著者
川崎 涼子
出版者
医学書院
雑誌
保健師ジャーナル (ISSN:13488333)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.433, 2018-05-10

本書を読めば多変量解析の手法だけではなく,統計学としてデータを扱う際の基礎的な考え方や,データの扱いといったプロセスをよく理解できる。近年,多くの看護学研究において多変量解析が用いられているが,その基本的な考え方や手法が非常に明快に記載されている。 まず,第1章では,変数となるデータの種類を踏まえてデータの分布,代表値について丁寧に述べられており,初学者には特に貴重である。
著者
岩室 紳也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.550-557, 2020-07-10

未知ゆえの苦難 2019年12月に中国武漢市で流行が始まったとされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19:coronavirus disease 2019)。原因が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2:severe acute respiratory syndrome coronavirus)2)であることが明らかになる中で,保健医療福祉の現場の皆様は未知ゆえの苦難に疲弊しつつも,対応に奔走し続けられているのではないでしょうか。新型コロナウイルスが流行し始めてから数か月,この原稿を入稿してから1カ月半,状況は刻々と変わっていることでしょう。 今回,筆者は公衆衛生医,臨床医として,HIV/AIDSをはじめさまざまな感染症に関わってきた経験から,新型コロナウイルスとどう向き合えばいいのかを考え続け,ホームページ*1やSNS*2で発信し続けてきました。
著者
相田 潤 近藤 克則
出版者
医学書院
雑誌
保健師ジャーナル (ISSN:13488333)
巻号頁・発行日
vol.63, no.11, pp.1038-1043, 2007-11-10

歯科疾患の社会への負担は,一般に思われているよりも大きい。おもな生活習慣病の国民医療費(2004年度)の金額1)をみると,悪性新生物や糖尿病の医療費はそれぞれ2兆3306億円,1兆1168億円に上る。しかしながら,歯科疾患の医療費(2兆5377億円)は,それらをも上回っている。がんや糖尿病と比較して生命に関わる重篤度は低いが,罹患率が非常に高いため社会にとっては大きな負担となっている。 この歯科疾患にも,社会経済的あるいは地域的な格差がある。そして,科学的根拠があり,健康格差の抑制効果が期待できる予防方法もすでに確立している。 そこで今回は「『健康格差社会』への処方箋―番外編」として,「歯科疾患における健康格差とその対策」を取り上げる。ここでは歯科疾患のなかでも,「う蝕(虫歯)」を中心に話を進めていく。その理由は,歯が抜ける原因を調べた最新の調査結果2)で,う蝕とその続発症による抜歯が43.6%と,歯周病の37.1%よりも多いからである。
著者
木村 哲也
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.44-48, 2021-01-10

日本では,長年にわたりハンセン病隔離政策が行われ,患者・回復者および家族は偏見と差別によりさまざまな人権侵害を受けてきた。この政策に現場の行政保健師がどのように関わったのかを,高知県の保健師への聞き取り調査による証言を基に紹介する。また,それを受けて,差別・偏見を解消するために必要なことや,公衆衛生の専門職として持つべき視点を述べる。
著者
白井 正夫
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.86-87, 2019-01-10

JR横浜駅西口の繁華街。まだ明るい時刻なのに,会場のホテルがどうにも見当たらない。歩き回ったあげく,通りのコンビニエンスストアに飛び込んだ。手のすいた男の店員さんがいたので,「すみませんが…」と道を尋ねたら,アジア系の若者だった。 若者は困った老人に親切だった。自分のスマホでホテルを探し出し,画面を見せながら流ちょうな日本語で説明してくれたが,地図が英語版なのでよく分からない。
著者
村中 峯子 中板 育美
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
2013-12-10

はじめに 日本看護協会では,2013年7月,事務局組織を改編し,事業局健康政策部に「保健師課」を設けた。国際的な保健師ネットワークの構築については,中板育美常任理事を担当理事とし,本会内国際部との連携のもと,健康政策部(保健師課)が事務局を所掌している。 日本看護協会は,これまでも積極的に国際的な保健師ネットワークの構築に取り組んできた(表)。その目的や意義を,本年8月にアイルランドで開催された第3回国際公衆衛生看護会議の結果を踏まえて概観する。 日本看護協会(会員約67万人:以下,JNA)は,国際看護師協会(以下,ICN)のネットワークに,新たに国際的な保健師ネットワークを設立することをめざして,各国に呼びかけ,ICN2009年南アフリカ大会,2011年マルタ大会で保健師のネットワーク化のためのセッションを開催してきた。さらに昨2012年8月27~29日には,東京と仙台で「国際保健師ネットワークPre Conference」を開催(本誌2013年1月号参照)し,本2013年5月に開催されたICNのメルボルン大会でも,ネットワーク設立賛同国関係者らと意見交換をするなど,積極的に取り組んできた。 このたび,第3回国際公衆衛生看護会議が2013年8月25~27日の3日間,アイルランドのゴールウェイ大学で開催されるにあたり,JNAから国際担当で保健師関連の担当である中板育美常任理事と健康政策部担当の筆者が参加した。
著者
野口 緑
出版者
医学書院
雑誌
保健師ジャーナル (ISSN:13488333)
巻号頁・発行日
vol.73, no.11, pp.903-909, 2017-11-10

