著者
安藤 哲生 川島 光弘
出版者
立命館大学
雑誌
社会システム研究 (ISSN:13451901)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-22, 1999-03-31

本稿は立命館大学BKC社系研究機構が,福岡県国際技術取引推進協議会からの研究委託に基づき,日中間技術取引促進の前提となる諸条件を解明しようとしたものである.中国の科学技術,技術移転を取り巻く動向を見ると,自主開発については公的R&D機構中心のR&D体制から企業中心へと改革中であり,一定の変化が認められる.技術導入については年々拡大する傾向にあるものの,プラント・設備偏重導入,重複導入,弱い自主開発との結合などの問題点を抱えている.技術導入に関わる法令は,いくつかの論争点が含まれており,技術導入の認可プロセスは複雑で注意が必要である.技術導入の意思決定,交渉,技術使用の各局面で主体が異なるという従来の問題はほぼ解消され,企業が各局面で主体性を有していると言える.技術取引市場一般について見ると,技術取引は一般商取引とは異なる特徴を有し,技術情報が取引対象になるには,導入側は対象技術の技術的・経済的有用性などを,供与側は対価獲得の有利性などを認識し,双方によって取引の必要性が認識されなければならない.このような技術取引を規定する諸条件のもと,96年より新たな技術取引形態として日中テクノマート(技術商談会)が試みられている.'98日中テクノマートで双方の参加企業にアンケート・ヒヤリング調査が行われた.その分析の結果からは,事前情報交換の促進,商談・説明に対する考え方の相互理解,多数の「合作」希望への対応など幾つかの課題が見いだされた.とりわけ中国の場合,資本不足から技術取引に限定した形態が難しいという点は,今後の日中技術移転促進にとって最大の課題であると言えよう.
著者
徐 継舜 曹 瑞林
出版者
立命館大学
雑誌
社会システム研究 (ISSN:13451901)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.81-87, 2002-03-31

70年代末に改革開放政策を開始してからの20年間,遼寧省における個人(個体)および私営経済は急速な発展を遂げ,きわめて大きな成果をあげた.個人・私営経済は地域経済の発展,税収の増加,雇用の確保,市場の活発化,安定化などの面で,重要な役割を果たしつつある.しかし,遼寧省の個人・私営経済の発展は全体的にはまだ初期的段階にあり,多くの困難と課題に直面している.その主なものは,資金源の不足,技術水準と経営管理方式の立ち遅れ,市場競争秩序の混乱による困難,企業の合法的な権利や利益がしばしば侵害されること,および政府と社会の支持が強力でないことである.遼寧省の非公有制経済を一層発展させるために,政府は個人・私営企業の創業や成長を支援する一連の政策及び法律・法規を速やかに立案,制定し,その実施に力を入れる必要がある.政府は4つの政策的支援に重点をおくべきである.第1に,憲法の規定に従い,個人・私営企業の合法的な権益を保護し,内国民待遇を与えるべきである.第2に,社会的サービスの提供システムの構築である.具体的には,融資保証制度の整備,技術革新の支援措置の拡充,情報サービスの提供網の整備,人材育成システムの整備などである.第3に,構造調整と制度改革を加速し,とくにハイテク産業型企業,大中型企業を含むグループ企業,農産品の加工型企業,環境保全型と資源総合利用型企業,第三次産業グループ型(群体型)企業を重点的に支援することである.加えて,政府は個人・私営企業が国有経済構造の戦略的調整と国有資産の新たな結合に関する改革への参加を奨励すべきである.第4に,政府は都市,農村の双方の住民による創業を支援する.これによって,中小企業が大いに発展することは雇用を増加させ,今後,一時帰休と過剰労働力の移転問題を解決する重要な国策の一つとなる.上述の政策目標を実現するうえで,政府自身の改革が不可欠である.それは政府と企業の明確な分離,行政機構の簡素化と統一化,効率の原則に基づく「四つの転換(本稿,参照)」を速やかに実行すべきである.これは国民経済の持続的で健全な発展を実現する根本的な保証である.
著者
劉 雅文 楊 秋麗
出版者
立命館大学
雑誌
社会システム研究 (ISSN:13451901)
巻号頁・発行日
no.4, pp.99-105, 2002-03

