著者
淀野 順子
出版者
北海道大学大学院教育学研究科
雑誌
北海道大学大学院教育学研究紀要 (ISSN:13457543)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.77-97, 2007-01-31

本稿は人間発達としての内発的発展とはいかなるものかを検討するため、内発的発展としての地域産業振興における地域住民セクターの意義と役割を明らかにすることを目的としている。本稿では村をあげてダム反対運動を展開した木頭村を事例として取り上げ、地域住民が内発的発展としての実践の主体となる過程を明らかにした。さらに実践の過程において設立した地域住民セクターの現状を検討することにより、内発的発展の条件を検討した。その結果、環境・健康・生活文化に配慮し、地域を重視した地域住民セクターによる地域産業振興は、経済原理では評価されにくい多様な地域資源認識をもたらし、地域経済を活性化していることが確認できた。また、地域通貨の利用などを介した地域内・地域間の連携が、人間発達としての内発的発展の契機となっていることが確認できた。
著者
亘理 陽一
出版者
北海道大学大学院教育学研究科
雑誌
北海道大学大学院教育学研究紀要 (ISSN:13457543)
巻号頁・発行日
vol.100, pp.51-76, 2007-01-31

本論の目的は、コミュニケーションで成功を収めることに貢献しうるような「教育文法」の内容構成のアプローチについて考察することである。文法指導において語用論的側面を重視する既存の枠組み・アプローチを検討すると、教育文法の内容編成の基盤として各文法概念に共通するような原理が必要であることが分かる。そこで、言語学における論理的・意味論的・語用論的含意の区別から、各表現の使い分けを教えるためには語用論的含意の領域にまで踏み込んだ教育内容構成が必要であり、語用論的含意の中でも、Grice(1967[1989])の発話の意味のモデルにおける「一般的会話の含意」(GCI)こそが有効な概念であることを示した。さらに、その前提となる一般原理について、Griceのより単純で包括的な再定式化であるHorn(1984, 1989)の二原理に基づいて、従来の比較表現指導の問題点を整理し、指導過程の基本構造と具体的な問題配列の再構成を試みた。
著者
角田 (矢野) 悦子 森谷 絜
出版者
北海道大学大学院教育学研究科
雑誌
北海道大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13457543)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.95-103, 2005-12-20

植物カモミール(Matricaria chamomilla)は,ヨーロッパを中心に古くから鎮静効果をもつ植物として利用されてきた。カモミールの摂食によるリラックス効果及び睡眠影響について報告された論文を総説としてまとめた。カモミール茶の摂食が末梢皮膚温を上昇させる,心拍数を低下させる,自律神経系を副交感神経優位にするという報告,感情測定尺度(MCL-S.1)によってリラックス感得点の上昇を認めたことが報告されている。また,カモミールエキスを添加したゼリーを温めた状態で摂食した場合には末梢皮膚温の上昇や心拍数の低下が起こり,副交感神経優位の傾向が示されたが,低温で摂食した場合 にはその効果が認められなかったと報告されている。OSA 睡眠調査票を用いた睡眠実験から,カモミールエキス添加ゼリー摂食日の夜間睡眠では,ねむ気の因子,寝つきの因子などが無添加ゼリーを摂食した日に比べて改善したことが報告されている。
著者
佐藤 公治 西山 希
出版者
北海道大学大学院教育学研究科
雑誌
北海道大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13457543)
巻号頁・発行日
no.100, pp.29-49, 2007

絵本の集団読み聞かせ場面で、幼児はどのように反応し、また読み聞かせの活動にも積極的に参加していくことによって読み聞かせの楽しさを見出しているか、その微視発生的な過程を分析した。本研究では、子どもの発話活動が積極的に展開された読み聞かせの事例と、子どものイメージ活動が積極的に展開された事例について子どもの絵本への注視行動の分析と発話分析から受容過程の微視的分析が行われた。そこでは、それぞれがやや異なった活動のモードで展開しながらも子どもたちは読み聞かせに集中していた。また保育者の読みに子どもたちが途中から一緒に参加して発話をしていくといった同調行動や共振性を音声分析から明らかにされた。これらが子どもの読み聞かせの楽しさを生んでいる一因になっていると考察した。そこでは母子の間の読み聞かせとは異なった集団の読み聞かせの特性が明らかになった。また、保育者の効果的な働きかけや、子どもたちの反応を引き出すような作品の仕掛けについても関連づけて検討された。
著者
石黒 広昭 内田 祥子 小林 梓 東重 満 織田 由香
出版者
北海道大学大学院教育学研究科
雑誌
北海道大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13457543)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.181-223, 2005-12-20

