障害者問題であることを示している.そして,障害当事者団体が行った調査を踏まえ,そのような障害者の貧困が,障害者の趣味・娯楽など,社会参加にも影響を与えていることを示している.そのうえで,今後の障害者の所得保障について,障害者の所得保障の中心である障害基礎年金のあり方をとおして問題提起している.その主な論点は,障害基礎年金の社会手当化であるが,今後の障害者の所得保障では,就労と所得保障のあり方を一体に論じる必要性についても言及している.
著者
谷口 藤雄
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.286-291, 2009-02

京都府では中学校特別支援学級卒業生の過半数が高校に進学している.おりしも2008年度から高校でも特別支援教育体制の整備が求められている.しかし,高校ではこれまで特別支援教育の経験も実績もないため,一部で手探りの取り組みが進められている.特別な教育的ニーズのある生徒は,「格差」と「競争」の教育の中で,定時制や教育困難校,小規模校などに集中している.高校の「適格者主義」は現実の高校では生きており,特別支援教育の取り組みを困難にしている.京都府北部の農村地帯にある京都府立福知山高校三和分校(以下、三和分校)は6年ほど前から特別な教育的ニーズのある生徒の入学が増えてきた.小規模校で週4日の昼間定時制高校であること,農業科と家政科の専門学科で,座学だけではなく実習もあること,ゆっくり丁寧な指導が評価されたためと思われるが,年々困難な課題のある生徒が入学している.三和分校では,特別な取り組みではなく,誰でもできる特別支援教育の視点で授業改善や指導の見直しにより,ニーズや課題のある生徒の指導に取り組んでいる.しかし,年々課題も大きくなっている.
著者
折出 健二
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.108-115, 2007-08

共同とは、相互に承認し合う者どうしがコミュニケーションをつくりだしていく営みである。幼児期の段階では、子どもにとってまだ自己と他者のはっきりとした構図はなく、双方は融合的である。遊び、学習、作業、制作などの活動のなかで様々な他者(仲間や教師を含む)との出会いを介して、子どもは自己の二重化を経験しながら、社会的な人格を形成していく。子どもは、乳幼児期から少年期にかけて、この元基的な共同を踏み台にして自立に挑み、この過程で様々な他者との出会い、交流、相互承認をなしていく。それらが彼/彼女の人格的自立にもつながっていくのである。 新自由主義は、市場の競争原理によって、このような共同性を壊す作用である。子どもたちの暴力性もその影響下で発生している。その弊害に抗するものこそ、いまわたしたちが問うている〈つながり〉、相互の共同性の回復にほかならない。
著者
荒木 穂積
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.127-136, 2003-08

発達保障の思想の本質的特徴と関わらせて、子どもおよび障害者問題の国際的視点から論じた。障害者の人権保障、ノーマリゼーション、慈悲に基づくアプローチから権利に基づくアプローチへのパラダイム転換など発達保障の思想の根幹をなす考え方が、第2次世界大戦後の国連を中心とした平和と人権保障の国際的活動の所産であることを論じた。21世紀の入り口にある今日、あらためて「21世紀を発達保障の世紀」とするべき時代状況があることを論じた。
著者
別府 哲
出版者
全国障害者問題研究会
雑誌
障害者問題研究 (ISSN:03884155)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.259-266, 2007-02
被引用文献数
1

誤信念理解で調べられる心の理論と、その発達的前駆体と想定される共同注意についての研究をレビューし、自閉症児がどのような機能連関でその能力を形成するのかを検討した。その結果、自閉症児においては、心の理論は、直観的心理化を欠いたまま言語による命題的心理化によって、共同注意は、社会的刺激への反応傾性に弱さを持ったまま汎用学習ツールによって、それぞれ補償することで形成されることが明らかになった。命題的心理化と汎用学習ツールは、認知能力に依拠しており、直観的心理化や社会的刺激への志向性は、意識下の情動と半ば生得的な社会的刺激への反応傾性に基づくと考えられる。この言語を中心とした認知発達による補償という機能連関は、健常児や知的障害児においてはみられず、自閉症の特異性を示唆する仮説と考えられた。この知見を自閉症の教育支援に適用する場合、情動共有を含めた相互主観的経験を教育的に保障することの重要性が示唆された。