非公有制経済関係者は,わが国社会主義初級段階における生産力の解放と発展の必要性に応じて,改革開放,社会主義市場経済発展のプロセスにおいて現れた一つの新しい社会グループである.2000年末に遼寧省全体の個人および私営企業は152.6万社,そのうち私営企業7.4万社,個人および私営企業の従業員数は省全体の労働人口の19.3%を占める.人員構成から見ると,このグループの発展初期に,就業者は主に農民や無職者であったが,近年,大勢の知識人,専門家,技術者,帰郷軍人,政府幹部および帰国留学生が参入してきた.就業動機から見ると,生存型,自由追求型,生活改善型,自己価値実現型が存在している.学歴から見ると,個人および私営企業経営者の学歴は年々高くなっている.年齢構成からみると,主に中年である.資産規模から見ると,20数年の発展を経て,個人経済の資本蓄積が早くなり,一定規模の経営も現れてきて,経済的実力が強くなった.以上の側面からわかるように,遼寧省の個人および私営企業経営者の出身,就業動機,学歴および年齢構成は大きく変化してきている.その資産規模は迅速に拡大しており,個人の資質も高くなりつつある.個人および私営企業経営者はほかの階層に比べて,最も裕福な階層であり,かつ改革の絶対的支持層に属するという二重の特徴を持っている.一定の政治参加意識を持ちながら,政策に対し敏感に反応している.筆者は決断能力,管理能力,人格,忍耐力についての調査を通じて,遼寧省の個人および私営企業経営者を高,中,低3つのレベルに分けた.個人および私営経済の発展につれ,一部の中低レベル経営者は中高レベルまで上昇することが期待されている.
著者
張 鳳羽 尹 文紅
出版者
立命館大学
雑誌
社会システム研究 (ISSN:13451901)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.89-98, 2002-03-31

ここ数年,遼寧省政府は,一連の政策と法規を相次いで打ち出した.それらは非公有制企業が買収,合併,持株支配,株式参加,連合,請負,リース等の方式によって,国有企業改革の経営方式改編,並びに資産再編に関与することを支持し奨励している.非公有制企業の国有企業改革への関与は,国有企業の活力を増強し,国民経済の市場化の進度を加速し,多様な所有制経済の公平な競争と共同の発展を促進し,就業機会を増やし,遊休資源の利用,遼寧省の経済発展と社会の安定の維持等に重要な役割を果たした.非公有制企業の国有企業改革への関与は多くの問題にも出会っている.例えば,一部の幹部,国有企業管理者及び従業員,非公有制企業主等は非公有制企業が国有企業改革に関与することに対して,多くの不安を抱いていて,積極的でない.いくつかの関連する政策と法律はまだ完備しておらず,不整合や,実施困難であったりしている.またいくつかの非公有制企業には経済的実力がなく,管理水準も低く,個人の素質も欠陥があるため,国有企業改革に関与する準備が不足している.問題の解決には,社会各方面が努力する必要がある.例えば,良好な世論環境が必要であり,社会各方面が思想や観念を改めて,非公有制企業が国有企業改革に関与する役割を正確に認識し,国有企業改革への非公有制企業の関与を心底より熱烈に励まし,支持し,関心をもつ必要がある.諸政策,法律を制定し,経済体制の改革を深化させることによって,国有企業改革へ関与する私営企業が平等に競争する外部環境を創造することが必要である.制度転換企業が困難な問題を解決するのを援助する上で特別重要な鍵は,人月と資産の分離問題をうまく解決することである.市場ルールと法律に従ってことを処理し,非公有制経済の国有企業改革への関与を一つの市場行為及び企業行為としなければならない.各種の非経済的要素,非市場的要素の干渉を避け,非公有制企業の国有企業改革への関与が順調に進行することを促進しなければならない.
著者
赤堀 次郎 渡辺 信三
出版者
立命館大学
雑誌
社会システム研究 (ISSN:13451901)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-12, 2002-03-31

