著者
松井 尚子
出版者
北海道大学大学院教育学研究科
雑誌
北海道大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13457543)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.237-250, 2006-06-30

乳幼児の「自己」形成の問題は,他者との関係性をはじめとする,自己および他者表象など,発達上の根幹的な事柄を含む問題である。又この問題は,発達・療育相談の場においては極めて日常的な課題として立ち現れてくる。本論文では,ダニエル・スターン(Stern, D.)とアンリ・ワロン(Wallon, H.)の自己感,あるいは自我意識に関する論考を読み取りの手がかりとしながら,この問題への接近を試み,6ヶ月から3歳後半までの乳幼児の日常的なエピソードを「自己」意識の観点から検討し,日常場面の捉え直しを仮説的に提起した。最後に,スターンとワロンの論考を,乳児像の捉え方,関係性の捉え方,表象の問題の,3つの観点から比較検討した。
著者
青木 紀
出版者
北海道大学大学院教育学研究科
雑誌
北海道大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13457543)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.105-126, 2005-12-20

「小さな政府」が目指されようとしているわが国で生起してきているのは,これまでにはあまり社会問題としては取り扱われてこなかった「格差社会」「二極化社会」形成の現実である。この事実は教育社会学でも取り上げられてきている。しかし,教育費負担をめぐる不平等については,まだ正面切って議論されているとはいいがたい。そのことはまた,わが国の学校教育費をめぐる私費負担の割合はOECD 諸国の中でもとりわけ高いことに気づきつつも,その理由をめぐる分析はほとんどなされていないことと重なり合っている。本稿では,家族の「教育戦略」の根幹でもある教育費調達に焦点を当て,とくに貧困・ 低所得家族を対象に分析する。そこから浮き彫りになってくるのは,日本の教育費負担における「家族主義」の強固な存在である。このことを議論の俎上に載せることが,今後の教育社会学の大きな課題である。
著者
三好(橋本) 道子
出版者
北海道大学大学院教育学研究科
雑誌
北海道大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13457543)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.1-35, 2006-06-30

これまで,表情認識に関わる研究のほとんどは静止画像を用いて行われており,動きを伴う表情変化の処理については詳しく検討されていない。本研究では,事象関連脳電 位(ERPs)を指標とし,表情の動きの知覚を誘発する表情変化に対する電位反応を測定した。その結果,真顔から笑顔への表情変化に対しては,刺激の物理的変化量の違いや選択的注意を向けるか否かに関わらず,N 170成分がより陰性にシフトした。さらに真顔から怒り顔への表情の変化に対しては,真顔から笑顔への表情の変化と比較して,より早い潜時帯から電位の陰性のシフトが生じることが示された。N 170は顔認識過程における最も早い知覚処理段階を反映し,静止画表情に対しては感度がないことが示されていることから,静止画表情と比較して表情変化の処理が促進されること,さらに脅威信号となる真顔から怒り顔への表情の変化に対しては,より迅速な処理が行われることが示された。