著者
伊藤 朋恭
出版者
大妻女子大学
雑誌
大妻女子大学紀要. 社会情報系, 社会情報学研究 (ISSN:13417843)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.149-159, 2007

化石燃料から排出される二酸化炭素が地球温暖化を引き起こしていることはすでに通説として定着している。確かに大局的に見れば温暖化に向かっており、少なくてもその一因が人為的二酸化炭素の排出にあることは確かであろうし、将来に備える予防的見地から対策を考えることは合理的である。しかし一方では人為的温暖化という通説を疑問視する見方も多く存在しており、その中には合理的な意見も少なくない。本稿ではこれらの懐疑的意見を5つに大別して整理することを試みた。懐疑論の中で最も中心的な意見は、温暖化に寄与している大きな要因は人為的なものではなく、太陽活動の変動などの自然現象にあるとするものである。残念なことに、これらの懐疑論の存在は世間からは事実上無視されている。なぜ無視される状態が生じているのか。その原因として二つ挙げることができる。一つは、温暖化がすでに科学の世界を離れて政治的課題になってしまっており、科学的な正当性を議論するよりは政治的判断が優先していることである。もう一つは、何事に関しても「悪いニュース」に偏りがちなマスメディアの報道姿勢である。人間活動がすべての原因であることを大前提として、「大変だ」という環境情報を一方的に報道する傾向にあり、結果的に一般大衆がそれ以外の要因の寄与について考える機会を奪っている。
著者
池田 緑
出版者
大妻女子大学
雑誌
大妻女子大学紀要. 社会情報系, 社会情報学研究 (ISSN:13417843)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.55-77, 2005

これまで植民地主義は主に政治制度と歴史性に結び付けて論じられてきた。しかしそのような認識枠組みでは,制度としては消滅しても実効的に存続する植民地主義を問題化できない。また,この社会に遍在する植民地主義的な支配関係も捉えることができない。本稿では,植民地主義を制度や歴史性の問題ではなく,心的傾向の問題として再定義したい。それによって,社会に遍在する支配関係において,植民地主義の痕跡を発見することが可能になり,さらにはコロニアリストの心性の問題としてその責任を問題化することが可能になる。さらに本稿では,国民国家システムにおけるフォーディズム体制が社会の分業化を促し,被抑圧者を創設し,やがて本質主義によって正当化してきたことを整理する。その過程では,コロニアリストによる支配に際しての共通の手法が発見できる。支配関係を指し示す言説の欠落,区別論,被支配者への問題の転嫁,被支配者への介入と分断,被支配者の多様性の賞賛,自己欺瞞の強要,などである。これらの手法を注意深く見ることによって,制度化された支配の中に植民地主義の痕跡を発見し,「心の支配」の問題に転換して捉え直すための視点を模索する。
著者
松本 暢子 平野 あずさ
出版者
大妻女子大学
雑誌
大妻女子大学紀要. 社会情報系, 社会情報学研究 (ISSN:13417843)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.157-168, 2005

現在,多くの自治体では安全で利用しやすい公共トイレの設置が進められているが,実際の公共トイレは「危ない,臭い,汚い,暗い」といわれ,女性や子どもをはじめとして高齢者,障害者などは利用しにくい。そこで,本稿は,東京都新宿区の公共トイレのなかから公衆トイレ(26ヶ所)に注目し,現地観察調査を実施し,高齢社会において求められる多様なニーズに応える公共トイレのあり方を考察している。現地観察調査は,出入り口や施設構造,バリアフリーなどの施設条件,人目があるか,死角がないかなどの周辺立地環境,洗面台やブース内の設備・備品状況,清掃が行き届いているか,臭気はないかなど衛生状態についての把握を行っている。調査結果では,(1)すべてのトイレが不潔で危険なわけではなく,一部の問題のあるトイレでの管理方法を見直す必要があること,(2)不潔で危険なトイレの多くは施設や設備条件に問題があり,その改善が大きな課題であることが明らかになった。その結果にもとづき,(1)立地特性を踏まえ,商業施設等のトイレを含めた公共トイレ全ての配置を検討することと,(2)利用特性を配慮し,バリアフリー化や多目的な利用に応える施設設備条件の改善を進めること,(3)管理業務内容やその方法の見直しを行うことが必要であることを結論としている。さらに,施設設備条件の改善に取り組む際の問題として,施設設備の設計者と管理業務担当者の間の情報交換が不十分な現状を指摘し,情報の共有やフィードバックの必要性に言及している。さいごに,公共トイレの整備および管理の現状をとおして,公共空間の整備・管理の課題である「公共性の醸成」について考察し,住民参加による整備・管理が鍵となることを示唆している。
著者
Harada Ryuji
出版者
大妻女子大学
雑誌
大妻女子大学紀要. 社会情報系, 社会情報学研究 (ISSN:13417843)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.217-231, 2007

The purpose of this paper is to show that the various accent patterns of the Tokyo and Nagoya dialects are reduced to the interaction of two pitch determining factors: realization of phrasal intonation and realization of the accent feature in a word. The intrinsic difference of the two dialects rests in the difference of where the phrasal intonation is realized. In the Tokyo dialect, it is between the first and the second moras as in #LH. In the Nagoya dialect, it is between the second and the third moras as in #LLH. Seemingly complicated surface accent pitch patterns are due to the effects of some other factors. Those are the length of the word, the position of the accent fall, and the accent feature in the suffix. Rather than positing a set of ordered rules, constraint ranking and candidate evaluation according to the practice of the Optimality Theory gives the straightforward account to the complex language facts.