近代経済学の発展に数学や,数理統計学は重要な役割を果たしてきたが,近年,数理ファイナンスと呼ばれる新しい金融の理論においては,確率解析学(Stocahstic calculus)という比較的新しい数学が基本的な方法を提供している.そこでは,市場の数学モデルとして,株式等の証券の価格の時間変化のモデルが確率過程として定式化され,確率微分方程式を中心とする確率解析の方法を用いて研究が行われている.確率過程を数学的に構成する方法はいくつかあるが,数理ファイナンスの理論においては確率微分方程式の理論が有用である.数理ファイナンスの理論において,市場の完備性を考察する際には,確率過程の与える情報系-「filtration」や,そのfiltrationに関するmartingale(と呼ばれる確率過程)全体の集合の構造を知ることが基本的に重要になるが,その集合=空間の構造を調べる方法としては,確率微分方程式の方法がもっとも優れているからである.本稿では,まず,その確率微分方程式の理論を概観する.とくにその「弱い解」と「強い解」の相違について注意を喚起し,「強い解」の存在についての新しい結果を述べる.この結果は確率的流れ(stochastic flow)を先に構成し,そこから確率微分方程式の「強い解」を与える,という点で既存の方法とは異なる新しい手法である.その新しい理論の数理ファイナンスへの直接の応用についてはいまだ研究成果は出ていないが,結びでいくつかの注意を喚起しておく.
著者
井本 亨
出版者
立命館大学
雑誌
社会システム研究 (ISSN:13451901)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.25-48, 2003-09-30

本稿はアメリカ商業銀行経営の変遷をたどり,その推移に対して経営学的な分析を試みるものである.1970年代より,アメリカ商業銀行は業務分野,地理的分野に関わる法規制によって業務展開が大きく制限され,成長が鈍化した.多くの大企業が海外進出を行う(多国籍企業の登場)中で,商業銀行も法規制の影響が少ない海外業務へと収益分野を拡大させ,発展途上国に対してソブリンローンなどを提供する.また,アメリカ国内においては,企業合併の手法として脚光を浴びたLBOに対する融資や,不動産融資に精力的に進出し,資産規模を大きく拡大させた.しかしその一方でそのような新しい分野の融資に対する適切な貸付ポートフォリオの構成を行わず,商業銀行に巨額な不良債権を発生させた.不良債権は多くの商業銀行の財務内容を悪化させ,これを契機に商業銀行の経営方針は大きな変化を迎える.これまで,すべての金融サービスを提供する,いわゆるフルライン戦略とよばれていた方針を転換し,自らの得意とする業務分野に経営資源を集中させるフォーカス戦略を多くの銀行が採用した.カリフォルニアの大手商業銀行バンク・オブ・アメリカが海外業務から撤退し地元におけるリテール業務(小口取引業務)に特化したように,商業銀行が経営資源を集中させた分野は,個人や中小企業を顧客とする分野であった.リテール業務は1件あたりの収益が少なく,これまで商業銀行は大口顧客である大企業との取引を好む傾向にあったが,それらの取引は証券業との競争激化によってすでに魅力的なものではなくなっていたため,収益をもたらす新たな顧客としてリテール業務が注目され,規制緩和を伴って,商業銀行はリテール業務を新しい収益源とすることに成功した.このような一連の流れに加え,デリバティブなど新しい金融技術が引き起こした金融革新によって,伝統的銀行業務(預金貸付業務)から金融サービス業務へと商業銀行のマネジメントの主眼は大きく変化していく.