著者
藤井 景介 今井 謙一郎 都丸 泰寿 内藤 実 坂田 康彰 福島 洋介 小林 明男 依田 哲也
出版者
一般社団法人 日本有病者歯科医療学会
雑誌
有病者歯科医療 (ISSN:09188150)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.81-86, 2005-09-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
11

訪問歯科診療後, 歯性感染により敗血症を発症した症例を報告する. 患者は67歳, 男性で糖尿病, 肝硬変, 慢性腎不全があり右側頬部から頸部にかけての腫脹と激痛を主訴に当院救急部に来院した. 患者は訪問歯科診療で根管処置を受け, 同日夜より右側頬部から頸部にかけて腫脹と激痛が出現し, 全身倦怠感もみられた. われわれは右側急性下顎骨炎, 頸部蜂窩織炎と診断した. 抗菌薬投与およびドレナージ施行したが翌日より敗血症によるショック状態となった. その後, ドレナージの追加および内科的治療を行うも意識レベルがもどらず, 入院46日後, 死亡した. 死因は腎不全による尿酸の増加であった. 訪問歯科診療は近年増加する傾向にあるが, しかし, 安易な治療により重篤な感染を起こす可能性があり, 患者の既往歴および現在の全身状態の把握が必要である.
著者
田尻 康樹 鈴木 晋也 塚本 佳孝 神谷 祐二
出版者
一般社団法人 日本有病者歯科医療学会
雑誌
有病者歯科医療 (ISSN:09188150)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.3-8, 2007-04-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
8

慢性疲労症候群とは, 健康に生活していた人が, 突然の激しい全身倦怠感に襲われ, 長期にわたる微熱と, 強い倦怠感, 脱力感, 頭痛, 思考力の障害, 精神神経障害などが続き, 健全な社会生活が送れなくなる疾患である. 今回われわれは, 慢性疲労症候群の抜歯症例を経験した.16歳女性. 左側下顎大臼歯部の疼痛を主訴に来科. 口腔清掃状態は, 非常に不良で齲蝕が多く, 左側下顎第二大臼歯歯肉に腫脹を認め慢性根尖性歯周炎に起因する歯槽膿瘍と診断した. 消炎後, 感染根管処置を予定するも, 全身倦怠感による未来院が続いたため, 保存的処置を断念し, 入院管理下で抜歯した.慢性疲労症候群の患者は, 全身倦怠感のため通院が非常に困難であり治療時間も短時間に限られる. 治療方針を立案するにする際には, 常に治療回数を最小限に行うことを念頭に置くべきであり, 患者に与えるストレスが過大と予想される場合には入院下治療も考慮すべきと考えられた.
著者
澁谷 徹 丹羽 均 金 容善 高木 潤 旭 吉直 崎山 清直 市林 良浩 米田 卓平 松浦 英夫
出版者
一般社団法人 日本有病者歯科医療学会
雑誌
有病者歯科医療 (ISSN:09188150)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.21-26, 1997-12-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
12

大阪大学歯学部附属病院リスク患者総合診療室で管理を行った絞扼反射が強い患者37人について検討を行った。絞扼反射の程度を染矢の分類に従って, 軽症, 中等度, 重症の3つに分類し, 歯科治療時の管理方法と絞扼反射の有無を調べた。軽症2例, 中等度61例, 重症56例, 計119症例の管理を行った。管理内容は, (1) 笑気吸入鎮静法, (2) ジアゼバムまたはミダゾラムによる静脈内鎮静法, (3) 笑気吸入・ミダゾラム静脈内投与併用による鎮静法, (4) 笑気吸入・モルヒネ静脈内投与併用による鎮静法, (5) 笑気吸入・ジアゼパム・モルヒネ静脈内投与併用による鎮静法, (6) 全身麻酔の6種類であった。軽症2例はいずれも笑気吸入鎮静法で歯科治療が可能であった。中等度の症例では, 笑気吸入が最も多く61例中30例 (49%), ジアゼパムまたはミダゾラムの静脈内鎮静法が16例 (26%), 笑気・ミダゾラム併用が2例 (3%), 笑気・モルヒネ併用が10例 (16%) であった。また笑気・ジアゼバム・モルヒネ併用によっても歯科治療が不可能なために全身麻酔を行った症例が1例あり, 笑気・モルヒネ併用で治療は可能であったが, 患者が多数歯の集中的治療を希望したため全身麻酔を行った症例が1例あった。重症の症例はジアゼパムまたはミダゾラムによるものが最も多く56例中32例 (57%) で, 次に笑気が12例 (21%), 笑気・モルヒネ併用が11例 (20%) であった。笑気・モルヒネ併用のうち1例は治療不可能なために全身麻酔によっておこなった。
著者
中島 博 岡田 とし江 見崎 徹 大橋 瑞己 増田 千恵子 住本 和歌子 中道 由香 宍戸 孝太郎
出版者
一般社団法人 日本有病者歯科医療学会
雑誌
有病者歯科医療 (ISSN:09188150)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.23-28, 2008-04-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
12