2005年度第一クールの調査目的はファンタジー遊びの中で,子ども達の挑戦的な経験がどのように子ども達を育て,そうした経験が何を発達させるのか調べることであった.第一クールは五月から七月まで行われ,テーマは月探険である.この第一クールからは「こどもクラブ」と呼ばれるメンバー制が採用され,12名の子どもが参加した.そこには年長5名,年中6名,年少1名が参加した.その内,7名が女児で,5名が男児である.大人は6名が参加した.その内,2名は宇宙研究所の研究員という主要な役割を担った.彼女らはプレイショップの始まりでは「こどもクラブ」の先生だが,途中から急に宇宙調査隊員に変身した.彼女たちは子ども達にとっては,現実世界と空想世界をつなぐ媒介者として存在した.劇化の中で,子ども達はいくつかのコンフリクトを経験し,現実と虚構,探険への不安と希望といった曖昧な状態に投げ込まれた.子ども達は劇化の中で自分達で問題を発見し,大人に助けられながらそれを解こうとした.本研究では劇化,集団討論,描画を通して子ども達がどのようにストーリーを組み換え,創作していったのか分析した.
著者
須田 力 河口 明人 森田 勲
出版者
北海道大学大学院教育学研究科
雑誌
北海道大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13457543)
巻号頁・発行日
no.97, pp.1-25, 2005

豪雪地住民の冬季の身体活動の実態を明らかにし在宅での自発的なトレーニングによる体力の変化を検討するため,豪雪地帯の栗沢町,特別豪雪地帯の三笠市および士別市の中高年者を対象に,運動実施記録による調査(三笠市および士別市),無雪期及び積雪期の生活における身体活動の強度測定(三笠市),降雪始めと降雪終了期の2回の体力測定(3地域)を行った結果,⑴除雪の運動時間が歩行を上回ること,⑵無雪期の畑仕事,歩行,積雪期の歩行よりも除雪の運動強度が酸素摂取量,心拍数とも高いこと,⑶降雪始めに対して降雪終了期には男女共6分間歩行において有意な向上を示し,全般的に体力が向上したものの血圧値が増加傾向を示すなど,豪雪地域特有の特徴が浮き彫りにされた。これらの結果から,冬季間は運動不足により体力が低下するという問題が必ずしも妥当しない現実と除雪の効果と問題点を考慮した運動指導の必要性が明らかとなった。
著者
森田 勲
出版者
北海道大学大学院教育学研究科
雑誌
北海道大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13457543)
巻号頁・発行日
no.97, pp.27-39, 2005

本研究の目的は,自重を中心とした筋力トレーニングが豪雪地で暮らす高齢者の身体資質に与える効果について検討することである。23名の男性高齢者(65.6±5歳)と28名の女性高齢者(64.1±5歳)に対し筋力レベルの向上を目指すための,スクワット,シットアップおよびプッシュアップなどの自重を中心としたトレーニングを週に2回のペースで4ヶ月実施した。トレーニング期間の前後で握力,脚伸展パワー,6分間歩行およびショベルパワーテストの測定を全被検者に対して行ったところ,男性高齢者における6分間歩行および両グループの脚伸展パワーの値に1%水準の有意な変化がみられたほか,両グループのショベルパワーテストの値で5%水準の有意な変化がみられた。しかし,コントロールグループでは有意な変化はみられなかった。また,すべてのグループでショベルパワーテストと脚伸展パワーとの間に有意な相関がみられた。これらの結果から,本研究で用いた自重を中心とした筋力トレーニングプログラムが除雪能力や脚パワーの向上に役立ち,豪雪地で暮らす高齢者の日常生活における身体負担の軽減や不活動性に対して効果を発揮することが示唆された。
著者
亀野 淳
出版者
北海道大学大学院教育学研究科
雑誌
北海道大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13457543)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.103-112, 2006-06-30

