著者
根本 曠子 山田 眞一
出版者
富山大学
雑誌
高岡短期大学紀要 (ISSN:09157387)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.203-216, 2004-03-15

本調査報告は、台湾の漆工芸に関する調査報告であり、次の二つの部分からなる。ひとつは、教育という視点からみた台湾における漆工芸の歴史と現状に関する部分であり、もうひとつは、若手の漆芸作家を通してみた漆芸の技法に関する部分である。台湾の漆芸は歴史的には中国大陸の福建省の影響を受けてきたが、1920年代以降は日本の漆工芸の影響を色濃く受けている。戦前日本で漆芸を学んだ頼高山氏や王清霜氏らにより日本の漆芸の技法が台湾の漆芸に受け継がれ、現在では台湾の伝統工芸の陶器に漆工芸を取り入れた新たな展開が見られる。
著者
入江 識元
出版者
富山大学
雑誌
高岡短期大学紀要 (ISSN:09157387)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.39-49, 1998

作家が概念を導入する場合重要なのは,「概念人物」を用いるということである。ジェイムズはこの作品"The Liar"において「嘘」という純粋概念から「嘘つき」という概念人物を生み出した。語りの中心であるライアンの視点は,階級闘争における敗北と失恋からくるコンプレックスにより歪められており,このことはステイズ邸の食堂での会話から読みとることができる。また,そこでの匿名の女性との会話により,彼の描く肖像画が彼の観察眼以上に描写力に富むことが明らかになる。この作品には二つの肖像画が登場するが,いずれも彼の筆力からモデルの醜悪な面がはっきりと描かれているため,モデルによって抹殺されたと考えられる。ライアンは過去の恋人キャパドーズ夫人を信頼し彼女を大佐の嘘から覚醒させようとするが,匿名の女性が正しくも指摘する通り,この作品における一番の「嘘つき」は実は彼女なのだ。この作品の今ひとつ重要なポイントは,切り裂かれた,あるいは売られた肖像画の詳細をジェイムズが明らかにしていないということである。ジェイムズはこの策略により,この作品にもう一人の視点人物,キャパドーズ夫人を設定することに成功したのである。
著者
小郷 直言 米川 覚
出版者
富山大学
雑誌
高岡短期大学紀要 (ISSN:09157387)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.43-63, 1992

われわれはかねてより,「もんじゅ」と呼ぶ協働支援システムを構築し,相互学習法による学習・授業の支援に利用してきた。しかし,コンピュータシステムとしてTSSをベースとしていた関係上,リアルタイム性には限界があった。本稿では,もんじゅのLAN上への移植と,リアルタイム性を十分に発揮したグループライティングについて述べる。リアルタイム・グループライティングでは複数の利用者が共有ウィンドウにいつでも,自由に書き込め,しかも,十分な応答性能とWYSWIS環境を提供することができた。
著者
小郷 直言 米川 覚
出版者
富山大学
雑誌
高岡短期大学紀要 (ISSN:09157387)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.19-33, 1991

われわれは,集団における協働活動を支援するソフトウェアである「もんじゅ」と呼ぶシステムを開発した。もんじゅはTSS上にクライアント/サーバモデルをシミュレートする方法で構築されている。本論文では,システムを構成している基本的な枠組であるメッセージ通信とサーバの設計について詳しぐ述べる。
著者
小郷 直言 米川 覚
出版者
富山大学
雑誌
高岡短期大学紀要 (ISSN:09157387)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.47-66, 1990-03

本稿では,学生の教育,学習への応用を中心に据えて,ワークステーション上に構築した一つのハイパーメディア・システムについて述べる。システムの持つべき特性として,1)マルチメディアの取り込み,2)インターフェースヘの配慮,3)ネットワークによる拡大,4)知識の増幅を目指す,5)協調的な作業環境を提供するなどについて特に注意を払った。さらにハイパーメディア・システムの応用例として,電子教科書,案内板,テレビ講座,双方向遠隔授業システムについて考察する。
著者
小柳津 英知
出版者
富山大学
雑誌
高岡短期大学紀要 (ISSN:09157387)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.191-205, 2005-03
被引用文献数
1

石油化学工業の生産額の大半を占めるプラスチックは基礎原料(エチレン)、中間原料(モノマー)、最終製品(ポリマー)の製造過程に分ける事ができる。このプラスチックの製造では「統合の経済」、「規模の経済」、「範囲の経済」の三つが働くため、石油化学工業の国際競争力を考える場合には、現状の経営成果のみならず、これらの要因が発揮される生産体制かどうかを検討する事が重要である。我が国の石油化学コンビナートの生産規模は、1990年以降に完成したアジアや中東の80万トン水準に比較して、50万トン以下が大半である。そのため「規模の経済」の面で競争力は劣ると考えられる。次に、原料立地の中東に比較すると「統合の経済」の面でも競争力は劣ると考えられる。これまではナフサを原料としたプラントはエタンを原料としたプラントに比較して「範囲の経済」の面で競争力を持ってきたが、そのメリッ.トは失われつつある。さらに我が国の石油化学コンビナートは米国のような近接立地によるネットワーク化がなされておらず全国に分散・孤立立地というデメリットを持つ。さらに貿易政策の面では我が国の汎用樹脂には従量税が課せられ、国内メーカー保護の色彩が強かったが、2004年以降は低い従価税に移行し、輸入拡大が予想される。このような中、我が国の石油化学コンビナート内の企業間関係は、事業の統廃合、合併の進展で大きく変わりつつある。以上から、単純な企業集積のメリット.を説く産業クラスター論を我が国の石油化学コンビナートに適用しようとするのは無理がある。我が国の石油化学コンビナート再編の望ましい方向は、国内の生産規模を縮小し、「規模の経済」で有利な海外プラントへの投資を進め、輸入拡大を進めることが、国民経済の観点から望ましいと考えられる。
著者
村上 恭子
出版者
富山大学
雑誌
高岡短期大学紀要 (ISSN:09157387)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.207-219, 2005-03

ドン・デリロとトーマス・ピンチョンは、1997年に数ヶ月前後して長編小説を発表した。前者のUnderworldは20世紀後半のアメリカ史を背景とし、後者のMason&Dixonは18世紀半ばのアメリカ独立期の史実を描き、共に歴史を材料としている。しかも両者は産業資本主義社会の隠れた裏面に焦点をあて、その問題点を描いている。Underworldの場合、一見互いに無関係と思われる諸々の出来事がパラノイア的に関連付けて描かれており、その関連性が特異な効果を作品に与えている。作品には20世紀後半を特色付ける多くの要素--冷戦、核実験、軍産複合体、人種差別とそれに起因する暴動、反体制運動、種々の凶悪犯罪、メディア、廃棄物とそのリサイクル、社会の底辺に生きる人々等--が描かれているが、それらは共通のイメージや場所、小道具、数字等により相互が複雑に交錯し、関連付けられているのである。また諸々の事柄を関連付けて解釈するパラノイア的人物さえ登場している。これらの関連項は全てワールド・ワイド・ウェブで最終的に収斂しており、ネット社会に突入した現在の状況を象徴している。本論では、デリロのパラノイア的描き方を分析し、その効果を考察した。