76歳女性, 関節リウマチ (RA) 患者の左上顎犬歯の抜歯を契機として上顎骨が融解し上顎骨骨髄炎と診断された1例を経験したので報告する. 患者は, 1992年にRAを発症しメトトレキサート (MTX), プレドニゾロン (PSL) が投与されている.2006年8月末から左上顎犬歯の軽度の疼痛を自覚するも放置, 同年10月23日疼痛が増大したため近歯科医受診, 同日左上顎犬歯根尖性歯周炎の診断のもとに抜歯を受け, セファクロル1,000mg/日が投与されたが症状増悪のため同31日に紹介来院した.初診時, 左上顎歯肉は腫脹し複数の瘻孔が認められ, CT像では同部の骨が融解していた. 血液生化学検査では, 白血球数は8.1×103/ul, 赤沈は41mm/30', 86mm/60', CRPは3.74mg/l, ALPは238IU/lであった.同日より消炎のためファロペネム (FRPM) 600mg/日を経口投与, 11月2日セフトリアキソンナトリウム (CTRX) 2g/日静脈投与に変更後に腫瘍の疑いもあり, 生検を行って上顎骨骨髄炎と診断された. MTXのみを中止し, 急性症状が消退した11月21日, 手術直前からCTRX2g/日の静脈内投与を行い全身麻酔下に左上顎部の感染組織除去手術を行った. MTXの投与が再開されたが, 2008年4月現在, 上顎骨骨髄炎, 骨融解の再燃は認めない.RA患者においては, 抜歯を含めた歯科口腔外科治療時に重篤な感染症を発症させる可能性のあることを念頭において処置する必要があると考えられた. 同時にMTX, PSL, など免疫や骨代謝に影響する薬剤を投与する必要のある患者には事前の歯性感染病巣の治療と定期的な歯科管理が必要であることを一般の医師に訴えることも大切であると考えられた.
著者
伊東 博美 太田 和俊 池辺 哲郎 篠原 正徳 岸田 剛 伊東 隆利
出版者
一般社団法人 日本有病者歯科医療学会
雑誌
有病者歯科医療 (ISSN:09188150)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.55-60, 2003-09-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
7

本邦において, HIV感染症およびAIDS患者は増加傾向にあり, 治療薬の開発などHIV医療の著しい発展も加味され, 歯科外来を通院する患者は年々増加している. そこで, HIV感染患者の歯科治療の実態を把握するため, 過去3年間に熊本大学医学部附属病院を受診したHIV感染患者60名のうち歯科口腔外科を受診した23名について臨床的検討を行った. 男女比は9: 1で, 男性が有意に多く, 平均年齢は34.9歳で, 年齢分布では20代から40代に集中していた. 感染経路は, 約半数が血友病患者であった. HIV感染者は, 年々増加傾向にあったが, 歯科受診者は減少していた. 当科受診時のCD4細胞数は, ほぼ半数が600/ul以上であったが, 100/ul以下の重度免疫抑制状態の症例も2例みられた. ウイルス量では, 50コピー/ul未満の症例が7例, 50コピー/mm3から10,000コピー/ul未満の症例が13例, 10,000コピー/ul以上の症例が3例であった.23名に対して3年間で266回の診察機会があったがその中には, 除石が53回, 抜歯が18回含まれていた. 抗生剤の予防投与は1例のみで, 治療後特に問題とはならなかった.
著者
秋山 麻美 永合 徹也 山田 希 佐野 公人
出版者
一般社団法人 日本有病者歯科医療学会
雑誌
有病者歯科医療 (ISSN:09188150)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.43-47, 2008-04-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
12

今回我々は, パニック障害の既往を有する患者に対して静脈内鎮静法を施行し, 術後に不穏状態を呈した症例を経験した. 患者は18歳女性. 過換気発作を伴うパニック障害があり内服加療中である. 静脈内鎮静法下に抜歯術および歯科処置を行うこととした. 初回は下顎右側埋伏智歯の抜歯術を予定した. ミダゾラム5.0mgで至適鎮静状態が得られ処置時間15分で終了した. 帰室後より過呼吸発作が出現したがビニール袋による呼気再呼吸にて症状の改善が認められた. 2回目は下顎左側埋伏智歯の抜歯術を予定した. ミダゾラム5.0mgで至適鎮静状態が得られるも痛みの訴えとともに過呼吸状態を呈したため, 局所麻酔薬およびミダゾラムを追加投与し処置時間30分で終了した. 処置終了後より過呼吸発作が出現したため, ミダゾラム3.0mgを投与した. 症状の改善を待ち帰室としたが, 帰室後より不穏症状および過呼吸発作を繰り返した. パニック障害を有する患者では, 環境の変化や疼痛などのストレスを契機にパニック発作を起こす可能性がある. 不安や疼痛などに対する周術期全般にわたる慎重な配慮が必要であると痛感させられた症例であった.
著者
植田 章夫 中嶌 哲 川上 敏行 千野 武廣
出版者
一般社団法人 日本有病者歯科医療学会
雑誌
有病者歯科医療 (ISSN:09188150)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.126-131, 1997

