著者
森川 正章 菅原 雅之 鈴木 和歌子 三輪 京子
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.799-804, 2014-12-01 (Released:2015-12-01)
参考文献数
29

およそ60兆の細胞からなるヒトには100〜1,000兆もの細菌が住んでいることが近年明らかとなり,動物と微生物の深いかかわりが注目されている.一方,肥沃な土壌1グラム中には1~10億程度の細菌が含まれおり,植物と微生物ともやはり深いかかわりがある.植物根の周辺域いわゆる根圏や内生の微生物が植物の成長などに重要な役割を果たすことも古くから知られている.実に今から100年以上前の1908年のサイエンス誌に“Pure cultures for legume inoculation(マメ科植物の純粋培養)”という記事で細菌の影響の排除がいかに難しいかを論じている.このように土壌植物の根圏に関する研究は長い歴史をもち根粒菌や菌根菌をはじめとする多くの知見が蓄積されてきた.一方,水生植物と微生物とのかかわりに関する研究は歴史が浅くまだ未解明の点が多い.私たちは,水生植物の一つであるウキクサからその成長を顕著に促進する表層付着細菌を複数発見している.本稿では,これら水生植物成長促進細菌とその作用機構の特徴について解説する.
著者
濡木 理
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.11, pp.725-730, 2014-11-01 (Released:2015-11-01)
参考文献数
6

MATEファミリーは,原核生物,古細菌,真核生物すべてに広く存在する膜タンパク質輸送体であり,ナトリウムイオンあるいはプロトンの濃度勾配を利用してさまざまな異物を細胞外へと排出することで,細胞の恒常性を維持している.そのため病原性細菌やがん細胞においては,薬剤を排出して薬効を低下させる薬剤耐性の一端を担うものであり,近代医療への脅威となっている.したがって,MATEによる薬剤輸送機構の解明および阻害剤の創出が長らく望まれてきた.しかし,MATEは,さまざまな低分子化合物を排出してしまうので,低分子化合物の阻害剤は薬効をもたないというジレンマがあった.今回,われわれは好熱古細菌由来MATEの単体および基質薬剤・阻害活性ペプチドとの複合体のX線結晶構造を高分解能で決定した.その結果,アスパラギン酸残基のプロトン化に伴って,TM1が大きく折れ曲がることで基質ポケットを縮小して基質を排出する機構を発見し,MATEの輸送機構について新たな仮説を提唱するとともに,ペプチド創薬の道を開いた.
著者
伴 匡人 後藤 雅史 石原 直忠
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
化学と生物 (ISSN:0453073X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.27-33, 2014-12-20 (Released:2015-12-20)
参考文献数
29

ミトコンドリアは細胞内のエネルギー生産のみならずさまざまな細胞機能に関与する多機能なオルガネラである.ミトコンドリアは細長く枝分かれ構造をもつが,同時に活発な融合と分裂サイクルによりその形態を変化させており,このダイナミクスの制御には種を超えて保存されたGTPase群が機能している.近年,哺乳類においてこれらの関連遺伝子の欠損マウスが構築されたことで,初期発生や組織形成への効果など個体における機能が明らかになりつつある.さらに精製タンパク質や人工脂質膜小胞を用いた解析により,融合・分裂の際のGTPaseの挙動,脂質膜形態の変形機構が示されつつある.また最近ではミトコンドリアの形態制御異常が,神経変性疾患,代謝疾患や老化などに関与することから,融合と分裂の分子機構はさらに大きな注目を集めつつある.ここでは哺乳類を中心にミトコンドリアの形態制御に関する最新の知見を踏まえて概説する.