著者
池田 緑
出版者
大妻女子大学
雑誌
大妻女子大学紀要. 社会情報系, 社会情報学研究 (ISSN:13417843)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.25-41, 2004

女子大学はその学生を女性に限定していることによって,すでにジェンダー・ポリティックスの実践の場となっている。とくに女子大学に勤務する男性教員は,この女子大学のもつ政治性ゆえに,政治的な存在であらざるをえない。男性教員による女子学生への監視の視線,男性教員による言説の女子大特有のジェンダー・ポリティックスに伴う政治的効果,女子大における男性性およびホモソーシャリティの再生産の政治的効果など,を考えることにより,良妻賢母思想と女性解放思想の間で揺れ動いてきた女子大の政治性と,そこに勤務する男性教員のポジショナリティを問う枠組みを示したい。そのうえで,男女共同参画時代に女子大において男性教員の存在が果たしうる政治的な効果と,社会への貢献の可能性について考える。
著者
森 義信
出版者
大妻女子大学
雑誌
大妻女子大学紀要. 社会情報系, 社会情報学研究 (ISSN:13417843)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.1-29, 2005

人類の歴史は,コミュニケーションの形態上の変遷という観点からみてみると,当初は長いあいだボディ・ランゲージの段階にあり,ついでオーラル・コミュニケーションがこれに加わり,最終段階で文字文化が加わったと言える。手は,こうしたあらゆる段階で,重要な役割を果たしてきたし,いまも果たしている。(1)手と腕は物理的な次元で攻撃と防御の道具であり,指先と手は物を巧みに作り,操る。(2)手は,感情や意志を巧みに表現し,ときには言葉以上の表現力をもっている。(3)手は,身体のうちでもっともシンボリックな機能を果たす部分であると言える。(4)手と指は,数をかぞえて表示もできるし,文字の代わり,眼の代わりもする。こうした機能性のゆえに,古来,手には奇跡を起こす力があるとの信仰がうまれた。キリスト教世界では,イエスはライ病患者に手を触れて癒したとされ,また,中世フランスの国王は,「王の病気」と呼ばれたルイレキの患者に手で触れて,治癒する力をもっていたとされる。また,聖遺物崇拝の習慣がある西欧では,聖人の手や腕が切り取られて箱に収められ,手にかかわる病を治癒したり技量を上達させたりする霊験があると信じられてきた。かくするうちに,手そのものが身体から切り離された形で,絵画に描かれ彫塑にほられ,信仰の対象としてシンボル化されてきた。ユダヤ教やキリスト教における「神の右手」,イスラム教の「ファーティマの手」は,そうした一例である。ここには,信じるからこそ,手のもつ超自然的な力の恩恵に浴することができるという,共同幻想の世界があった。手は法行為の世界でも重要な役割を果たしてきた。西欧の古代・中世法においては,奴隷=手で捉えられたものは,奴隷主の手を経て解放されなければならなかった。宣誓は右手を挙げて行なわれ,契約や和解,承諾や合意に際しても,手は重要な役割を果たしている。このように手は,人格の表象,法的行為能力のシンボルとして機能していた。それゆえにまた,ゲルマン系の部族法典は,人が法律に違反したり,契約を破ったりすれば,手の切断をもって罰すると規定している。それは単なる刑罰としての身体切除を意味したのではなく,「民事的な死」の宣告であり,当該者は以降,法律業務に就けなかったのである。手の切断は一種の法的無能力を作り出したのである。宗教改革以降,手への信仰は廃れ,法律行為における手の役割は減少し,これにともなって手への刑罰も激減したものの,反面,近代以降,対面式のコミュニケーションや演技の世界における手の象徴的使用は,一向に衰えを見せていない。
著者
野崎 昭弘
出版者
大妻女子大学
雑誌
大妻女子大学紀要. 社会情報系, 社会情報学研究 (ISSN:13417843)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.251-255, 2006

円周率πを表すいわゆるブランカーの公式の初等的な導き方を示し,その打切り誤差が,π/4の逆数をグレゴリー級数で表したときの打切り誤差と正確に一致することを示した。またその導き方を応用して,自然対数の底eの収束の速い連分数展開を与えた。さいごにそれらの無限連分数の数値計算法を検討して,これまでに知られている直接的な計算法をブランカーの公式に当てはめるとすぐ桁あふれが起こってしまう(最初の10項しか計算できない)こと,また本論文で提案される計算法によれば,桁あふれを大幅に抑えられる(4百万項計算できる)ことを示した。
著者
前納 弘武 大鐘 武 草柳 千早 池田 緑
出版者
大妻女子大学
雑誌
大妻女子大学紀要. 社会情報系, 社会情報学研究 (ISSN:13417843)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.67-82, 2007

1990年代以後、大学における変化あるいは改革のひとつとして、新しい名称をもち複合的な学問分野からなる学部が増えているという現象がある。そうした学部のなかには、カリキュラムに社会学分野の科目を含むものも少なくない。しかしそれらの学部での社会学教育には、従来とは異なる固有の難しさがあるように思われる。筆者らは、平成16年度大妻女子大学社会情報学部プロジェクト研究として、「複合的な学問分野からなる学部における社会学教育の現状と課題」研究を実施し、その一環として、新名称を冠し、複合的な学問分野からなっていると思われる全国の大学学部の社会学教育担当者を対象に質問紙調査を行った。本稿ではこの調査結果について、第1に、学部における社会学教育の位置づけ、第2に、社会学分野の科目を教える際の諸問題、第3に、学生に学んでほしいこと、教育の重点、第4に、社会学教育が担うべき役割、以上の4点について概観し、教育上の課題を論じる。調査結果からは、複合的な学問分野からなる学部における社会学教育の問題として、カリキュラム上の基礎であっても社会学を体系的に教育することが難しい、また基礎であってもなくても、カリキュラム上の他の分野・科目との整合性、連携が難しいこと、学生の関心・知識・理解度にばらつきが生じていること、の主な3点が明らかになった。
著者
皆吉 淳平 柴田 邦臣
出版者
大妻女子大学
雑誌
大妻女子大学紀要. 社会情報系, 社会情報学研究 (ISSN:13417843)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.95-117, 2006