今回, 潰瘍性大腸炎のため長期にわたり副腎皮質ホルモン剤を投与されていた潰瘍性大腸炎患者に発生した下唇癌の1症例を経験した。原発巣の制御はなし得たが, 早期に頸部リンパ節転移ならびに遠隔転移が出現し, 死の転機をとった。本症例では副腎皮質ホルモン剤の長期投与が免疫機構に異常をきたし, 転移を含め, その予後に影響をおよぼしたものと考えられた。
著者
中村 広一
出版者
一般社団法人 日本有病者歯科医療学会
雑誌
有病者歯科医療 (ISSN:09188150)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-6, 1995-08-31 (Released:2011-08-11)
参考文献数
4

本論文においては, 61例の精神疾患と神経疾患患者からなる患者群, および17例の健常者からなる健常群という二つの群を対象として, 上下床義歯の装着所要時間の計測という方法で義歯の取扱い能力を評価した。患者群では脳血管障害1例を除く全例が調査時点ですでに床義歯の装用経験者であった。各群はさらに2つの群に下位分類された: 1群は上下に全部床義歯を装用中のもの, 2群は部分床義歯と部分床ないし全部床義歯を装用中のもの(表1)。患者群の疾患には, 精神分裂病(21例), パーキンソン病(9例), 脳血管障害(8例), アルコール依存症(7例), 気分障害(7例)およびその他が含まれた(表2)。結果は以下のごとくであった(図1)。1. 健常群の対象は3秒から11秒の間に義歯の装着を行い, その所要時間の平均は6.9±2.0秒であった。これに対して患者群の対象は, 3秒から356秒を超えるまでの広い範囲の散らばりを呈した。2.疾患が義歯取扱い能力に及ぼす影響を評価する目的で, 1, 2群の各々について装着所要時間を健常群と患者群との問で比較した。1群においては,患者群の平均所要時間は16.7±15.6秒と, 健常群の平均7.0±1.0秒に対して長かった。その差は有意(P<0.05)ではなかった。2群においては, 患者群の平均は, 23.7±17.9秒と健常群の6.9±2.4秒に対して有意(P<0.05)に長かった。3. 床義歯の形態が所要時間に及ぼす影響を明らかにするために, 健常群と患者群の各々について装着所要時間を1, 2群間で比較した。健常群においては, 両群間に差がなかった。患者群においては, 2群の平均所要時間が23.7±17.9秒と1群の16.7±15.6秒よりも長かったが, その差は有意(P<0.05)ではなかった。4. 義歯の装着所要時間が60秒を超えた5例の疾患には, パーキンソン病, 脳血管障害, 筋ジストロフィー, アルコール依存症, および精神分裂病の各1例が含まれた。これらの症例は義歯装着という行為を成し遂げるに必須のさまざまな要因を示唆した。
著者
金子 譲
出版者
一般社団法人 日本有病者歯科医療学会
雑誌
有病者歯科医療 (ISSN:09188150)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.39-44, 1992-11-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
15

高血圧症患者の歯科治療は危険性が高い。それは, 高血圧症は血圧が高いと言うことだけでなく, 高いことによって継発した脳と心臓の病態変化が歯科治療によるストレスによって生理的状態から逸脱し, 生命に危険な状態を生じることがあるからである。罹患率が高く, 無症状で推移する例もあり, 初診時に歯科で血圧をルーチンに測定しない現状から, 問診で高血圧症であることが分らない場合には思わぬ事故に遭遇することがある。したがって, まず患者が高血圧症であることを知ることが大切であり, 臨床はそこから始まる。本稿ではすでに高血圧症であると診断されている患者の歯科治療にたいして, 歯科麻酔科ではどのような対応をしているのか, すなわちどのような循環管理をしているのか, その基本となる考え方と方法を述べた。
著者
江田 哲 鈴木 円 重松 久夫 馬越 誠之 浜尾 綾 須賀 則幸 鈴木 正二 坂下 英明
出版者
一般社団法人 日本有病者歯科医療学会
雑誌
有病者歯科医療 (ISSN:09188150)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.89-94, 2004