受療行動促進モデルによる保健指導プログラムの内容と展開におけるポイントを解説する。また,自治体における効果検証として,医療機関への累積受療率を分析するとともに,本モデルの促進条件および阻害条件に関する介入自治体の保健師へのフォーカス・グループ・インタビューの結果を紹介する。
著者
古野 真実子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
2019-10-10

はじめに 取り組みの背景 静岡県伊豆の国市は伊豆半島の付け根に位置している(図1)。2019年4月1日現在,高齢化率:32.6%(地区幅:25.5〜52.6%),65歳以上ひとり暮らし世帯率:18.2%,高齢者のみ世帯率:31.5%,高齢者に占める要介護認定率:13.9%で,65歳以上の12人に1人は認知症(介護認定を受けて把握している者のみ)である。 また,1つの市とはいえ,市街地・中山間地・山間地と区分けられ,人口・産業・移動問題と地域課題が地区により分化されている特徴がある。そのため,地区課題は市内51地区(住民自治組織単位)により全く異なり,個別性を持った対策が各地区単位で必要となっている。 静岡県伊豆の国市では,地域コミュニティ再生のきっかけとして,市内に「手づくりベンチ」を設置するベンチプロジェクトを進めてきた。「地域の見守りの目の発掘」やベンチの製作者と活用者との出会い・交流も意図したこの取り組みを紹介する。
著者
香西 真由美 石山 美香 朝倉 理映 森 寿々子 池内 明子 越田 美穂子
出版者
医学書院
雑誌
保健師ジャーナル (ISSN:13488333)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.406-412, 2014-05-10

はじめに 社会情勢の変化や制度・法改正などにより,保健師の業務は,20年前の3~4倍の事業が国から移譲され,業務量は増大するとともに,虐待・健康危機管理・生活習慣病などの健康課題の対応により高度な専門能力が求められるようになっている。また,近年は,団魂の世代の退職による保健師業務の継承が危惧されることから,次期を担う保健師の人材育成が大きな課題となっており1,2),高松市(以下,本市)でも,2010(平成22)年度から保健師の技術習得に焦点をあてた新人教育に取り組んでいる3)。 本市は香川県のほぼ中央に位置し,南は讃岐山脈,北は瀬戸内海に向かって讃岐平野が広がる温暖な気候で,1999(平成11)年4月,中核市に移行し,2005(平成17)年度には周辺6町と合併し,2012(平成24)年4月1日現在の人口約42万人,世帯数約17万8000の市である。 1999年4月に中核市となり,保健所と市町村機能を合わせもったことで,保健師の配置部署が増加した。さらに,2006(平成18)年度には地域包括支援センターが保健所内に設置され,2012年4月1日現在保健師の配属部署は8か所となり,保健師総数(正規職員)は90名となっている。とくに保健センターの保健師は20~30代が多く,平均年齢は37.6歳で,2011年度の産後・育児休暇取得者は55名中11名と20%を占め,休暇者のフォローが大きな課題となっていた。 このようななか,出産した先輩保健師の見舞いに訪れた後輩保健師が,「沐浴や乳房ケアの指導に自信がない」と言うのを聞いて,その先輩保健師が,「自分の子どもを沐浴の練習に使ってくれたらいい。授乳中のおっぱいに触ってみたらいい」と答えた。この会話をきっかけとして,先輩保健師から新人保健師への技術研修の提案が生まれた。 そこで,実態把握のため,入職後2年目までの新人保健師11人に対して,沐浴・乳房マッサージの技術習得状況のアンケートを実施したところ,学生時代の実習経験だけでは指導に自信がない者が多いことがわかった(表1)。 この結果をもとに,産後・育児休暇中の先輩保健師(以下,先輩保健師)の協力を得て,沐浴・乳房マッサージの技術研修(以下,研修)を実施し,その効果評価と課題を明らかにすることを目的に調査を行った。これらを明確化することは,新人保健師の教育プログラムの質の向上とともに,休暇中の保健師のフォローへの示唆が得られるという意義をもつと考えるので報告する。
著者
後藤 拓
出版者
医学書院
雑誌
保健師ジャーナル (ISSN:13488333)
巻号頁・発行日
vol.72, no.9, pp.752-757, 2016-09-10

「妊娠から出産,子育てまでの切れ目ない支援」が全国的に求められている現在,母子保健行政に期待される役割は大きい。母子保健行政の指標の1つとして乳児死亡率があり,厚生労働省の調査では,2013(平成25)年には出生千対2.1(1947[昭和22]年は同76.7)となっている。このような状況で,「母子保健が世界一の水準にあるのは,戦後の公衆衛生活動の成果であることは疑う余地がない」1)と言われている。 一方で,母子保健行政の課題は児童虐待,発達障害,思春期保健等の広範囲にわたっており,児童福祉部門や教育部門等の他の行政部門との連携も重要である。しかし,その取り組みにおいては「保健が『児童虐待は福祉の仕事であり,福祉主導の方針に受身的に役割を果たす』立場をとることでは済まなくなっている」2)とも言われている状況である。また,地方分権の流れとして,2013年の母子保健法の改正により,基礎自治体が母子保健行政の全面的な実施主体となっている。