本稿は,2005年におこなわれた第44回衆議院選挙において,若い女性層が,どのようなメディアから影響を受け,その結果としてどのように考え,投票したのかを探ることを目的としている。予想外の結果となった今回の総選挙は記憶に新しいが,特筆すべき点として,これまで選挙に関心のなかった若年層が郵政解散選挙の「劇場型政治」に"踊らされる"かのように影響を受けて与党支持に流れたこと,ブログやWebなどの新しいメディアが投票行動に影響を与えたと考えられていることなどがある。そこで本稿では,その現状を探るためにアンケート調査をおこなった。調査の結果を分析すると,若年女性層の投票行動は,特に「劇場型政治」に"踊らされて"投票をしたとは言えないことがわかった。また,ブログなどの新しいメディアはほとんど影響を与えていなかった。一方で,若年女性層の投票行動にもっとも影響を与えていたのは家族であり,各種のメディアよりも家族の中でのさまざまな情報交換に信頼を置いている傾向を確認することができた。
著者
浅井 澄子
出版者
大妻女子大学
雑誌
大妻女子大学紀要. 社会情報系, 社会情報学研究 (ISSN:13417843)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.1-13, 2006

本論文の目的は,映画のヒットの状況とその要因を実証分析することにある。論文の結論は次の2点に要約される。第1は,大部分の興行収入は少数の映画作品から生まれていることが,データから明らかになった。このことは,映画製作者が高い経営上のリスクに直面していることを示唆する。第2に,既に他のメディアで発表された原作の映画化,映画の続編,専門家により高い評価を得た映画,複数の映画館を所有する配給会社によって配給された映画であることは,ヒットの確率を高くすることが,ハザード・モデルより示された。原作の映画化と続編の効果は,映画製作者のリスク回避的行動に合理性があることを示唆する。
著者
森 義信
出版者
大妻女子大学
雑誌
大妻女子大学紀要. 社会情報系, 社会情報学研究 (ISSN:13417843)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.129-148, 2007

紀元前2世紀末、北欧のゲルマン系譜族が南下し、ローマを脅かす動きを示したことは書誌学的に証明できる。より良い居住地を獲得するための第一次の南下と移動は、ローマ人に撃退され、ゲルマン人は所期の目的を果たせず、都市や農村を略奪して北へ戻っている。ただし、この際に捕えられたゲルマン人は小グループに分けられて北ガリアに屯田兵として入植させられた。この時期の北欧は,温暖化による海面上昇の時代にあり,北海沿岸の集落では防潮のため,さかんに盛り土がなされている。ゲルマン系諸族は、第二次移動期において、ローマ帝国の国境域や領内での土地占取に成功した。4世紀末のアルデンヌ高地、5世紀前半のボーデン潮周辺地域では,長期にわたる低温化と悪天候が生じていたと推定される。ボーデン湖畔のアレマン人は越境を開始し、北海沿岸の二つの集落の住民も離村し、この集落は廃村となっている。西ローマ帝国は、ゲルマン系譜族の移動によって,476年に終焉を迎えた。文書証拠のない時代の民族移動を跡付けることは、歴史家にとっては困難を極める。本稿は、ゲルマン民族の移動という歴史現象を,気象学上のデータとつきあわせ,前者の原因を気象変動に求めてみるという、一つの試論である。
著者
伊藤 朋恭
出版者
大妻女子大学
雑誌
大妻女子大学紀要. 社会情報系, 社会情報学研究 (ISSN:13417843)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.149-159, 2007

化石燃料から排出される二酸化炭素が地球温暖化を引き起こしていることはすでに通説として定着している。確かに大局的に見れば温暖化に向かっており、少なくてもその一因が人為的二酸化炭素の排出にあることは確かであろうし、将来に備える予防的見地から対策を考えることは合理的である。しかし一方では人為的温暖化という通説を疑問視する見方も多く存在しており、その中には合理的な意見も少なくない。本稿ではこれらの懐疑的意見を5つに大別して整理することを試みた。懐疑論の中で最も中心的な意見は、温暖化に寄与している大きな要因は人為的なものではなく、太陽活動の変動などの自然現象にあるとするものである。残念なことに、これらの懐疑論の存在は世間からは事実上無視されている。なぜ無視される状態が生じているのか。その原因として二つ挙げることができる。一つは、温暖化がすでに科学の世界を離れて政治的課題になってしまっており、科学的な正当性を議論するよりは政治的判断が優先していることである。もう一つは、何事に関しても「悪いニュース」に偏りがちなマスメディアの報道姿勢である。人間活動がすべての原因であることを大前提として、「大変だ」という環境情報を一方的に報道する傾向にあり、結果的に一般大衆がそれ以外の要因の寄与について考える機会を奪っている。