習慣性顎関節脱臼に対する外科的治療法にはさまざまな方法がある. 患者・家族・担当医らの要望, 年齢, 全身状態などを配慮して, 最適な治療法が選択されるべきである. 今回われわれは, 超高齢者の両側習慣性顎関節脱臼に対して観血的治療を行ったので報告する. 患者は91歳, 男性. 閉口不能を主訴に東邦病院歯科口腔外科を受診した. 両側顎関節前方脱臼の臨床診断にてHippocrates法による整復を行ったが, その後も脱臼をくり返した. そのため局所麻酔下にBuckley-Terry法に準じた両側顎関節前方障害形成術を施行した. 術後1か月間再発はみられなかったが, 老衰のために死去した.
著者
藤森 林 栗田 浩 小塚 一芳 小嶋 由子 中塚 厚史 小池 剛史 小林 啓一 倉科 憲治
出版者
一般社団法人 日本有病者歯科医療学会
雑誌
有病者歯科医療 (ISSN:09188150)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.81-89, 2003-09-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
9

本報告の目的は, 外来口腔外科処置における同意書の使用状況を把握することである. 対象は, 全国大学病院歯科口腔外科113施設とした. 質問は, 普通抜歯, 埋伏抜歯, 外来手術の処置別に, 現在の同意書の使用状況同意書を用いる必要性, 同意書を用いる予定があるか, 調査した. そして, 最後に患者とのトラブルを防止する工夫を記載してもらった. 75施設 (回収率66.4%) より回答が得られ, 結果は以下の通りであった. 現在同意書は, 普通抜歯で26%, 埋伏抜歯・外来手術で約半数の施設で活用されていた. 同意書の必要性は, 普通抜歯で約半分, 埋伏抜歯, 外来手術で約8割の施設で感じていた. また, 約9割の施設が今後同意書を活用する予定, あるいは検討中と解答した.
著者
山崎 卓 日高 敏郎 川崎 浩正 西原 昇 桑澤 隆補 扇内 秀樹
出版者
一般社団法人 日本有病者歯科医療学会
雑誌
有病者歯科医療 (ISSN:09188150)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.12-19, 2001-01-20 (Released:2011-08-11)
参考文献数
16

口腔機能, 特に咬合および咀嚼は全身の健康保持に重要な役割を果たしている。今回われわれは, 肥満症患者の口腔疾患および咀嚼機能を調査し, 健常者との比較検討を行なったので報告する。肥満症患者32例に対し10項目について検討し, 対照群との比較検討と肥満症患者群の病態別の比較検討を行ない有意差検定を行なった。対照群に比較し肥満症群では, う蝕症と咀嚼機能については差がなかったが, 歯周病による喪失歯が多くCPITNが高かったことから歯周病の発症, 進行が認められた。また肥満症群を病態別に検討すると, 推定罹病期間別と治療法別では差がなかったが, 中・高齢者群でう蝕と歯周病, 重症群と喫煙群で歯周病の進行が認められた。
著者
伊藤 正夫 宇佐美 雄司 金田 敏郎
出版者
一般社団法人 日本有病者歯科医療学会
雑誌
有病者歯科医療 (ISSN:09188150)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1-9, 1993-10-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
25
被引用文献数
1

名古屋大学医学部附属病院歯科口腔外科では, 総計44例のHIV感染者歯科診療を行っており, その内3例の診療概要を報告し, 本症歯科診療の問題点を検討した。症例1症例はCD4 95/μl, CD4/CD8比0.28と血液学的データは悪く, 臨床的にはAIDS関連症候群 (ARC) であった。特に前駆症状を示すことなく, 右口狭咽頭炎と口腔底峰窩織炎を発症した。イミペネム1000mg/日とガンシクロビル10mg/日連日点滴投与によって7日後消炎した。右下顎智歯周囲炎に継発する日和見感染と思われた。HIV感染者においては口腔衛生状態の保持に特段の配慮が必要である。症例2症例は, 重症型血友病A, CD4: 343/μl, CD4/CD8比: 0.26で無症候性キャリアー (AC) であった。3本の智歯同時抜去を施行したが, 一過性に抗第VIII因子抗体が出現し, 止血に難渋した。症例は長期間出血が持続し, 病棟汚染が危惧されたため, 感染防御に特別の対策を考慮する必要に迫られ, 個室収容を余儀なくされた。症例3症例は, 口腔内に多くの歯科的問題を抱えしばしば感染を生じても, 定期通院ができない感染者であった。通院を阻む最大の理由は, 居住地が遠隔地であることであった。失職の恐れや差別に対する恐怖から, HIV感染の事実を職場に告げることはできず, 歯で入院したり, 遠くの病院へ通うのはおかしいと叱責されることも少なからずあるとのことであった。社会支援の一環として, 歯科医療供給体制の整備は急務である。