フィンランドは,90年代前半の低迷を脱出し,順調な経済発展をみせている。特に,IT を中心とする産業・雇用創出が顕著であるとともに,国際競争力などにおいても世界トップレベルである。この要因の一つとして,多様な高等教育における人材育成のあり方によるところも大きいと考える。本論文では,同国で実施したインタビュー調査をもとに,人材育成における高等教育機関の役割,高等教育機関と企業,産業界の関係等について考察した。その結果,アカデミックな大学に加え実務的なPolytechnicの存在,柔軟なMBAコースの運営,学生(労働者)が教育機関と企業を行き来することによる高等教育機関と企業,産業界の連携の強さなどによるところが大きいと考えられる。
著者
松井 尚子
出版者
北海道大学大学院教育学研究科
雑誌
北海道大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13457543)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.237-250, 2006-06-30

乳幼児の「自己」形成の問題は,他者との関係性をはじめとする,自己および他者表象など,発達上の根幹的な事柄を含む問題である。又この問題は,発達・療育相談の場においては極めて日常的な課題として立ち現れてくる。本論文では,ダニエル・スターン(Stern, D.)とアンリ・ワロン(Wallon, H.)の自己感,あるいは自我意識に関する論考を読み取りの手がかりとしながら,この問題への接近を試み,6ヶ月から3歳後半までの乳幼児の日常的なエピソードを「自己」意識の観点から検討し,日常場面の捉え直しを仮説的に提起した。最後に,スターンとワロンの論考を,乳児像の捉え方,関係性の捉え方,表象の問題の,3つの観点から比較検討した。
著者
青木 紀
出版者
北海道大学大学院教育学研究科
雑誌
北海道大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13457543)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.105-126, 2005-12-20

「小さな政府」が目指されようとしているわが国で生起してきているのは,これまでにはあまり社会問題としては取り扱われてこなかった「格差社会」「二極化社会」形成の現実である。この事実は教育社会学でも取り上げられてきている。しかし,教育費負担をめぐる不平等については,まだ正面切って議論されているとはいいがたい。そのことはまた,わが国の学校教育費をめぐる私費負担の割合はOECD 諸国の中でもとりわけ高いことに気づきつつも,その理由をめぐる分析はほとんどなされていないことと重なり合っている。本稿では,家族の「教育戦略」の根幹でもある教育費調達に焦点を当て,とくに貧困・ 低所得家族を対象に分析する。そこから浮き彫りになってくるのは,日本の教育費負担における「家族主義」の強固な存在である。このことを議論の俎上に載せることが,今後の教育社会学の大きな課題である。
著者
三好(橋本) 道子
出版者
北海道大学大学院教育学研究科
雑誌
北海道大学大学院教育学研究科紀要 (ISSN:13457543)
巻号頁・発行日
vol.98, pp.1-35, 2006-06-30

これまで,表情認識に関わる研究のほとんどは静止画像を用いて行われており,動きを伴う表情変化の処理については詳しく検討されていない。本研究では,事象関連脳電 位(ERPs)を指標とし,表情の動きの知覚を誘発する表情変化に対する電位反応を測定した。その結果,真顔から笑顔への表情変化に対しては,刺激の物理的変化量の違いや選択的注意を向けるか否かに関わらず,N 170成分がより陰性にシフトした。さらに真顔から怒り顔への表情の変化に対しては,真顔から笑顔への表情の変化と比較して,より早い潜時帯から電位の陰性のシフトが生じることが示された。N 170は顔認識過程における最も早い知覚処理段階を反映し,静止画表情に対しては感度がないことが示されていることから,静止画表情と比較して表情変化の処理が促進されること,さらに脅威信号となる真顔から怒り顔への表情の変化に対しては,より迅速な処理が行われることが示された。