著者
徳 江 順 一 郎
出版者
学校法人 東洋大学現代社会総合研究所
雑誌
現代社会研究 (ISSN:1348740X)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.16, pp.31-40, 2018 (Released:2019-10-31)

わが国のホテルは、明治時代に導入されたのち、第二次世界大戦後までは特別な存在として静かに成長を続けた。1960年代になると、日本の経済発展と、観光の大衆化や生活の洋風化などとあいまって、ホテルは急速に発展していくことになる。この成長期においては、シティホテルとビジネスホテルという大きくは二段階の分類で市場対応をすることで拡大する需要に応えていた。しかし、 1990年代以降には状況が大きく変わり、成熟期に入ったと推測される状況となっている。 この状況で、増加しているホテルの多くはいわゆる海外ブランドのホテルばかりである。これは、成熟期に入ってからの特に製品・サービス面やブランドにおけるイノベーションが、わが国ホテル企業にはあまりなされなかった結果であると推測される。 2000年代以降の東京のホテルが多様性を増していることは既に2016年度の本研究所ワーキングペーパーにおいて論じた。そこで、その前提となるイノベーションは宿泊産業においてどのような形で生じてきたか、本研究でまとめたい。
著者
中 野 剛 治 大 原 亨
出版者
学校法人 東洋大学現代社会総合研究所
雑誌
現代社会研究 (ISSN:1348740X)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.16, pp.41-50, 2018 (Released:2019-10-31)

本研究は、イノベーションの社外活用を促進する市場を拡大しようとするオープンイノベーション(Chesbrough, 2003)なる現象の中で、ベンチャー企業と大企業のマッチングがどのような要件の下で成立するのかを、日本におけるオープンイノベーションイベントの先駆的取り組みであるイノベーション・リーダーズ・サミット(以降ILS)に参加したベンチャー企業ならびに大企業に対するアンケート調査から明らかにするものである。本研究では、ベンチャー企業と大手企業とのユニークな組み合わせであるマッチングリクエストを対象に、マッチングの成立・不成立に影響を与える大企業の属性およびベンチャー企業の属性を確認した。分析の結果、ベンチャー企業と大手企業の協業関係の構築において、大手企業の経営トップの関与の必要性、大手企業の経営陣とベンチャーキャピタルとの情報交換の在り方、ベンチャー企業の製品・サービスの開発段階がそれぞれ影響していることが明らかになった。
著者
伊藤 祥子
出版者
学校法人 東洋大学現代社会総合研究所
雑誌
現代社会研究 (ISSN:1348740X)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.16, pp.5-14, 2018 (Released:2019-10-31)
参考文献数
20
被引用文献数
1

本稿の目的は、流通過程の情報化の現状を整理することである。情報化の中でもインターネットの登場は流通過程における情報流に多くの変化をもたらした。それらについての部分的な研究は数多くあるが、それらを俯瞰して、また近時の問題点を含んで論じているものは少ない。したがって本稿はその全体像を描くことを目的としている。 その方法として、まず情報流の概念を再考しながらインターネット登場後の情報流の変化を跡づける。そこでいくつかの問題点、特にパーソナルデータに関するものを指摘する。そして情報と制御の流通理論を参照し、今日の流通過程におけるICTによるデータ流通の拡大やそれを利用したマーケティング、あるいは市場メカニズムの高度化を明らかにする。結論として、消費者の情報が市場の制御域で拡大していることが示され、そのことの意味も明らかにされる。
著者
鈴 木 孝 弘 田 辺 和 俊
出版者
学校法人 東洋大学現代社会総合研究所
雑誌
現代社会研究 (ISSN:1348740X)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.16, pp.15-22, 2018 (Released:2019-10-31)
参考文献数
18

高齢化率が年々高まるわが国にとって社会保障費は増大の一途であり、その削減対策の一つとして地方自治体は健康寿命の向上に努めている。健康寿命の要因を解明するために、都道府県別の健康意識格差解明の実証分析を試みた。『国民生活基礎調査』の「日ごろ健康のために実行している事柄は何か?」という質問に対して「特に何もしていない」と回答した人の比率を健康無関心率とし、その数値を目的変数に用いた。説明変数には、医療・福祉、経済・労働、教育、人口・世帯、自然環境の5分野の40種の社会経済的要因を用いて、サポートベクター回帰を適用して健康意識格差の要因解明を行った。その結果、無関心率を統計的に有意な精度で再現できる12種の決定要因が得られ、特に運輸郵便業等の産業別就業率の影響が非常に大きいことが明らかになった。また、産業別の就業率と仕事時間、残業割増金が決定要因となったことから、最近、社会問題視されている長時間労働が多い業界における過労死の原因の可能性が示唆される等、これまで見出されていなかった新たな知見が得られた。さらに、無関心率が国内で突出して高い青森県について健康意識改善策を検討し、提言を試みた。
著者
武 市 三 智 子
出版者
学校法人 東洋大学現代社会総合研究所
雑誌
現代社会研究 (ISSN:1348740X)
巻号頁・発行日
vol.2018, no.16, pp.23-30, 2018 (Released:2019-10-31)
参考文献数
20

2000年に制定された「循環型社会形成推進基本法」では、循環型社会の実現には3R(リデュース、リユース、リサイクル)が重要であり、その優先順位はリデュース、リユース、リサイクルであると定められている。しかし、リサイクルに比べて、リデュース、リユースは遅れていると言わざるを得ない。ところが、ここにきて、カーシェアリングやオンライン上でリユース商品を簡単に交換できるアプリケーションなど、2Rを推進する新しいビジネスモデルが普及してきた。これらの新しいビジネスモデルは、直接的に環境問題を解決しようとしたものではないかもしれない。しかし、モノを所有せずコトを消費するという新しい消費スタイルを促進するシェアリング・エコノミーは、社会を循環型社会に向かわせているといってよいだろう。本稿では、シェアリング・エコノミーが発展してきた背景には、情報化社会の進展と消費スタイルの変化があることを明らかにし、さらにシェアリング・エコノミーのなかでも特にリユースを促進する際に用いられる循環型チャネル・ネットワークが、マテリアル・リサイクルのみを念頭に置いたそれとは異なることを論じている。